181.再考篇:起承転結を作成する

 今回は「起承転結」です。

 前回の「企画書」と「主人公がどうなりたい」から「主人公がどうなった」を組み合わせると「起承転結」の基本的な形が出来あがります。





起承転結を作成する


 日本でよく用いられる文章構成に「起承転結」があります。

 前回述べた「企画書」は「誰(主人公)がなにをする話」なのかを表したものです。

 これは「主人公が」は「起」、「(どのようにして)なにをする」は「転」に当たります。これだけだと「承」と「結」が足りません。今回はそこを埋めます。




私の創作手順

 私は基本的に「企画書」である「誰(主人公)がなにをする話」なのかを無意識のうちに選択していました。

 そこに「どのようにして」を入れます。それをもとに「主人公がどうなりたい」から「主人公がどうなった」までをつなぐ物語を構想していたのです。

 これはある程度本数を書いてきたからできることなのかもしれません。

 本コラムの読み手の方から「ある種の才能がある」のか「行き当たりばったり」なのかとご指摘を受けたこともあります。

 そこで前回はまず私が無意識に行なっていた「主人公が何をする話」+「どのようにして」という小説を書く出発点を明文化してみました。

 今回は「主人公がどうなりたい」から「主人公がどうなった」までをつなぐ話という、私が意識して行なっている部分の雛形をもう一度書くことにします。




四部構成

 基礎篇の際に「主人公がどうなりたい」から「主人公がどうなった」までをつなぐと書きました。実は「主人公がどうなりたい」が「承」、「主人公がどうなった」が「結」に当たるのです。

 私は意識的には「主人公がどうなりたい」から「主人公がどうなった」までを書いて物語を作っていたつもりでした。ですが、他の人から見れば「起承転結」の揃った四部構成が先に確立されていたわけですね。

 ここからは私の創作術の一例になります。

 まず「企画書」で示された「主人公」は最終的にどうなりたいのでしょうか。それを導き出すために、舞台を確定させる必要があります。




舞台はどこでいつなのか

 主人公はどこにいるのでしょうか。そして物語の舞台はどこになるのでしょうか。

 日本だとしても東京・名古屋・大阪・福岡・仙台・札幌など候補地は無数にあります。

 また海外かもしれません。アメリカ・イギリス・フランス・ドイツなど欧米であったり、アジア・アフリカ・オーストラリアなどそれ以外の国である可能性もあります。

 ですが今回の物語の舞台が地球である必然性はありますか。

 地球から遠く離れた有人惑星にいるかもしれませんよね。その場合はSF小説になります。火星をテラフォーミングしたとか、数十光年離れた惑星が舞台という小説もあるはずです。田中芳樹氏『銀河英雄伝説』のように銀河にまたがる壮大な物語もロマンがあっていいですよね。


 またライトノベルではおなじみの「異世界」はどうでしょう。「剣と魔法のファンタジー」での勇者譚であれば自動的に「異世界」になります。現代社会において魔法は存在しませんからね。

 ドラゴンやフェニックスが出てくるのならやはり「異世界」ですよね。こちらも現代社会に存在しませんから。

 古代中国の神話では玄武・朱雀・白虎・青龍・麒麟などの神獣が出てきますし、日本には土着宗教として水龍・雨龍・雲龍など龍が長く信仰されており、今でもその名残りが各地の祭りに反映されています。


 このように物語の舞台は「企画書」を決めた時点である程度確定しているのです。日本の一地域、世界規模、地球外であったり、異世界であったり。もちろん現代社会に「魔法」を持ち込んだり「ドラゴン」を登場させたってかまいません。

 その場合は「現代ファンタジー」の「フィクション」として一括りにします。たとえば東宝『ゴジラ』『モスラ』、円谷プロダクション『ウルトラマン』、石ノ森章太郎氏『仮面ライダー』など舞台は日本であっても登場するのが非現実的な存在です。

 だから一律に「現代ファンタジー」の「フィクション」と称しましょう。


 私が投稿している『暁の神話』は古代中国のように、剣や槍や弓などを用いた戦を行なう設定です。その大陸は現実には存在しませんから「他の有人惑星」か「異世界」が舞台だろうなと思わせます。魔法の存在もほのめかしていますからSFの「他の有人惑星」という選択肢がなくなって「異世界」が確定するといった具合いです。


 主人公がどこにいるのかが決まりました。ではそれはいつの時代の話でしょうか。

 ほとんどの小説は執筆された当時が当てはめられています。だから小説は「時代を写す鏡」とも呼ばれるのです。現代が多いのは取材で資料を集めやすい点にあります。時代考証を考えなくても今書き手が過ごしている現代ならいくらでも書けるのです。

 もちろん歴史を舞台にしてもかまいません。その場合は「歴史小説」「時代小説」というジャンルになりますし、時代考証も当然必要になってきます。

 時代考証を無視した「歴史小説」「時代小説」というのもあるのです。その場合は「歴史フィクション」ということになります。ゲーム世界では「歴史if」とも呼ばれるものです。

 仮想の未来を舞台にする場合は「SF小説」になります。


「異世界」であっても歴史は存在するはずです。「異世界」の神話時代の話、伝承が残っている頃の話、数十年前の話、もちろん現代の話もありえます。

「異世界」であれば未来を舞台にしても現実世界と違う「異世界」なので未来を表しづらいという弱点があるのです。だから「異世界」の未来ものは「異世界」の現代ものと読み手に見なされてしまいます。


