178.再考篇:小説は成長物語

 今回は「小説は成長を記した物語」であることについて述べました。

 推理小説はどうなるのと言われそうなので少し書き込みをしています。





小説は成長物語


 突き詰めればどんな小説も「成長物語」です。成長という言葉をどうとらえるかでも異なってきますが。




主人公がどうなりたいからどうなったまでが物語

 私が小説で定義していることのおさらいをします。

「企画書」の段階で「誰(主人公)がなにをする話」かをまず確定しておくのです。そして「主人公がどうなりたい」から始まって「主人公がどうなった」で終わる起承転結を作ります。

 起承転結が決まればそこに「エピソード」「箱書き」「シーン」を書いていって空欄を埋めていくのです。

 何も考えずにノリだけで書き始めると必ず書けなくなるときが訪れます。

 連載小説で連載を落とすのは致命的です。いくら弁明しようとも挽回はできません。フォロワーさんが少しずつ減っていくのです。

 連載小説で連載をアップロードしなくてもよいのは「事前に明日から少し休みます。再開は何日からです」と書いたときだけです。


 まず主人公を冒頭から登場させなければなりません。登場させたら「主人公がどうなりたい」と思うようなエピソードを読ませるのです。

 小説はここまでが「書き出し」で明確になっている必要があります。


 水野良氏『ロードス島戦記』は主人公パーンが第一巻では「“灰色の魔女”カーラを倒す」話であり、最終的には「対になる存在」である“黒衣の騎士”アシュラムを倒す話なのです。

 そして「父のような聖騎士になりたい」と思い、最終的には「“ロードスの騎士”と呼ばれるようになった」で終わります。

 当初一介の村人であったパーンが“ロードスの騎士”と呼ばれる存在になったわけです。明らかに「主人公の成長」を描いていますよね。

 このようにとくに「主人公の成長」を描くのが小説なのです。


 田中芳樹氏『銀河英雄伝説』も主人公ラインハルト・フォン・ローエングラム上級大将が親友ジークフリード・キルヒアイス准将と子どもの頃に交わした「宇宙を手に入れたい」から始まり、アスターテ会戦の武勲により元帥へと昇進します。

 しばらくするとフリードリヒ四世が死んで皇帝の後継争いでリップシュタット連合軍が立ち上がるのです。

 ラインハルトは宰相リヒテンラーデ公爵と手を組んでリップシュタット連合軍を倒し、返す刀でリヒテンラーデ公爵一族を討伐して宰相の座に就きます。

 さらには擁立していた皇帝エルウィン・ヨーゼフ二世をわざと誘拐させて自由惑星同盟を討伐する理由を作り「ラグナロック作戦」を仕掛けて自由惑星同盟を降伏させ、銀河帝国の帝位に即くのです。

 そしてそこからが本格的に「宇宙を手に入れる」ための戦いが始まります。

 最終的にラインハルトは「宇宙を手に入れた」のかは読み手の感性に任されているのです。

 ですが「ラインハルトが宇宙を手に入れたい」から始まって「宇宙を手に入れた(ように見えた)」で終わります。

 上級大将から帝位までを見ても成長物語ですし、銀河のほぼすべてを手中にしたので目標もほぼ達成したと見てよいでしょう。




推理小説は成長するのか

 たとえば推理小説。

 殺害現場に到着した探偵はまったく何の手がかりも持たずにやってきます。

 そして現場で手がかりを探し、警察に関係者をリストアップしてもらう。関係者をひとりひとり訪ねてアリバイの確認をしていくわけです。

 それをもとにして推理し新事実をひとつずつ明らかにしていきます。

 そうやってあちこち足を運んでいって犯人のアリバイトリックを崩していくのです。

 真犯人が判明すれば関係者をひとところに集めて推理を披露します。そして真犯人が自供してジ・エンドです。

 まったく手がかりのなかった頃と真犯人を暴く頃とで、探偵は情報と推理を深めて成長させています。

 情報と推理が積み重なっていくからこそ推理小説は成り立つのです。

 探偵が難事件を解決すれば世に名前が知れますよね。知名度という点だけでも成長しているのです。




成長させないと読み手が離れていく

 人も同じです。人はさまざまな情報や経験を積み重ねて成長していきます。学校なんてその最たるものですよね。

 学科授業で情報を得て、試験や部活で経験を積みます。その過程を読み手に見せることが書き手には求められるのです。

 そのたいせつな成長の過程を飛ばすなんて小説としてありえません。

 なぜなら小説の読み手は主人公に感情移入しながら読むからです。

 読み手は主人公に感情移入して「主人公として」さまざまな情報や経験を積み重ねていきます。

 となれば読み手は擬似的に適宜情報を手に入れ出来事の結末を経験していくのです。つまり少なくとも読み手は小説を読み進めるほど成長していきます。

 それなのに感情移入している主人公が読み手の成長に追いついていないなんてありえるのでしょうか。

 もし書き手が主人公を成長させなかったら、それまで主人公に深く感情移入していた読み手は「不一致」を感じて主人公の体から弾き出されてしまいます。

 現実の夫婦も「性格の不一致」で離婚するのです。小説の主人公と読み手がそれまでどんなに親密であっても離縁します。

 これは揺るぎようのない事実なのです。




順調に成長させたくなければ

 どうしても成長させたくないのであれば、それなりの理由を読み手へ事前に読ませておいてください。


 渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の比企谷八幡はなぜ人間関係を築くのが下手なのでしょうか。

 その理由は前もって書いてありましたよね。書いてあれば読み手はその前提をもとにして八幡に感情移入していくのです。

 だから読み手本来の性格と八幡の前提が異なっていたとしても、物語を楽しんで読みます。

 れったくなって物語にそして八幡に惹き込まれる人が続出するのです。


 川原礫氏『ソードアート・オンライン』のキリト(桐ヶ谷和人)も生い立ちを読ませたことで人付き合いが下手な少年であることを示しています。

 そのためVRMMORPGにハマり込んで『ソードアート・オンライン』に囚われてしまうのです。

 そこまでを読ませてあるからキリトの行動は多くの読み手を惹きつけて感情移入を盛んにしました。

 そしてアスナとの出会いと別れ、そして再会とシステム上の結婚といったメインストリームだけでなく、他のプレイヤーたちとの人間関係が築かれていって「ひとりの人間として」成長していくことになるのです。


 賀東招二氏『フルメタル・パニック!』の相良宗介は幼い頃から戦場で育ってきた元ゲリラ兵であるために「戦争ボケ」しています。

 だからヒロインの千鳥かなめとの関係がどこかぎくしゃくしたものになったのです。

 最初のうちはまったくのスルー状態でしたけどね。


 この三作で明らかになったことがあります。

「成長を阻害させたければ阻害するに足る要素を前もって読み手に示しておく」ことです。





最後に

 今回は「小説は成長物語」ということについて述べてみました。

 二次創作は原典があるためにあまり成長させられないという弱点を有します。

 オリジナル小説(一次創作)であれば、主人公を成長させることが読み手を惹きつける主因になるのです。

 その成長度合いを左右するのは「阻害する要素」がどの程度のものかによります。



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