180.再考篇:企画を立てる

 今回は「企画書」について述べてみました。

 企業で使うものではありません。あくまでも「小説のための『企画書』」です。





企画を立てる


 小説を書くとき、まず書いておきたいのが「企画書」です。

 皆様がすでに社会人として企業に勤めておいでなら「企画書」という単語ひとつでかなり苦しめられていると思います。

 ですがご安心ください。小説の「企画書」はまったく難しくないのです。

「自分が好きなように書いていいはずだ」というのは書き手の勝手な思い込みにすぎません。

 実際には出版社の編集さんに「企画書」を提出して「これは面白そうだから書いてみて」「これは面白くないから書き直して」と指示されることが多いようです。

 それでは順を追って「企画書」を作ってみましょう。




「主人公がなにをする話」なのか

 まず決めなくてはいけないのが「誰(主人公)がなにをする話」なのかということです。


 勇者譚なら「魔王を倒す」「ドラゴンを倒す」「悪の根源を倒す」といったことを主人公がすることになります。ひじょうに単純明快です。

 それゆえにライトノベルにおいては勇者譚が一大潮流となっています。

 小説投稿サイト『小説家になろう』において単独ジャンル化している「異世界転生」「異世界転移」の多くが勇者譚であるのもそのためです。

 なぜそんなに人気があるのか。とくに考えなくても「なにをする」が明快だからです。

 日本の小説では栗本薫氏『グイン・サーガ』、水野良氏『ロードス島戦記』といった古くからあるジャンルです。

 ハリウッド映画のジョージ・ルーカス氏『STAR WARS』第4部〜第6部もルーク・スカイウォーカーの勇者譚と見ることができます。


 冒険小説なら「探し求めていたお宝を手に入れる」「秘境・未踏の地を見つけ出す」「目標としていた山に登頂する」といったことが主人公の最終目標になります。

 大航海時代を舞台にした作品やスティーブン・スピルバーグ氏『グーニーズ』など海外では一大勢力を誇りますが日本では数が少ない。

 宮崎駿氏『天空の城ラピュタ』のようなと言えばわかりやすいでしょうか。宮崎駿氏なら『となりのトトロ』も一種の冒険ものになっています。


 推理小説なら「トリックを見破って犯人を断定し自白させる」というものが王道ですね。

 サー・アーサー・コナン・ドイル氏『シャーロック・ホームズの冒険』シリーズ、アガサ・クリスティー氏『名探偵ポワロ』シリーズ、江戸川乱歩の『少年探偵団』シリーズ、横溝正史氏『金田一耕助』シリーズなど名作が数多くあります。

 もちろん邪道もあって「トリックを見破って犯人を断定したがすでに死んでいた」となれば意外性が高まりますよね。

 ありえないのが「トリックを見破れない」というものです。推理ものの王道を真っ向から否定しています。

 読み手にさんざん情報を与えたくせに探偵は犯人のトリックを見破れない。そこまで極端にするならいっそのこと犯人自体を見破れないなんてことをしてみるのも「あり」かもしれません。それら邪道の場合読み手が犯人を探し当ててしまいますけどね。


 恋愛小説なら「意中の異性と結ばれる」という明快な展開があります。

 他に「意中の異性と結ばれたいが友情をとって身を引く」という少しひねったものもあるでしょう。

「意中の異性と結ばれたいが死に別れてしまう」という設定もありえます。

 男性向けの恋愛小説は川端康成『伊豆の踊子』、2ちゃんねる発『電車男』など数少ない。

 男性向けの多くは渡辺淳一氏『失楽園』のような浮気もの不倫ものが多い印象です。スポーツ新聞や写真週刊誌などでは成人向け小説が連載されており、その流れで恋愛よりもポルノ小説が求められています。

 逆に女性向けで恋愛要素をいっさい廃した小説というものはあまりないのではないでしょうか。


 以上のように、「誰(主人公)がなにをする話」なのかを決めると作品のジャンルが定まります。もちろん複数をくっつけてしまってもかまいません。

 勇者譚+恋愛小説なら「魔王を倒して意中の異性と結ばれる」になりますよね。これは水野良氏『魔法戦士リウイ ファーラムの剣』、川原礫氏『ソードアート・オンライン』のパターンです。

 勇者譚+冒険小説なら「ライバルを倒してお宝を手に入れる」になります。これはマンガの鳥山明氏『DRAGON BALL』やマンガの尾田栄一郎氏『ONE PIECE』、ディズニー映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』のパターンです。

 他にもジャンルは山のようにあり「なにをする」話なのかも多岐にわたります。そしてその組み合わせも無数にあるので、小説は多様性に富んだ表現形式なのです。




どんな主人公なのか

 「主人公がなにをする話」なのかが決まったら、次はその「主人公」とはどんな人物なのかを決めていきます。

 初級の書き手だと「17歳・男子・高校生」「21歳・女性・大学四回生」「31歳・男性・フリーター」などの年齢や性別、所属・職業を決めるだけで済ませてしまう人が多いようです。でもそれだけではまだどんな人物なのか判然としません。