 私が投稿している『暁の神話』はレイティス王国を中心とした大陸東部で起こった「神話時代」のお話という設定です。タイトルにあえて『神話』と付けたのはそこに由来しています。

 そして続編は現在構想中の『戦記(仮)』より40年前の『伝説(仮)』として定義しています。あえて『神話』から時間を長くあけることで『暁の神話』が「神話」の世界なんだという意味合いを持たせているのです。




主人公がどうなりたい

 主人公の設定から舞台が確定したら「主人公がどうなりたい」か、つまり「起承転結」の「承」を考えます。舞台を活かした「主人公がどうなりたい」を探すのです。

 このとき「企画書」の「誰(主人公)がなにをする話」なのかを明確にしたことが参考になります。

 現代日本のとある高校が舞台で「企画書」が「主人公が意中の異性と結ばれる」恋愛小説に設定したのなら必然的に「意中の異性と結ばれたい」という希望がありますよね。なぜその特定の意中の異性と結ばれたいのかを書くのも「起承転結」の「承」に当たるのです。

「サッカー部で日本一になる」スポーツ小説なら「サッカー部で日本一になりたい」という希望があります。

 このように前もって「主人公がなにをする話」なのかが決まっていれば「主人公がどうなりたい」という項目は「なにをする」に直接つながっていくのです。だから「企画書」をあらかじめしっかりと決めておくことがたいせつになります。


 拙著『暁の神話』なら「主人公ミゲルが戦乱を平定したい」という意志を強く持っているのです。でも平和な世の中において万人ウケはしませんけどね。




主人公がどうなった

「企画書」で決められていた「誰(主人公)がなにをする話」なのかが決まれば、「起承転結」の「起承転」までは自動的に定まります。最後に「主人公がどうなった」つまり「起承転結」の「結」を決めましょう。


 勇者譚で「魔王を倒した」のなら、その後主人公たちや世界はどのように変わっていくのか。それを書いていきます。物語の余韻を漂わせるのです。

 これまで登場してきた人物たちはその後どうなっていくのでしょうか。主人公パーティーの中で結婚する男女がいたり、魔王とのバトルで深手を負って命の残りが少なくなってしまったり。

 主要な人物のその後はきちんと書ききりましょう。「このキャラのその後がわからないんだけど」と思われてしまうと読み手は勝手にその後を想像します。

 とくに連載小説ひとつの巻で書かれる終わりはきちんと登場人物のその後を書いておかないと、次の巻が始まるまでに読み手が勝手に想像していたその後と食い違いが生じてしまい不興を買うことがあるのです。


 恋愛小説「意中の異性と結ばれる」話であれば、告白が実ってその後どうなったか。恋仲になって将来結婚するのではと思わせる流れでもいいですし、進学を期に離れ離れになってしまうのもいいですね。たとえ進学先が違って離れ離れになっても「意中の異性と結ばれる」という物語の骨子は達成しているので問題ありません。

「誰(主人公)がなにをする話」なのかをきちんと描写してきたのなら、読み手は「この二人なら進学先が違うくらいでは別れない」と思えるかもしれません。逆に「進学先が違ってしまうとそのまま気持ちも離れてしまうかも」と思わせることもできます。


 戦争小説で「全国を統一した」のなら、その後世界はどう変わっていくのかを示すのです。古代中国で秦が初めて中国を統一した際、まず「度量衡」の単位と漢字を統一し、法学・兵学以外の書物の焼却が図られました。

 始皇帝が支配する中央政府が地方から徴税するにも単位がまちまちでは均一な量を集められません。漢字が異なっていると中央政府から地方へ指示を出しても正しい意味が伝わらないことになり、中央集権になりません。また儒学などが残ってしまうと民衆がそれになびいて謀反を起こす可能性もありました。

 だから秦が中国を統一する際に用いた法学と兵学以外の書物は焼却されたのです。これを「焚書坑儒」といいます。そんな秦は二代で滅び、次に中国を統一したのが劉邦を擁した漢でした。そのときはすでに秦が単位と言葉の統一と過激思想の排除をした後なので、すんなりと中国全土を治めることができたのです。

 そして秦が排除してきた各学派の再興を促し、武帝のときに儒学が国教と定められました。それにより漢は長期政権を築くことになったのです。

「異世界」であってもこれと同様のことが起こるはずです。単位と言葉の統一と過激思想の排除がなければ物流も会話も平和もままなりません。蛮族を平定してもやはり単位と言葉の統一と過激思想の排除が真っ先に行なわれるでしょう。直接支配するのが難しい蛮族であれば朝貢をさせることも忘れないでください。


 拙著『暁の神話』は「主人公ミゲルは戦乱を平定して連合政府の首班になった」で終わります。物語冒頭では中隊長であり第一章で将軍へ昇進、のち軍務長官となり、最後は連合政府の首班ですから「成長物語」であったといえますよね。ただ「三百枚」に無理やり押し込んでいるので成長が急すぎたかもしれません。これは帝国皇帝の軍略による点もあるため、一概にミゲルの成長が急すぎたとは言いがたいところです。

 連載小説にして分量を無制限にできればもっと書き込めると思うので、描写不足の点は改善できます。というか改善する気がなければ連載にする必要もないのですけどね。





最後に

 今回は「起承転結を作成する」ことについて述べました。

「企画書」で「起」と「転」、「主人公がどうなりたい」で「承」、「主人公がどうなった」で「結」が定まります。

 この雛形は「梗概こうがい」ともなり、「梗概こうがい」が強固であれば小説に入れ込む「エピソード」や「場面シーン」もブレにくくなるのです。



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