167.連載篇:続きが読みたくなる連載の区切り方

 今回は「連載の区切り方」のパターンを十一個挙げてみました。





続きが読みたくなる連載の区切り方


 小説を連載していると「できれば続きの話も読んでもらいたいな」と思いませんか。

 ひとつずつの連載の終わり方を工夫することで「次も読みたい」と読み手に感じさせられるかが決まります。




出来事が起きる前


答えが提示されない疑問

 主人公はある「疑問」を抱きます。しかしその「疑問」に対する「答え」が書かれていない。相手はどうしてそんなことをするのだろうか。相手の正体は何だろうか。なぜ相手はそれまでウソをついてきたのか。

「疑問」には必ず「答え」が必要です。しかし今回の投稿ぶんに「答え」を書かないことで「答えが知りたい」という読み手の関心を惹く終わり方をします。

 マンガのほったゆみ氏&小畑健氏『ヒカルの碁』において藤原佐為が主人公の進藤ヒカルの前から気づかぬうちに消えました。次の回からなぜ消えたのかを知るためのエピソードが始まります。



謎めいたセリフが告げられる

「答えが知りたければひとりで○○へ来い」と主人公は何者かに告げられます。「謎」に対してどんな「答え」が待っているのだろうか。なぜ○○へ行かなければいけないのか。なぜひとりで行かなければならないのか。

 いろいろと「謎」が湧いてきます。しかし今回の投稿ぶんにはそれらの「謎」に対する「答え」がありません。

 マンガの浦沢直樹氏『二十世紀少年』のトモダチも意味深な発言をします。



新しいアイデアがひらめく

 今回の投稿ぶんまでに新たな出来事を通じて経験してきたことや手に入れた人や武器・道具や発想が揃います。すると「相手と対峙したときこんなことをするとどうだろうか」と主人公がひらめきます。でもそれがどんなアイデアであるかは書かれません。

 果たしてそのひらめいたアイデアは通じるのでしょうか。しかし今回の投稿ぶんには通じるのかどうかは書かれていないのです。

 マンガの大場つぐみ氏&小畑健氏『DEATH NOTE』では主人公夜神月があるひらめきを得て名探偵Lに自分を監禁するように仕向けます。そこにどんな計略が秘められていたのかはそのとき読み手には開示されていません。



何らかの前兆の隠喩

「強風が吹き荒れて幟旗が折れる」「日食が始まる」「暗雲が立ち込める」「雷雨が降り始める」などなにかが起きそうな現象が生じます。それが何かを象徴しているのかは書かれていません。

 読み手はそれが何なのかを知りたがるので続きを読もうとします。

 この手の前兆は旧世代の戦記ものにありがちで司馬遷氏『史記』、羅貫中氏『三国志演義』などでよく見られます。たまに日常もので用いることもありますが、ちょっと狙いすぎに感じられるでしょう。

『史記』で周の武王が殷の紂王を打倒しようとしたとき「負ける」占い結果が出ました。ですが武王は「それは紂王が負けるということだ」と解釈して決戦に臨んだのです。




出来事が起きる


分岐点ターニング・ポイント

 主人公の身に何かが起こります。それによって主人公はどうなってしまうのでしょうか。たとえば急遽主人公が戦場に送られることが決定したとします。その後主人公はどうなるのでしょうか。うまく立ちまわって生還することはできるのでしょうか。

 マンガの桂正和氏『I”s』では主人公瀬戸一貴は想い人葦月伊織と仲良くなりたいと思っていましたが、そこに幼馴染みの美少女である秋葉いつきが現れて一貴に言い寄ってきます。この場面が出てきたら先が気になって仕方ないですよね。

 主人公は今までの関係を続けられなくなります。一貴はなんとかうまく行動して自分が想い人である伊織を選びたいと思うのです。

 不安定な状況に陥れることで先が気になるのが「分岐点ターニング・ポイント」です。



感情が高ぶる

 主人公が激怒したり悲しんだりする出来事が起きます。当然主人公は激怒したり悲しんだりするのですが、今回の投稿ぶんでは感情が高ぶったところで終わりです。

 感情の高ぶりからどうやって出来事に対処するのでしょうか。感情が高ぶるとその先どうなるかわからなくなるので、読み手の興味を惹けます。

 感情的になりやすい主人公なら使いやすいのですが、ひじょうにクールな主人公の場合はそれほど一喜一憂しないのであまり使えない手です。

 マンガの鳥山明氏『DRAGON BALL』で超サイヤ人に覚醒した主人公の孫悟空と戦っていたフリーザが悟空を挑発するように「今度は木っ端微塵にしてやる。あの地球人のように!!!」と言います。ここで悟空は「クリリンのことか───────っ!!!!!」とキレたのです。その後戦いはどうなっていくのか。ワクワクしていた少年が多数いました。