 家庭環境は、性格は、趣味・嗜好は、部活動・サークルは、組織のリーダーか下っ端かなど決めるべきことは実に多いのです。もちろん説明しなくてもいいものもたくさんあります。でもある程度主人公がどういう人物なのかがわかるようにしておかないと、第三者が「企画書」を見たとき、その企画がいいのか悪いのかが判断できません。

 たとえば家庭環境を「父子家庭二人暮らし」にして、性格は「陰気な雰囲気」を醸し出し、「卓球」が趣味で部活動をしている。

 となれば「父子家庭で父と二人きりで育った陰気で卓球に情熱を注ぐ17歳男子高校生の主人公」という具合いにします。どんな主人公か一文を読むだけでわかるのではないでしょうか。


 私が投稿している『暁の神話』から引いてみましょう。「幼い頃に両親と死に別れてとある将軍に育てられ士官学校に入り現在は中隊長を務めている橙色の髪と赤い瞳をしている、戦争であっても人を殺すことにためらいを覚える二十五歳の青年将校」が主人公です。




どのようにして

 こうして出来た主人公が、先に考えた「なにをする話」なのかを組み合わせれば「企画書」の雛形ができます。そこに「主人公が『どのようにして』なにをする話」なのかを明らかにしていくのです。


 水野良氏『ロードス島戦記』なら「ヴァリス王国の聖騎士だった父を持つ血気盛んで後先考えずに行動する主人公パーン」が「自らの意志をサークレットに封じ込めている”灰色の魔女”カーラを倒す」話が雛形になります。でもこれだけだとパーンが「どのようにして」カーラを倒すのかがはっきりしません。だからこの段階で面白い企画なのかどうか判断しかねます。

 そこで「どのようにして」を「激しい戦闘を繰り広げながら仲間がスキを見てサークレットを奪い取って」という過程にして書くのです。




三項目を組み合わせると企画書になる

 先に『ロードス島戦記』の雛形を作ったので、これを組み合わせていきます。

「ヴァリス王国の聖騎士だった父を持つ血気盛んで後先考えずに行動する主人公パーン」が「激しい戦闘を繰り広げながら仲間がスキを見てサークレットを奪い取って」「自らの意志をサークレットに封じ込めている”灰色の魔女”カーラを倒す」。重複しているところをすっきりした形に直せば、

――――――――

 ヴァリス王国の聖騎士だった父を持つ血気盛んで後先考えずに行動する主人公パーンが、激しい戦闘を繰り広げながら仲間がスキを見て自らの意志をサークレットに封じ込めている”灰色の魔女”カーラからサークレットを奪い取ってカーラを倒す。

――――――――

 という物語になります。これがそのまま「企画書」となるのです。

 ここに「主人公がどうなりたい」と「主人公がどうなった」を加えると「小説賞・新人賞」に応募する際の「梗概こうがい」が出来あがります。

 通常は「梗概こうがい」の状態が担当編集さんに見せる「企画書」です。


 主人公の属性をたくさん作ったり、「なにをする」をできるだけ詳しく書いたり、「どのようにして」を付け加えて「なにをする」を詳らかにしたりする。

 たったそれだけで物語の方向性が明確に視覚化されてワクワクできる小説になるのかが執筆前からわかります。

 これはマンガの大場つぐみ氏&小畑健氏『バクマン。』においてペンネーム亜城木夢叶の原作担当として活動する高木秋人シュージンが担当編集の服部哲に「こんな話があるんですけど」といくつか語って聞かせている場面を思い返していただければわかりやすいと思います。

 どんな背景を持つ主人公がどんなことをするのか。これだけを聞いて第三者である担当編集さんがワクワクしてこないようなら、どんなに巧みな筆致で書いたとしても面白くも楽しくもない作品にしかなりません。

 それは小説も同じです。もし可能なら小説投稿サイトにいくつか「企画書」をアップして「どの話が読みたいですか」と尋ねてみるのもいいかもしれません。コメントが付いたり、アンケートがとったりと反響がすぐにわかると思います。

 もちろん書き手として「企画書」をパクられる可能性を慮り「企画書」は公開したくないと考える方がいて当然です。

 その場合は身近にいる人に企画を話してみて「その話面白そうじゃん」という反応が返ってきたものを執筆対象にする手もあります。こちらならその身近にいる人が小説を書かない限りパクられる危険性も大幅に減らせるでしょう。





最後に

 今回は「企画書」について述べてみました。

「企画書」を作らなくても小説は書けます。ただし将来商業ライトノベルへの進出を考えている書き手の方なら「企画書」とくに「主人公がどうなりたい」と「主人公がどうなった」を加えた「梗概こうがい」は避けて通れません。

 最初に紙の書籍化をされるとすれば、現在小説投稿サイトに上げている小説になるでしょう。

 出版社と契約したら担当の編集さんが付きます。そうなると以降の創作活動は担当編集さんとの二人三脚になるそうです。

 書き手が「面白い」と思った「企画書」を書いても編集さんが首を横に振るようなら実際の執筆へ取りかかれません。

 もし強引に書いても紙の書籍化はされないと思ったほうがよいでしょう。どうしても書きたい「企画」なら紙の書籍ではなく小説投稿サイトへ投稿しましょう。うまくすれば他の出版社からオファーが来るかもしれません。

 すでにデビューしている書き手の新しい小説を無料で読めるわけですから、少なくとも作品の注目度は高まります。



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