168.連載篇:文章を高速で書く

 今回は「高速ライティング」についてです。

 頭の中にイメージがあるうちにできるだけ手早く文章化していくことを目指します。





文章を高速で書く


 小説は表現が重要です。

 しかし表現にこだわりすぎて筆が先に進まず、書きたい場面シーンが書けないのでは本末転倒ではないでしょうか。

 そこで「文章を高速で書く」必要が出てきます。




表現を気にせず一気に書き切る

「文章を高速で書く」とはどういうことでしょうか。

 まず小説にしたいと思っていた「書きたいセリフ」「書きたい行動」「書きたい結末」などを「表現を気にせず一気に書いて」しまうのです。

 そしてこれを目標にして、「あらすじ」を創って「箱書き」を決めたら「プロット」を書いていきます。

 もし「あらすじ」が浮かばなければ「企画書」である「誰が何をする話」なのかつまり「主人公がどうなりたい」「主人公がどうなった」から決めるとよいでしょう。基本的には「書きたい○○」をする話になると思います。

 「プロット」が完成したら、その「プロット」どおりにとにかく「表現を気にせず一気に書き切る」べきです。

 たとえば「僕は〜と思った。僕はそれはいけないことだとわかっている。でも僕は今それをしなければならない。」のように「僕」という単語が頻繁に出てきてもまったく問題にしません。そんなものは後から書き直せば済む話です。


 だから「拙い文章」でかまいません。頭の中にイメージがあるうちに「一気に書きあげて」しまいましょう。

 表現の拙さや表記の揺れがあっても意に介さないのです。ただし、この段階では推敲のことも考えて、規定された枚数よりもかなり多くの枚数を書いておきましょう。

 原稿用紙「三百枚」つまり十二万字が上限であっても十五万字や十八万字を目標にしてどんどん書いていくのです。

 文章の「ラフスケッチ」を書きましょう。それができてから主線起こしや着色が始まるのです。




規定の枚数や文字数に達しなかったら

 最後まで書き切ったのに規定の枚数や文字数に達しなかった。さてどうするか。

 描写を増して体裁を整えるのもひとつの手です。

 でもそれをやるとどう描写を「水増し」していいのかで時間がかかります。

 いかな文豪であっても「水増し」することほど時間をとられることはないでしょう。

 そのくらい「水増し」はたいへんな作業なのです。


 達しなかったのなら「箱書き」を追加して「エピソード」や「場面シーン」を増やしましょう。それによって「あらすじ」や「プロット」にも変更が生じます。整合性をとる必要があるのです。

 でもあなたには「高速で書き切る」スキルがあります。整合性をとるために関連する「エピソード」や「シーン」を書き換えるなんてたやすいはずです。

 もし「高速で書き切る」スキルがなかったら、文豪と同様に描写の「水増し」で懊悩してしまいます。

 でもあなたは文豪ではありません。彼らほど描写の「水増し」が巧みではないのです。

 それなら描写の「水増し」なんかせず、「エピソード」や「場面シーン」を増やして新たな状況シチュエーションを作ったほうがどれほどラクなことか。だから「箱書き」を追加して「エピソード」や「場面シーン」を増やすのです。

 増やした「エピソード」や「シーン」をこれもまた「高速で書き切って」ください。これでも足りませんか。

 足りないならまた「箱書き」を増やします。足りましたか。まだ足りない。ならもうひとシーン……。エンドレス・ストーリー。

 でも本来なら文字数があふれるくらいの「箱書き」を書いておくべきなのです。この点は「箱書き」と「仕上げ」を繰り返して「箱書き」ひとつで何千字または何万字書けるのかを把握していけば解決できます。つまり「数をこなす」ということです。

 その意味でも「高速で書き切る」スキルを活かした多作には意味があります。




規定の枚数や文字数を大きく超えられたら

 規定の枚数や文字数を大きく超えることができたら、ここから描写を巧みに変換していきます。

 皆様の中には「この段階であふれたエピソードやシーンは削ったほうがラクではないか」と思われる方もいるでしょう。

 先ほども申しましたが、足りなくなって描写を「水増し」する作業ほど手間がかかっても実りの少ない作業はありません。

 先にエピソードやシーンを削ってしまうと、その先で描写を巧みにしていった結果「文章がスリムになって応募要項を下回ってしまった」という事態が発生する可能性があります。