設定を覆す事実が明らかになる

 これまで憎んでいた相手が実は主人公の後援者つまり「あしながおじさん」だったことが明らかになったらどうなるでしょうか。明らかになった時点で書き終わります。

 すると読み手はなぜ憎むべき相手が主人公を陰から後押ししてきたのか考えるでしょう。主人公はその後援者とこれからどう対峙すればよいのでしょうか。そのような機微を与える手法です。これはとくに少女向けの作品によくあるケースになります。

 寓話『白雪姫』や『シンデレラ』などは物語冒頭とがらりと設定が覆るシーンをよく見るのです。

「あしながおじさん」のパターンだと、マンガの美内すずえ氏『ガラスの仮面』の北島マヤと“紫のバラの人”速水真澄の関係が真っ先に思い浮かぶと思います。




出来事が起きた後


誰かとの対立が想起される

 勇者が悪の大魔王を打倒しようと決意するような場合です。主人公がある決断をして誰かと対立することが不可避になりそうな終わり方をします。なぜ対立が生ずるような決断をしたのかは書かれてあるのです。ですがその対立はどのような結末が予想されるのかが書かれていません。だから先を読みたくなるのです。

 水野良氏『ロードス島戦記』でファーン王とベルド皇帝との直接対決ののち主人公パーンたちは“灰色の魔女”カーラの打倒を決意します。でもその章は決意をしただけで終わりです。実際に戦うのはその後の章となります。



主人公が知るべき秘密が語られない

 出来事が起きたのにその事実が秘密にされていて主人公は知らない。でもいつかは主人公もその秘密を知ることになります。なぜ今までそれが伏せられているのか。秘密を知った主人公はどうするのでしょうか。

 水野良氏『魔法戦士リウイ』ではケンカっ早い主人公リウイはオーファン国王リジャールの庶子という事実をリウイの同僚アイラは知っていましたが、それをリウイには教えていませんでした。

 アイラにはそれなりの計算があってのことです。リウイ本人がその事実を知る頃には一人前の冒険者となっていたため、ケンカに走ることもなく謀反を起こすこともなく事実を受け入れています。

 秘密にしていたことでリウイの保身が図られていたわけです。



衝撃的な出来事が起きたことを知る

 なぜそんな出来事が起きたのか。それに対して主人公はどんな対処をするのか。

 マンガの大場つぐみ氏&小畑健氏『バクマン。』において主人公真城最高は学校の同級生であった声優の亜豆美保と密かに交際していました。

 しかし中学の同級生だった石沢秀光によってインターネットに交際のことを暴露されたところで回が終わります。

 そしてサイコーと亜豆はこれらを自らができうる限りの真心を込めてファンに訴えかけるのです。それに呼応して漫画家仲間の福田真太からも援護を受けます。そして大人気マンガとなっていた『REVERSI』のアニメ化も決まり、ヒロインの配役を視聴者投票で決める段取りが整ったのです。

 どんどんと衝撃的な展開の連続で物語のラストに向かって怒涛の畳み込みを見せています。



次回以降への決断や誓い

 主人公はある出来事に対して「こうしよう」という決断や誓いを立てます。どうやってその決断や誓いを果たそうというのでしょうか。その決断や誓いは果たさせるのでしょうか。

 マンガの車田正美氏『聖闘士星矢』は主役の星矢を含めた青銅聖闘士の五人が「アテナのために」戦うことを事あるごとに誓います。黄金聖闘士との戦いでもつねに「アテナのために」と死力を尽くして戦うのです。

 その信念を見せつけられることで黄金聖闘士たちは自分たちの過ちに気づいていきます。





最後に

 今回は「続きが読みたくなる連載の区切り方」について考えてみました。これですべてというわけではなく、あくまでも一部に過ぎません。

 小説を連載しようというほどの書き手の皆様のことです。多くの作品に触れてきたと思います。

 それらはどのような区切り方をしてきたのか、今一度振り返ってみましょう。次回への惹きの強さはどのようなテクニックによってなされていたのでしょう。

 だいたいは「疑問」や「謎」は出すけど「答え」は出さないパターンです。古典から現在に至るまで、この鉄則を破る連載はまずありません。

 先が気になるのは「疑問」や「謎」が出ているのに「答え」をもらっていないから。だから「答え」を知りたくて次回が気になるのです。

 その応用を十一のパターンに分解したのが今回のコラムの骨子となっています。



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