161.連載篇:読み手が知りたい情報を具体的に書く
今回はタイトル通りです。
でも「屁理屈をつける」ことの重要性も書いてみました。
読み手が知りたい情報を具体的に書く
小説を読んでいて「あれ、ここってどういうことなんだろう」と思ったことはありませんか。
商業ライトノベルの場合は編集さんと校正さんが指摘してくれるので、それほど「わからない」という事態に陥ることはありません。
しかし小説投稿サイトで素人の書き手が書いた小説では、ときに「あれ、ここってどういうことなんだろう」と思う場面にしばしば直面します。
書きたいシーンほど一歩引いて
読み手が「わからない」と思うところはたいてい「情報不足」に陥っています。
物語である
だから「あれ、ここってどういうことなんだろう」という事態が発生するのです。
たとえば銃撃戦を描いた場面があるとします。アクションシーンなので読み手を惹きつけられるはずですよね。
しかしもし互いに障害物のないところで撃ち合っていたとしたらどうでしょうか。よほど下手なガンマンでなければ、勝敗は一瞬で着くはずですよね。でも互いに何発撃っても当たらない。なぜかと思っていたら、後になって障害物があることを想定して書いているとわかるのです。
ではなぜ最初から障害物のある
こんなとき書き手は思い入れが強くて小説世界に没入しすぎています。
主人公と「対になる存在」との対峙を描こうと必死になりすぎてしまったからです。
もし一歩引いて銃撃戦を見られていたら、こういう事態はまず起こりません。
主人公と「対になる存在」をできるだけ
そう考えすぎて、銃撃戦の舞台を書くゆとりや余裕がなかったのでしょう。
このように書き手が書きたかったシーンとして盛り上げたいときほど、一歩引いて客観的に舞台をきちんと描写してあげるのです。
奇抜な発想に対する屁理屈がない
小説を楽しんで読んでもらいたい。そう思って「奇抜な発想」を思いつくことがよくあります。
ですが「奇抜な発想」すぎて読み手がついてこられないことがあるのです。
なぜかなと思ったら、多くは「奇抜な発想」に対する「屁理屈」が足りないかまったくありません。
書き手としては「これは皆が読んだことのない設定や
そのあまりにも見事な設定や
「屁理屈」や「道理」を適当につけておくことで、読み手は「この世界ではこういう前提で物語が進むのか」と理解を示してくれます。
もし「屁理屈」や「道理」を書かなければ「あれ、ここってどういうことなんだろう」と読み手に思わせてしまいます。そうなったらせっかくの「奇抜な発想」がただの「よくわからない世界観」になってしまうのです。
だから「奇抜な発想」を思いついたら、「屁理屈」でいいので「それが前提となる必然性」をしっかりと書いてください。
それだけで読み手は「なんとなく納得してしまう」ものなのです。
その設定は矛盾せずに実現可能か
読み手が知りたい情報のひとつが「物語世界で起きていることが矛盾せずに実現可能なのか」です。
実現可能かどうかを明確に示さなければただの空想で終わってしまいます。
そうなると、あなたの小説世界は「妄想」でしかなくなってしまうのです。
もし「矛盾」してしまえば読み手はすぐそれを見抜きます。そうなると読み手は没入しようとしていた小説世界から一気に現実へ引き戻されてしまうのです。
私が『ピクシブ文芸』と『小説家になろう』に上げている『始まりの勇者』という小説連載は、
そこでナジャフという賢者が用いる『収納の指輪』という「制限はあるけどかなり大量に物を出し入れできる魔法の指輪」を設定しておきました。
しかしあまり明確な制限を書いていなかったため、大量の「聖水」を入れておく場面で「聖水」という液体を「液体のまま収納しているのでは」と指摘されたことがあります。
振り返ってよく読んでみると「聖水の瓶」というべきところでただ「聖水」と書いてしまっていたことが判明したのです。
物語の最後に出てしまったために、ここで離れていってしまった読み手が少なからずいただろうことがわかります。
書き手の皆様も、このような「設定不足」が発生しないように気を配ってください。
「何ができて何ができないのか」「これができることによって何か不都合な事情が発生しないかどうか」。そこを考えるのです。
しかし人間は万能には出来ていません。
そこを理解しているのであれば「その物語世界の中では『そういう設定』なのですよ」と「屁理屈」をつけてください。
「屁理屈」は無敵です。どんな理不尽な設定であっても「こういう設定なのだから、これでいいのだ」とバカボンのパパのように開き直れます。
そして読み手も「そういう設定なのであれば、それでいいのか」と深く追及せず純粋に物語を楽しんでくれるようになるのです。
「屁理屈」の強さがわかっていただけたと思います。