 私も実際『暁の神話』の初稿である『希望の灯』でそれを味わいました。そこで設定を追加してシーンを増やして「水増し」したのが『暁の神話』なのです。

 当然行き当たりばったりな修正作業ですから面白くもなんともありませんでした。ただの苦行でしかありません。

 だから断言します。「先に削ってはダメ」です。




描写を巧みにしていく

 ということで、描写を巧みに変換していくわけです。

 変換していく最中で「この一文、この一段は必要ないのではないか」と思われる部分が必ず出てきます。でもこの段階でそれを削除しないでください。

 描写を巧みに変換していく過程というのは物語にのめり込んでいる状態です。そのときの判断は「書き手」としての意識が最大限になっています。

 しかし「読み手」ならこの小説を読むのは初めてなのです。「書き手」として「要らない」と思っても「読み手」としては「入れてくれないと状況がわからない」一文、一段というものがあります。

 最初に「一気に書き切る」と書いた理由は「プロット」に忠実に書くことで「書き手」の意識を薄れさせる効果もあるのです。

 だからこそ描写を巧みに変換していく過程で「必要ないのでは」と思った一文、一段がのちの推敲で「必要だった」という結果にたどり着くことがままあります。


 描写を巧みにしていくこの過程で描写の修正があらかた終わるようにしてください。つまり「完成度の高い原稿にする」ということです。

 ここで頑張って頭をひねり、拙い文章が最大限魅力的な文章になるようにしていきます。

 やることは拙い文章を活き活きとした文章に生まれ変わらせることです。

 ベースとなる文章はすでに出来あがっています。だから先々の心配などせず、文章の分量の心配もせず果断に変換していくのです。

 そうやって生まれた文章には「一気に書き切った」ときの「勢い」がまだ残っています。

 そう、読み手が「ぐいぐい惹き込まれて先を読みたくなる」ような「勢い」があるのです。

 もし書き出しからあれこれ考えながら文章をひねり出していたらどうなったでしょうか。

 おそらく文章としては完成度が高くなると思います。しかし物語として「先が読みたくなる」ような「勢い」がまったく感じられないのです。

 当然そうなりますよ。一文一文頭を悩ませながらひねり出してくるのですから、文章の流れが詰まってしまうのです。この差は実に大きい。

 後からでは取り返しがつきません。だから「一気に書き切る」ことが重要なのです。

 小説投稿サイトには数多くの小説が掲載されています。その中で「先が読みたくなる」ような「勢い」のある作品は数少ないです。たいていが箸にも棒にもかかりません。その差は「勢い」の有無にあると思います。




勢いを重視する

 小説投稿サイトに掲載されている小説が必ずしも「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」を経ているわけではありません。

 ですが本コラムではこれらを経るように書いてあります。まぁ最初から「あらすじ」が書けるのなら「企画書」は要りません。

 これらは実際の執筆作業に入ったときに「表現を気にせず、文章を高速で書く」ことができるようにするためです。

 道筋がわかっていれば先々の展開は丸わかりなので、描写も先を見据えたものになります。

「伏線」だって「プロット」段階で仕掛けてあれば、張り忘れることもないのです。

「思わせぶりな描写」を意図的に仕込むことだってたやすい。

 昭和の文豪は貴重な紙を有効に利用するためあれこれ悩んでいました。

 しかしコンピュータが普及した現代を生きるわれわれは、ワープロ機能Microsoft『Word』、JUST SYSTEM『一太郎』、Apple『Pages』やテキストエディタなどでいくらでも推敲できる利点を手に入れたのです。これを最大限に活かしましょう。

 いくらでもやり直せて、いくらでも書き換えられます。最初はあえて拙い文章にして「一気に書き切り」、その後から巧みな表現に変換していくこともできるのです。

 そうやって書いた文章には「勢い」があります。「先が読みたくなる」ような「勢い」です。

 結果として同じ作品を書く場合でも、最初から巧みな表現に囚われていると「うまい」文章にはなりますが「勢い」のある文章にはなりません。

 後から「勢い」を加えるのはまず不可能です。

 先にどんなに拙くてもかまわないので「表現を気にせず、文章を高速で書く」ことに集中すれば「下手」ではありますが「勢い」のある文章になります。

 下手な文章は後からいくらでも巧みな表現に変換できるのです。

 変換しても「勢い」は残ります。

 つまり最終的に「うまくて勢いのある文章」に仕上がるのです。





最後に

 最後になって注意しておきますが、この工程を経てもなお分量が規定を大きく超えているはずです。巧みな表現に変換した結果、かなりの分量を削減できたはずですが、それでも相当余っています。

 次回はこれをどう「推敲」して分量を減らしていくか。そこに焦点を当ててコラムを書きます。



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