174.再考篇:小説は読んでもらうもの

 今回は「読んでもらうのが小説」というお話です。

 小説に限らずすべての文章には読み手が存在します。

 そこを意識しながら書きましょう。





小説は読んでもらうもの


 書き手の中には「小説を書くのが楽しいから書いています」とおっしゃる方が存外多いものです。

 でもそれって読み手のことをまったく無視していることに気づいていますか。

 小説に限らず、文章は読み手に何かを伝えたいから書くものです。

 小説やエッセイやコラム、歌集や俳句や川柳、企画書や論文やレポートなど、すべての文章は読む人がいるから書きます。

 読む人がいないのに書くのは「日記」の類いではないでしょうか。ですが「日記」でさえ「将来の自分」が読み手になっているはずです。誰にも読まれない文章などというものはまず存在しません。




読み手を想定するから伝わる

 読み手を無視して書きたいように書く。

 それでは「伝えたい」ことがまったく「伝わらない」文章になってしまいます。

 いくら文法が正しくて比喩表現が豊かであっても、文章からは何も感じないのです。これではあまりにももったいない。

「書くのが楽しいから書く」のはただの独り善がりです。

「読んでもらうために書く」

 文章の基準は万事こうなります。

 読んでくれる人がいるから小説を書くのです。その読み手に書き手が言いたいことを「伝える」ために書きます。

「誰かに読んでもらって伝えたい」ことがあるから書くのが小説という表現分野なのです。

「書くのが楽しいから書く」では誰に読んでほしいのかがまったくわかりません。結局ぼんやりとしていて誰の心にも響かない小説となり、数多の新規投稿作品の海に沈没していきます。




「○○とはなにか」が小説のテーマ

 あなたが書きたい小説の「テーマ」はなんでしょうか。

 もっとざっくばらんにいうなら「どんなジャンルの小説を書きたいか」を決めることがひいては「テーマ」を定めます。

 「生きるとはなにか」なら純文学、「恋とはなにか」なら恋愛小説。「強さとはなにか」ならバトル小説、「真相とはなにか」なら推理小説になります。

 世界を救うのなら勇者譚、未知なる世界を探検したいなら冒険小説。恐怖を与えたいならサスペンス小説やホラー小説になります。


 水野良氏『ロードス島戦記』なら主人公パーンが「父のような立派な騎士とはなにか」についての答えを探す話です。

 その答えは“ロードスの騎士”の二つ名が付けられたことで明らかになっていきます。

 でもこの答えにたどり着くまでに七巻を要しているのです。

 問いが高尚であるがゆえに説明しつくすにはそれなりの巻数が必要になりました。


 同じく水野良氏『魔法戦士リウイ』なら主人公リウイが「冒険者とはなにか」について答えを探し求めるのです。

 その答えは、国王リジャールの庶子であっても血筋に囚われない生き方ができる、という点に集約していきます。

 リウイがこの境地に至るまで九巻(外伝一巻を除く)を要しているのです。

 さらに続編の『魔法戦士リウイ ファーラムの剣』では世界を混沌に引きずり込む魔精霊アトンとはなにか。

 それを封じるために「ファーラムの剣」が必要だという単純明快かつ奥の深い作品に仕上げています。

 こちらも決着がつくまでに十一巻かかりました。

 やはり問いが高尚だから答えはすぐに見つからないという好例でしょう。


 ライトノベルの読み手でもおそらく読んだ方が多いだろうお笑い芸人ピースの又吉直樹氏『火花』なら「芸人の人間関係とはなにか」について書かれています。

 こちらは近刊ということもありネタバレしないよう詳しくは書けませんが、中編としてはそれなりにまとまった内容の小説です。


 未完ですがマンガの森川ジョージ氏『はじめの一歩』なら主人公幕之内一歩が「強いってなんだろう」ということの答えを探す物語です。

 殴り殴られの中に「強い」ということへの哲学が込められており、試合の緊迫感にスパイスをかけています。


 まず読み手を設定し、彼ら彼女らに「○○とはなにか」という「テーマ」を投げかけて興味を惹きます。

 そして三百枚でその答えを書ききれれば書き手として及第点です。

 読みきって読み手が「そうだよね」と納得してくれたら初めて満点がとれます。

 だから三百枚で勝負したいなら「○○とはなにか」はできるだけ具体的で身近な問題を「テーマ」に据えるべきでしょう。

 とくに「小説賞・新人賞」を狙うのなら、三百枚できっちり物語を完結させる技量が求められます。

 最初に提示された「○○とはなにか」が中途半端にしか判明していないのではダメなのです。




読み手が読みたがるテーマか

「○○とはなにか」という「テーマ」は読み手の興味を惹くものでなければなりません。

「書き手が書きたいこと」ではなく「読み手が興味を持って読んでくれること」が「テーマ」なら、放っておいても読み手が読んでくれます。

 もちろん「書き手が書きたいこと」イコール「読み手が興味を持って読んでくれること」なら申し分ありません。しかしそれはきわめて稀なケースです。

 とくに読み手の主要層が中高生であるライトノベルでは、書き手の年齢が高くなるにつれて「書き手が書きたいもの」と「読み手が興味を持って読んでくれるもの」との乖離が激しくなっていきます。




