連載篇〜連載を始めようと思ったら

156.連載篇:主人公を深掘りする

 今回から短期集中で「連載篇」を始めます。

 長編小説を書いたら予想外の反応があって続きを書くことになった場合を想定していますが、最初の連載のときからでも使えるテクニックの紹介です。

 今回は「深掘り」についてです。





主人公を深掘りする


 あなたの書いた「三百枚」にファンがついて「連載を続けてほしい」と求められることもあります。

 そのとき、今の主人公の設定のままで続きを書いてはいけません。

 私は本コラムの中で再三「三百枚」を書くとき主人公は「三百枚」に必要最低限の設定だけにしたほうがよいと書いています。

 しかしこれが超長編で連載されるとなれば話が違ってくるのです。




主人公の違った一面

 同じ主人公の長編小説の続きを書かなければならなくなったときを考えてみてください。

 最初の「三百枚」の設定だけでは主人公の同じ面しか書けないため前作とほとんど変わらない物語になってしまいます。

 せっかく続編を書くのなら「主人公の違った一面」を読み手に見てもらいたいと思いませんか。

 そうすることで別の物語が読めるのなら、読み手は「主人公の違った一面」に「待ってました」とばかり食いついてくれます。

 私もできれば「主人公の違った一面」を見てもらいたい。

 そうすることで別の物語を作れますし、主人公の人物像が深くなっていくからです。キャラに深みが出てきます。

 読み手も「主人公の違った一面」を読めることで新鮮な感覚を抱きながら新しい「三百枚」を読んでくれることでしょう。

 誰もが得をするのです。こんなにいいことはありません。

 「主人公の違った一面」を見せれば次作も万全です。

 しかしもしさらなる続きを求められたらどうしますか。




主人公の過去

 もちろんさらに別の一面を出すというのも一手です。

 ですが続刊を出すたびに別の面ばかり出続けると「本当に同じ人なの?」と読み手に思われてしまいます。

 ではどうすればよいのでしょうか。項目名にありますね。

 「主人公の過去」を掘り下げていくのです。


 主人公の出身地はどこで、どこの学校を卒業し、どこで働いていた経験があるのか。

 親は主人公をどう育てたのか、友達は多かったのか、部活動は何をやっていたのか。

 その他主人公に影響を与えそうな過去を設定していくのです。

 それによって主人公の人物像が深掘りされていきます。


 もし幼少期を養護施設で過ごしてきたのなら、両親とは微妙な距離感が漂うはずです。

 こういった過去をネタにしていくと、読み手は主人公への理解を一気に深めます。

 つまりより深く主人公に感情移入してくれるようになるのです。


 過去を設定していくことで、主人公の行動原理も見えてきます。

 こんな過去があるから主人公はここでこういう判断をするのだ、ということが書き手には書きやすく、読み手にも理解されやすい。

 ですので最初の「三百枚」を超えて続く場合、まず過去の設定が必要です。

 それによって次の「三百枚」を読んだら、読み手は主人公のことがさらに好きになっていきます。

 こうやってフォロワーさんを増やしていくのです。

 もし過去を設定せずにそのときの感性だけで続編を書いていったらどうなるでしょうか。

 主人公の性格がブレまくり、読み手は「本当に同じ人なの?」という困惑に陥ります。

 一度そうなってしまうと、フォロワーさんがどんどん離れていってしまうのです。

 しかも続編を出すたびに加速度的に減っていきます。

 最初の「三百枚」でたくさんのフォロワーさんがいたはずなのに、続編を書くたびブックマークや評価、さらに閲覧数さえも減っていくのです。

 せっかく「読み手の要望で続編を書くことになった」はずなのに、書けば書くほどフォロワーさんが減っていってしまいます。

 それでもいいというのであれば、主人公の過去など設定せずにあなたの感性だけで続編を書き続けてください。

 フォロワーさんが減っていっても自業自得です。




芋づる式

 過去を考えていくとき、主人公陣営にいる人とはどのようにして出会ったのかを設定しましょう。

 それをネタにして新しいエピソードが作れます。それも陣営にいる人の数だけ。

 そこで新キャラが出てくれば芋づる式にいくらでもエピソードが作れます。


 この芋づる式を最も有効に活用しているのが、本コラムで何回も取り上げている渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』通称『俺ガイル』です。

 主人公の比企谷八幡は最初強制的に奉仕部に入部させられ、無理やり部長の雪ノ下雪乃との人間関係を作らされます。

 その後部活動を通じて新キャラが登場するのです。

 彼らとのやりとりでさらに人間関係が築き上げられていきます。

 その流れで由比ヶ浜結衣はもうひとりのヒロインになっていくのです。

 三浦優美子なども奉仕部の活動で知り合った人物ですから、やはり芋づる式になります。

 このように無理せず連載を続けようと思えば、芋づる式に関係性を作り出すのがうまいやり方です。


 また「対になる存在」陣営のキャラとの過去を設定するのも有効な方法になります。とくに「対になる存在」との過去はある種「宿命」を感じさせることでしょう。

 『俺ガイル』ではヒロインのひとり雪ノ下雪乃が八幡の「対になる存在」にもなっています。

 物語の冒頭から主人公と「対になる存在」が描かれている、最も理想的な書き出しといえるでしょう。

 その雪ノ下雪乃の姉・雪ノ下陽乃と八幡との人間関係というのも描かれていますから、渡航氏はかなり意図的に人間関係を作り出しているのではないでしょうか。


 小説は人間関係を描いた「一次元の芸術」です。

 主人公だけが存在する牧歌的な物語では何も起こりません。

 あなたが好きな小説を改めて読んでみてください。主人公以外のキャラクターが必ずいます。

 そして物語の主軸は主人公と他のキャラクターとの人間関係であることがわかるはずです。


 連載を長期化させる場合は新キャラを次々に登場させて主人公との関係性をエピソードで示します。

 ときに新キャラは出さず既存のキャラ同士の人間関係を軸にエピソードを作ってもよいでしょう。

 物語が終幕に近づいていったらもう新キャラは出さず、人間関係を整理していきます。

 『俺ガイル』もすでに終わりが見えています。

 ふたりのヒロインと八幡との人間関係はどのような結末を迎えるのでしょうか。

 目が離せませんね。





最後に

 今回は「主人公を深掘りする」ことについて述べてみました。

 ただ一作の「三百枚」を書くのなら、主人公の設定は必要なものだけで済んだのです。

 ですがもしそれが大ヒットし「続編を書いてほしい」という意見が集まったとき、最初の「三百枚」の設定だけでは足りなくなります。

 そこでキャラクターの過去や人間関係を深掘りしていく必要が生まれるのです。

 深掘りした結果、書き手は主人公のことをすべて知ることになります。

 つまり続編を書いても主人公のキャラがブレないのです。

 一貫していれば読み手は安心して続編を楽しめます。


 深掘りしないことのデメリットはキャラ設定がブレまくるということです。

 あの「エピソード」ではこんなキャラだったのに、この「エピソード」ではこんなキャラになっている。

 そんな小説を読んだら、せっかくついたフォロワーさんも続編から次々と引き上げてしまいます。

 最初の「三百枚」が好評だったときほど、引き上げるスピードも速くなるのです。怖くなってきませんか。

 なので続編を書く必要が生じたら、そのときに主人公の過去や人間関係を深掘りしていくべきなのです。



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