164.連載篇:書き出しで読み手の心をつかむ(1/3)
今日から三回に分けて「書き出し」に関する注意点を挙げていきます。
ストックは出来ているので、三日連続で投稿します。(『ピクシブ文芸』で連載している頃の話なので、残り2つもすぐに投稿いたします)。
書き出しで読み手の心をつかむ(1/3)
小説の「書き出し」はとくに意識して書く必要があります。「最終
だから「
そして読み手を主人公に感情移入させることも必要になります。
感情移入できない主人公では、読み手は興味を持ってその先を読み進めようとは思わないものです。
物語より前から書き始めない
小説を書くときとくにやってしまいがちなのが「物語より前から書き始める」ことです。
「物語」とは「誰がどうなる話」なのか、つまり「主人公がどうなりたい」から始まって「主人公がどうなった」で終わるまでの一連のドラマを指します。主人公が登場してから「最終
それを踏まえて「物語より前から書き始める」とはどういうことか。
もうおわかりでしょう。
「書き出し」から主人公が登場するまでの間のことです。
とくに初心者の書き手に起こりやすいのですが、読み手の目線をつい忘れてしまうことがあります。
読み手が「物語」を疑似体験するために必要な主人公を登場させず、延々と舞台や設定を説明してしまうのです。
これでは読み手は感情移入するための主人公へたどり着くまでに挫折してしまうでしょう。
結果連載小説なのにフォロワーが付かないという事態を招きます。
ジャンル別でランキングの出る『小説家になろう』『カクヨム』などにいくら投稿しても誰も読んでくれない作品というものがいくらでもあるのです。
中にはランクインしている作品よりも数段「面白い」「楽しい」作品もあります。
ではなぜ「面白い」「楽しい」小説なのに自分の書く小説は誰にも読まれないのでしょうか。
多くは「書き手のネームバリュー」と「作品の認知度」がかかわっています。
「書き手のネームバリュー」は殊のほか強い影響力を持っているのです。
早い時期から『小説家になろう』などに投稿してきたのであれば「書き手のネームバリュー」が高いことは想像に難くないと思います。
だから「今日から『小説家になろう』で連載を始めて紙の書籍化を狙ってやる」と野望を抱いたとしても「書き手のネームバリュー」の壁にぶつかって跳ね返されるのがオチです。
本命ではない連載小説や短編小説をコツコツと投稿して、じわじわと「書き手のネームバリュー」を上げる必要があります。
急いではいけません。最低でも半年は下積みのつもりで「書き手のネームバリュー」を上げることに専念してください。
それをしてもなお閲覧数は増えたけどフォロワーさんが増えていかないのは、感情移入できる「主人公」がなかなか出てこないか、誰が「主人公」なのかわからないからです。「群像劇」ならそういうこともあると思われがちですが、「群像劇」でもメインとなる「主人公」はいたほうがよいと思います。
吉川英治氏『三国志』では劉備(玄徳)が主人公で、彼が没したのち諸葛亮(孔明)が主人公になるのです。百人を超える登場人物を誇る『三国志』ですらこのとおり。
「書き出し」で主人公を出すことはそれほどまでに重要なのです。
読み手の心をつかむために第一に考えなければならないのは「主人公をできるだけ早く出す」こと。極端な話「冒頭一文で主人公を出す」ことです。
そうすれば読み手は瞬時に主人公を見つけて感情移入する準備を整えられます。
それなのに最初に登場した人物が脇役だったら肩透かしもいいところです。
読み手が「次に出てきたこの人が主人公? いやこっちの人が主人公かも?」と迷うようでは舞台や設定の説明をしているのと変わりありません。
読み手が読みたいのは「主人公の言行や考え方・感じ方」です。舞台や設定の説明は「主人公の言行や考え方・感じ方」を見せながら随時行なっていきます。
何も「書き出し」から延々と舞台や設定の説明を書く必要なんてないのです。
また最初に登場する人物が主人公でない場合が商業ライトノベルでも結構あります。
プロの書き手であってもそれはやはり舞台や設定の説明の範疇です。
実はライトノベル草創期にはこのような「物語より前から書き始める」スタイルが流行っていたのです。
水野良氏『ロードス島戦記 灰色の魔女』では「書き出し」で主人公パーンが登場しません。
それでも大ヒットしてライトノベル界の開拓者となりえたのはなぜでしょうか。
実は『ロードス島戦記』がパソコンゲーム雑誌『コンプティーク』において
だから主人公パーンを最初に書かなくても読み手はじっと待ち続けられました。
そのことを知らない人が『ロードス島戦記 灰色の魔女』の「書き出し」を初めて読めば「で、この小説の主人公は誰なんだ?」と困惑するはずです。
