155.応用篇:読み手の年齢性別を正確に知る
今回は四つの小説投稿サイトにおける読み手の主要層について述べてみました。
ついでにどのジャンルを求めているのかも入っています。
読み手の年齢性別を正確に知る
「読み手」と一言で述べても具体的にどんな人が読んでいるのか。気にしない書き手が存外多いものです。
「小説賞・新人賞」と小説投稿サイトでは、どのような「読み手」がいるのかをまずしっかりと見据えなければなりません。
小説賞・新人賞
出版社の開催する「小説賞・新人賞」の「読み手」とは基本的に「下読み」さんと呼ばれる人たちです。小説賞には毎回数百件から数万件の応募作があります。それを何人かで割り振って読み込み、候補作として挙げる作品を決めていくのです。
「審査員」が見て決めるのではないの? と思う方もいらっしゃることでしょう。確かに候補作の中から小説賞を決めるのは「審査員」の仕事です。しかしその候補作を決めるのはあくまで「下読み」さんになります。
まず「下読み」さんをうならせる作品を書かないことには、候補作として挙げられることもないのです。
攻略対象は「審査員」ではなくあくまでも「下読み」さん。
彼らは実に多くの小説を読んでいます。おそらく日本でいちばん小説を読んでいる方々でしょう。
そんな方々をうならせるには「下読み」さんの知識の範囲に収まってかつ読んでいて「面白い」「楽しい」と思える小説が求められます。
まず「下読み」さんの知識の範囲に収まっていることです。
ある程度書ける人は「自分の作った世界はオリジナルで、こんなこともできますよ」ということを示したのだけど「下読み」さんをうならせられない。よくあることです。
とくに「剣と魔法のファンタジー」であれば、書き手の皆様がほぼ同じ世界観の作品を応募してきます。
「下読み」さんが今まで読んできたジャンルの知識の外に出てしまうような作品は「目立ちます」が「理解は得にくい」と思ってよいのです。
戦争をテーマにして書いた拙著『暁の神話』も「剣(と魔法)のファンタジー」の路線にありますが「戦略・戦術」を主眼に置いて書いてあります。おそらく他の投稿者があまりトライしていないテーマで書かれているはずです。だから当然「目立つ」はずですが「下読み」さんの中に「戦略・戦術」に詳しい人はまずいないでしょう。よって「理解は得にくい」と思います。
『ピクシブ文芸』とその元となる小説投稿サイト機能『pixiv小説』は投稿者の十中八九が女性です。なら『ピクシブ文芸』も当然「女性向けの小説賞」だったと思います。候補作として残った作品を読めばそれがよくわかるはずです。
私の『暁の神話』は対象を青年男性に設定していました。これもミスマッチでしたね。
そこで『暁の神話』は連載形式に落とし込んで『小説家になろう』様『カクヨム』様へ連載投稿しようと企図しています。
小説投稿サイト
小説投稿サイトにも想定される「読み手」は存在します。
最大手の『小説家になろう』は三十代以上の男性が主要層です。だから必然的にファンタジー小説が強くなります。
なぜ三十代以上の男性が主要層であると断定できるのでしょうか。
『小説家になろう』はインターネットに小説が投稿されるようになった頃から存在するサイトです。
この頃は角川スニーカー文庫や富士見ファンタジア文庫が隆盛を極めていました。
角川スニーカー文庫も富士見ファンタジア文庫も三十年近く前からあるライトノベルのレーベルです。
つまり主要層はどんなに若くても三十代であることは疑いようもありません。
また男性という点ですが、同時期に女性向けのコバルト文庫がありました。だから角川スニーカー文庫や富士見ファンタジア文庫の読者は女性もかなりの数いましたが、それは『週刊少年ジャンプ』を読む女性と同じようなもので副産物でしかありません。
主要層はやはり男性だったのです。
三十代以上が主要層ですから、同グループの成人向けサイトである男性向け『ノクターンノベルズ』、女性向け『ムーンライトノベルズ』、官能でない成人向け『ミッドナイトノベルズ』もかなりの数が読まれているようです。
古参の『エブリスタ』『アルファポリス』は女性向け恋愛小説が圧倒的に強いです。想定される読み手は三十代以上の女性になります。
こちらも角川スニーカー文庫や富士見ファンタジア文庫と同時期に発売されていた女性向けライトノベルレーベルであるコバルト文庫の読み手がそのまま『エブリスタ』に移行した形です。
成人向け小説も投稿できるため、二十歳以上の女性の割合が高くなるのも特徴になります。
最大手の『小説家になろう』で言及したように『小説家になろう』も三十代以上の女性にはある程度強いです。
でもランキングを調べれば『エブリスタ』『アルファポリス』は「女性向け恋愛小説」がウケていることがひと目でわかります。「乙女系」「ジュブナイル系」と呼ばれる類いの小説が強いのも『エブリスタ』『アルファポリス』の特徴です。
完全な成人向け官能小説は『小説家になろう』グループの『ノクターンノベルズ』『ムーンライトノベルズ』が強く、それに『pixiv小説』『ピクシブ文芸』が続く形となっています。
出版社KADOKAWAが共同運営する『カクヨム』は三十代以下の男性に強い傾向があります。
異世界ファンタジーが主流なのは『小説家になろう』と同じです。
