173.再考篇:行動するには動機が必要

 今回は「行動と動機の関係」について述べました。





行動するには動機が必要


 あなたはどんなときに行動しますか。

「体を動かそう」と思ったから運動を始めるというのはきわめて単純な行動原理です。

「こうすると利益がたくさん確保できそう」と思ったから投資をする。これも同様になります。

 この「〜しそう」と思ったから行動するタネが「動機」なのです。




動機

 登場人物に限らず人が行動するには「動機」が必要です。「動機」があるからこそ人は自ら動こうとします。

 あなたが「動機」もないのに行動するのは誰かから強制されているときくらいなのではありませんか。その場合でも、強制された行為を行なわないことで生ずるペナルティーを恐れて行動するものです。

 となれば「ペナルティーを回避したい」という「動機」があったと理解できます。

 やはり人が行動するには「動機」が必要であることがわかるのではないでしょうか。


 恋愛にたとえるなら「意中の異性に告白したい」というのが「動機」になります。




機会・状況

「動機」があることで人は「チャンスやタイミングがあったらやってみたいな」と思います。チャンスつまり「機会・状況」があれば行動しようという意欲が湧くのです。

 ではどのくらいの「機会・状況」が整えば行動に移ろうと思うのでしょうか。「機会・状況」が行動へのハードルになります。

「動機」が強ければ高いハードルもすんなり飛び越えるでしょうが、それほど強くもない「動機」であれば低いハードルすら越えられないのです。


 恋愛にたとえるなら「告白を切り出せそうなチャンスやタイミングが整えば告白しよう」と思うのが「機会・状況」になります。




行動

「動機」があり「機会・状況」が整ったらいよいよ「行動」に移します。

 登場人物に特定の「行動」をとらせようとしたとき「動機」と「機会・状況」が整っているかを確認してください。

 もしどちらも整っていないのであれば、あなたが人物にとらせようとしている「行動」はキャラの意志とは関係なくやらせることになります。

 つまりその「行動」には「脈絡がない」のです。


 読み手は脈絡のない「行動」を見たら、いかにも「物語の展開のために」行なわせているなと感じます。

 だから書き手は人物に「行動」させるのならまず「動機」と「機会・状況」を揃えて読み手に提示しておくのです。

「動機」があるから動きたいなと思いますし、「機会・状況」が整ったからよし動こうとなります。

 これを読み手にわかりやすく提示しておきましょう。


 恋愛にたとえるなら「意中の異性に告白する」ことが「行動」になるのです。




結果

 すべての「行動」には「結果」が伴います。人物が動けば何か成果があるものです。

 行動が成功する場合もあれば失敗する場合もあり、また引き続き動き続けなければならないこともあります。

 それら「行動」による副産物が「結果」なのです。

 恋愛ものは「意中の異性に受け入れられる」か「拒否される」か「まずはお友達から」なのか。「告白」に対する「結果」が必ず示されます。

 ですが「行動」はしたけど「結果を見せずにシーンを終える」という手法があります。つまり「結果」のわからない「謎」が残る終わり方です。本来なら「行動」したら「結果」も出ます。なのに「結果」を出さない。

「行動」で「意中の異性に告白」したのだけど「結果」を見せずにシーンを終えてしまうのです。

 主人公のこれからの人生を左右する「結果」が示されません。これは強力な「惹き」になります。

 早く続きを読んで「結果」を知りたい。そう思わせる力が「結果」にはあります。




変化

「結果」が出たらそれまでとは何かが異なっているはずです。何かが「変化」しています。

 次なる「動機」が強まるか弱まるか、「機会・状況」のハードルが高まるか低まるかするはずです。


 恋愛にたとえるなら「フラれたから別の異性を探そう」とするか「フラれたのだけどあきらめきれずに次の『機会・状況』が来るまで待とう」とするか。「告白が受け入れられたらこれまでは縁遠かった異性でも今後は身近な存在」になるはずです。

「別の異性を探す」のは「動機」そのものを挫折して別の「動機」を探すことになります。

「あきらめきれない」のなら「動機」は強まって「機会・状況」のハードルが高まるでしょう。

 もちろん「受け入れられた」のなら「動機」そのものが「愛され続けたい」に変わります。

「結果」が出たら何かが「変化」する。それが人の「行動」に対する最終的な状態になります。




宝くじにたとえると

 恋愛をたとえにしてきましたが、もう少しわかりやすく「宝くじ」にたとえてみます。

・動機:七億円を手に入れたい

・機会:宝くじ売り場で一等前後賞合わせて七億円のジャンボ宝くじが販売されている

・行動:宝くじを買う(連番で十枚買う)

・結果:連番で十枚買ったら三百円が当たった

・変化:一等が当たるまで書い続けようか迷う(「動機」が弱まって「機会・状況」のハードルが高まります)


 まず主人公には「七億円が手に入るとあんなことやこんなことができるな」という「動機」があります。


 そして「一等前後賞合わせて七億円のジャンボ宝くじ」が販売されていたら「宝くじでも買ってみるか」と思います。

「宝くじ売り場」に通りかかったときに「行動」を促すわけですから「機会・状況」ということになるでしょう。


 そこで宝くじを買うことにします。「行動」ですね。何枚買うのかは主人公の「動機」の強さと、「機会・状況」のハードルの高さによって変化します。

「当たらないと思うけど買わなければ当たることはないから」程度の「動機」と「機会・状況」なら連番で十枚だけ買う人が多いのではないでしょうか。「是が非でも当てたい」と強い「動機」の意志と、低い「機会・状況」のハードルであれば百枚でも千枚でも買ってしまうのが人間です。


 宝くじを買ったけど「結果」を調べないで放っておく人が結構います。億単位のジャンボ宝くじで未払い戻しの宝くじが毎回かなりの数発生するのもそのためです。

 ですが主人公が放っておくといつまで経っても「結果」がわかりません。

 物語の主人公であれば「放っておく」という手段はとれないと思ってください。ただし「結果」を先延ばしにする目的であれば可です。

 今回の「結果」は三百円が当たりました。つまり参加賞ですね。もちろん大当たりして七億円を手に入れてもかまいません。「結果」は物語の展開次第で決めましょう。


「結果」が三百円だったことを受けて、主人公は「これからも一等が当たるまで書い続けよう」と思うか「やはり当たらないからもう宝くじは買わないことにしよう」と思うか。つまり「これからも買う」のか「もう買わない」かの変化を求められます。

 もし「これからも買う」と意を決したのなら「動機」の意志が強まり、「機会・状況」のハードルが低まります。





最後に

 人物が「行動」するということはこの五ステップをたどることになるのです。

 五ステップを経ずして「行動」することはまずありません。強制されたとしても「ペナルティーが怖いから行動する」というのも立派な「動機」なのです。

 そして「結果」以降は次シーンに持ち越してもかまいません。

 読み手は「結果」を知りたがるものです。「結果」を持ち越すことで強力な「惹き」が生まれます。

 以上の点を理解していれば、人物を違和感なく動かすことができるようになるでしょう。



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