「書き出し」には伝説の六英雄のひとり最高司祭ニースと、ドワーフ族のギムが出てきます。
でも実際の主人公は「書き出し」の第一章第一節に出ていないパーンなのです。パーンは第一章第二節の三分の一を過ぎた頃に初登場します。かなり長い間出てきていないのです。
ということは「物語より前から書き始める」スタイルになっていますよね。
『ロードス島戦記』がすでにライトノベルの古典となり、今の中高生にあまり受け入れられていないのは、突き詰めれば「主人公が誰なのかがわかるまでに相当のページが必要になる」からです。
これは田中芳樹氏『銀河英雄伝説』も同様だと思います。こちらは第一巻の「序章」という形で長々と舞台と設定の説明が書き連ねられているのです。しかも数十ページも費やしています。
『銀河英雄伝説』は群像劇です。だから主人公は複数名います。その証拠に第一巻の「第一章」では銀河帝国側の主人公であるラインハルト・フォン・ローエングラムではなく、その親友で側近のジークフリード・キルヒアイスが先に登場してくるのです。
これは第二巻の最後の展開だけを考え合わせればキルヒアイスを最初に登場させたことに大きな意味がありました。
「群像劇」として狙って書いているようなので、主人公のひとりとしてキルヒアイスを出したことが「物語」で後々効いてくるのです。
前二作よりも比較的新しい賀東招二氏『フルメタル・パニック!』の第一巻の「書き出し」である「プロローグ」はどうなっているのでしょう。
まずヒロイン千鳥かなめが主人公相良宗介に話しかける状況からスタートしています。つまり主人公の宗介をまず登場させてかつ「対になる存在」としてヒロインのかなめも一緒に出すという見事な「書き出し」を見せているのです。
ここで読み手をぐっと捕まえて宗介とかなめに感情移入できるように図らっています。そのため読み手はこの作品に愛着を覚えるのです。
『フルメタル・パニック!』『フルメタル・パニック!ふもっふ』『フルメタル・パニック! Second Raid』と三度のアニメ化を果たしています。さらに『Second Raid』以降の話、つまり本編第三期のアニメ化も決定されていると噂されているのです。
そこまで愛される作品となったのは「書き出し」が万全であったため、読み手が安心して「物語」を読めたことにあると思います。
主人公を登場させる
「書き出し」の初めのうちに主人公を登場させたとします。
ではその主人公は動いているのでしょうか。止まっているのでしょうか。
止まっていると書き手はつい主人公の置かれた状況を説明し始めてしまいます。つまり物語そのものが先に進まず停滞してしまうのです。
でも書き手が書きたい主人公の姿は脳裏で明確に思い描けています。だから書き手は主人公が止まっていても「置かれている状況を説明し終えてから動かしたほうがいいかな」と思い込んでしまうのです。それが落とし穴となります。
読み手は「いつになったら主人公は動き出すのだろうか」と思ってその動きを待ち構えているのです。だから冒頭から状況の説明を始めたところで今ひとつピンときませんし、読み手が感情移入することを妨げます。
主人公は最初から動かすべきです。その動きに合わせて置かれている状況を順を追いながら説明できますし、それに伴って舞台や設定の説明を見せることもできます。
うまい書き手ほど、まず主人公を出して動かしてから舞台や設定の説明を織り交ぜていくのです。
本コラムを読んでいるあなたは、まだうまい書き手ではないと思います。それなら、うまい書き手の手法は真似るべきではないでしょうか。
主人公が冒頭から
また主人公がただ動いているだけでも、読み手は主人公を追ってくれるものなのです。
とりあえず何かを見ていてもいいし、ただ町を歩いているだけでもいい。動いている主人公の目に何がどう映っているのか。それを書くだけでも読み手はじゅうぶん主人公に感情移入してくれるものなのです。
「書き出し」では主人公を登場させて動かしてください。登場させるだけで動かなかったら主人公の存在をただ定義しているだけにすぎないのです。
それでは舞台や設定の説明と大差ありません。ただ指を動かしたり目線を移動させたりするだけでもかまわないのです。
とにかく主人公を動かすこと。そこから読み手は主人公に感情移入していきます。
最後に
今回は「書き出しで読み手の心をつかむ」の第一編を述べてみました。
「書き出し」でいかにして読み手を捕まえるか。それがわかれば最良の「書き出し」がどのようなものかを瞬時に理解できます。
次回は第二編です。
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