差異があるとすれば『カクヨム』が作られた時期が現在ライトノベル界を牽引する『電撃文庫』が隆盛を極めている頃です。
当然『電撃文庫』との連携が強い小説投稿サイトなので、そのあたりからも三十代以下の男性に強いことがわかります。
『pixiv小説』はイラスト投稿サイトを運営する『pixiv』が提供する小説投稿機能です。
こちらはランキングがほぼ女性向け二次創作に偏っており、とくに「BL」に代表される成人向け二次創作が圧倒的に強い。
『pixiv』の成立時期から鑑みるなら三十代以下を主要層に据え、二次創作BLでさらに女性へのアピールが強くなるのです。
逆に言えば『pixiv小説』でオリジナル小説(一次創作)はまずランキングに載りません。
さらにいえば人気のある作品の二次創作であれば、多少文章が拙くてもランキングに載ることができるため「自己承認欲求」を手っ取り早く満たせます。
でも二次創作ばかり書いていても書き手としての力はまずつかないので、オリジナル小説(一次創作)も書いていく必要が出てくるはずです。
その受け皿になるべく発足したのが『ピクシブ文芸』になります。
『pixiv小説』の機能を拡張してオリジナル小説(一次創作)だけが投稿できる(はず)の小説投稿サイトです。
『pixiv小説』からの派生であるため主要層は三十代以下の女性で、『pixiv』アカウントがあれば成人向け作品もランキングや検索に載るため、さらにそういった小説が増えていきます。
以上で大方の読み手の主要層が定まりました。
三十代以上男性向け→『小説家になろう』
三十代以上女性向け→『エブリスタ』『アルファポリス』
三十代以下男性向け→『カクヨム』
三十代以下女性向け→『ピクシブ文芸』『pixiv小説』
主要層をきちんと想定して投稿先を決めればミスマッチをかなり防げると思います。
私の書いた『暁の神話』も「三十代以上男性」を主要層にしていたので『ピクシブ文芸』賞に応募するより『小説家になろう』へ投稿したほうがよかったはずですね。このあたりは当時の分析不足が露呈しました。ただしピクシブ文芸賞の募集要項には主要層が明示されていません。応募する段階では『ピクシブ文芸』と幻冬舎がどの路線で行くのかを明確にしていなかったのです。
とりあえず小説賞に応募してみようと思ったので当時のミスマッチも致し方なかったかもしれません。現在ではピクシブ文芸賞の候補作が六本選定されていますから、それらを読めば「三十代以下女性」を主要層として選んだのだとわかります。(なお2017年11月25日時点ですでに大賞は決定しています)。
読みたがる情報を与える
想定される読み手が決まったと思います。ではその人たちに有益な情報を与えましょう。
それには読み手が「どんな小説を読みたいか」を知る必要があります。
そこを外すとせっかくターゲットが鮮明なのにウケの悪い小説を投稿して、誰からも見向きもされなくなることがじゅうぶんにあるのです。
書き手がせっかく時間をかけて小説を書くのであれば、より多くの人に読んでもらって「面白い」「楽しい」思いを味わってほしいと思います。なら読み手が読みたがる情報・読んだら有益な情報を与えましょう。
三十代以上男性ならスキルアップやキャリアアップなどにつながるような小説(たとえば岩崎夏海氏『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』通称『もしドラ』)、または日頃の仕事から受けるストレスを軽減するような現実を忘れて「面白い」「楽しい」娯楽性の高い痛快な小説(池井戸潤氏『半沢直樹シリーズ』)を読ませるようにするのです。
とくに「現実を忘れて」という点が重要になります。読み手は意識しなくても自己啓発されますし憂さ晴らしもできるのです。
かなり有益になりますよね。
女性向けならエロスを感じさせる小説がウケます。エロスというと脂ぎった男性が読むイメージがありますが、体面を気にしなくて済む小説投稿サイトでは女性が積極的にエロスのある小説を読むのです。
三十代以上ならお姫様・お嬢様な気分にしてくれる優雅な小説を、三十代以下なら憧れの王子様と恋するようなロマンスのある小説を求めています。
二次創作のBL小説が主流の『pixiv小説』では、人気のある作品のキャラをカップリングしていちゃいちゃする「エロスを感じさせる」展開を読みたがるのです。
最後に
今回は「読み手の年齢性別を正確に知る」ことについて述べてみました。
ターゲットがわかれば、読み手が「どんなことを知りたがっているのか」「読みたがっているのか」を推測しやすくなります。
自分より年齢が上の方をターゲットにした場合、どうしてもインターネット検索などをして「背伸びして書く」必要が出てきます。
かなり無理があるので物語も破綻しやすくなるのです。
その点自分より年齢が下の方をターゲットにした場合は、自分の経験を踏まえて書くこともできるため論理的に破綻することはまずありません。
ただ前回にお話しましたが現在の流行りがわからないため、そちらの知識が別個必要になってくるのは覚悟しておきましょう。
ターゲットを絞って「小説賞・新人賞」や小説投稿サイトに投稿するのがベストです。
畑違いのところに投稿しても「ああそうですか」で読まれることもなく流されてしまいます。
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