誰が読んでくれるのか

 前にも述べたことがありますが、ライトノベルの主要層は「中高生」です。

 であれば「中高生」が読みたくなる小説であることが求められます。

「中年でライトノベルを読んでいるけど、その場合はどうなるの」という疑問が出てきそうですね。

 その場合もあくまで「中高生向け」のライトノベルを「中年」が読んでいるのだと解釈すべきです。

「中高生」向けに書いたライトノベルが「中年」にもウケただけだと考えれば、特段「中年」を意識した語り口をしなくてもよくなります。

 主要層である「中高生」だけを考えて執筆し、発刊した結果「中年」も食いついてきた。その程度の考え方で問題ありません。


 もちろん文学小説やエンターテインメント小説(大衆小説)などでは主要層が異なります。

「中高生」向けに書けないから小説を書いてはいけないのか、とは考えないでください。

 文学小説は老年から中高生まで幅広い読み手がいますし、大衆小説もかなり幅の広い読み手層を持っています。

「中高生」とピンポイントで絞りこめるのはライトノベルくらいなものです。

 後は昔話や寓話などの絵本を好む「幼年期」と、偉人伝を読む「小学生」がピンポイントにアクセスしているケースになります。

 ライトノベルは「中高生」なら皆読んでくれるのか、というとそうでもないのです。

「異世界ファンタジー小説」が好きな人もいれば「恋愛小説」が好きな人もいます。

 全世代の読み手を満足させられる小説などなく、また全中高生を満足させられる小説もまたありません。


 読み手のターゲットをより具体的にするために「あるときまで味方だった者同士があることをきっかけに反目しバトルをする小説が好きな中高生男子」や「高校デビューをしてめぼしい異性を見繕っているような恋愛ものが好きな中高生女子」のように、ターゲットを絞り込めるだけ絞り込んだほうが、結果的にその周辺の読み手にもフォローされやすくなります。


 ターゲットを絞らないほうが大勢に読んでもらえそうですが、実際には絞り込んだほうが大勢に読んでもらえるのです。

 このあたりは小説投稿サイトでどんな「キーワード」「タグ」を付ければ読み手が増えるかを見ればわかります。

 どの小説投稿サイトもランキングに表示される作品の「キーワード」「タグ」を一覧できるので、どういうターゲットに絞り込めば読まれるようになるのかは自明です。

 ではどのジャンルの読み手をターゲットにすればよいのでしょうか。

 それは「書き手であるあなた自身が書きやすいジャンル」でかまいません。

 語り口は「中高生」にわかるように書くべきです。でもジャンルは書き手の得手不得手がとくに出やすい。無理して書いたジャンルの小説は読み手に一瞬で看破されます。

 そうなると「三流」の烙印を押されることになるのです。

 「三流」が嫌なら「書き手が書きやすいジャンル」を書くに越したことはありません。


 ライトノベルを書きたいけど「中高生」の読みたいものがわからない。それならライトノベルは書かないほうがいいのか。

 そう思う方も多いのですが、そこまで気にする必要はないでしょう。

 知人の「中高生」に読ませるつもりで書いてもいい。近所に中学校や高校があるのなら、そこに通う生徒に読ませるつもりで書いてもいいと思います。とにかく具体的に「中高生」を意識して書けばいいのです。

 想定する読み手と対話しながら、ここはわかりやすいですか、わかりにくいと感じませんか。読んでいて何か感じることはありますか。というやりとりを心のなかでしながら書いていくのです。そうすれば大失敗するような小説にはならないでしょう。

 でも知人に「中高生」はいないし、近所に中学校や高校もない。だからライトノベルを書けないと否定してくる人もいそうですね。

 ここまで駄々をこねるのはかなり偏屈な方ではないでしょうか。

 ならこちらから質問いたしますが、あなたは誰が読むライトノベルを書きたいのですか。最初から「中年」を狙ったライトノベルを書くのはかなり厳しい戦いを強いられます。


 「中年」を狙ったライトノベルは現にあるのです。ですがそれらは皆ネームバリューのある書き手の作品です。その筆頭がライトノベル黎明期から執筆を続ける水野良氏でしょう。

 今『グランクレスト戦記』という作品を書かれていますが、多分に「中年」を意識した内容になっています。(すでに完結しています)。

 ライトノベルではあるし、ライトノベルレーベルである富士見ファンタジア文庫での刊行となっていますが、新刊はなかなか平積みされず棚差しであることが多いのです。そして平積みされているのは中高生をターゲットとしたライトノベルになっています。


 田中芳樹氏『アルスラーン戦記』も連載期間が長いことから「中年」を狙った書き方がなされています。こちらは最終16巻が2017年12月15日発売とのことなので、心待ちにしている「中年」が数多いことでしょう。(すでに完結しています)。


 大御所ですらそうなのです。書き手として駆け出しのあなたがあえて「中年」という販路の狭いところで勝負する理由なんてありません。





最後に

 今回は「小説は読んでもらうもの」というテーマで述べました。

「小説を書くのが好きだから書きました」という小説は、書き手が主張したいことだけを一方通行で書いているにすぎません。

 読み手から来るはずのリアクションを想定していないからです。リアクションが想定できれば書き方も変わってきます。

 ライトノベルを書きたいのなら「中高生」を読み手に据えて、彼ら彼女らがわかりやすいように書くべきです。



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