知りたい情報を具体的に書く
読み手が今読んでいる小説に対して「この情報が欲しいな」と感じることが往々にしてあります。
会話文があるのに誰の発言なのかわからない、というのは本当によくあることです。
とくにライトノベルは会話文を主体にして読ませる小説です。そのため地の文の分量が少なくなります。
限界まで地の文を削るため、ときとして「誰の発言なのかわからない」会話文が生まれてしまうのです。
また短い地の文のほうでも、誰に対してまたは何に対して書かれている一文なのかがわかりづらいという場合もあります。
書き手としては頭の中に「小説世界」が浮かんでいるので、とくに説明や描写を書かなくても脳内で補完してしまうのです。
これが怖い。
本来なら書かなければ読み手に伝わらないことが、書き手の頭の中で補完されてしまって伝わった気になってしまうのです。
単純に「説明不足」と言ってしまってよいのでしょうか。
読み手がこのような文章を読んでしまうと「この書き手の作品はわかりづらい」と感じます。評価がマイナスに振れるのです。そのマイナスが蓄積されると「もう読んでいられない」と思います。そうなってしまえば、その読み手はもう先を読んでくれなくなります。連載しているのだけど閲覧数が尻すぼみになってきた場合、たいていが「知りたい情報が具体的に提示されていない」ことに起因しているのです。
それら「読み手が知りたい情報」がきちんと提示されているのかどうかを知るためには、やはり「原稿を寝かせる」必要があります。
小説を書き終えたら一定期間寝かせて書き手の頭の中にある「小説世界」が消えるまで待つのです。
そしてまっさらな頭で小説を読み返して「あれ、ここって誰の発言で、誰に対して書いているのかわからない」ということにやっと気づきます。
なら説明や描写を増やせばいいと思うでしょう。
『論語』に「過ぎたるは猶及ばざるが如し」という一節があります。
やりすぎているのはやっていないことのようなものだという意味です。
繰り返し「書きすぎる」ことで読み手は「ああ、ここもまた書きすぎているな」と感じてその一文を無意識に読み飛ばしてしまいます。だから執拗に書いてあるのに、書いていないように思われてしまうのです。
では書き手が頭をまっさらにして、読み手の目線からみて「この情報が欲しいな」と感じたところはどのように書けばいいのでしょうか。
「一文で具体的に書く」ことです。そのためにはかなりの文章テクニックが必要になります。
読み手の欲しがる情報をさりげなく一文でわからせるわけです。
たとえば主人公の名前は出てくるのにいつまで経っても性別がわからない、という文章をよく見かけます。
私が『ピクシブ文芸』に上げている『暁の神話』も性別がわかりづらい作品になってしまっているはずです。
書いている私自身は「女性だと言及しなければすべて男性」だと思って書いたのですが、そんなルールは読み手に通用しません。
ある程度書き進めていって「彼」「彼女」という代名詞が出てきて初めて「ああ、このキャラは男性だったのか」とわかることが多いのです。
性別はこのように早めに代名詞「彼」「彼女」などで男女の別を読み手に理解させるとよいでしょう。
最後に
今回は「読み手が知りたい情報を具体的に書く」ことについて述べてみました。
小説を粗書きしているときは仕方ないとしても、描写を書き換えていく作業をしているときは、原稿から一歩引いて客観的に読み手の目線で「ここがわからないな」と思うところを書き添えていきましょう。
また矛盾になりそうな設定については「屁理屈」を考えてください。
小説は書き手の思うがままです。読み手が多少理不尽を感じるシーンもあります。
でも書き手が自信を持って「屁理屈」を主張していればそれがルールになります。
たとえばTRPG『Dungeons & Dragons』のスライムは強敵ですが、エニックス(現スクウェア・エニックス)『DRAGON QUEST』ではLV1でも倒せる雑魚キャラです。
『ドラクエ』のスライムを見た『D&D』プレイヤーが「スライムはこんなに弱くはない」と主張したとしても、『ドラクエ』の世界では堀井雄二氏の「屁理屈」によってそれがルールとして定着しました。
そして、読み手の目線で「ここがわからないな」「矛盾かな」と思うところはできるだけ手短に説明するようにしてください。
たとえば男女の別がわからないときはすぐに代名詞「彼」「彼女」や「男」「女」などを使えばいいのです。
読み手が知りたい情報は、できるだけ具体的に書いてください。「屁理屈」でもかまいません。
小説世界において書き手は神です。神が「屁理屈」をつければそれが物語世界のルールになります。
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