153.応用篇:何を読み手に読んでもらいたいのか
今回は「何を読み手に読んでもらいたいのか」についてです。
読んでもらいたいものがあるから小説を書きます。それが読み手を惹きつけるのです。
何を読み手に読んでもらいたいのか
小説を書こうと思い立ったのには、なにがしかの理由があるはずです。
「いいキャラクターを思いついた。このキャラが活躍する場面を書きたい」であったり「いいセリフを思いついた。こんな場面でビシっと決めたい」であったり。「いい
あらすじを書くのは最初に思い立ったものから
小説は企画書、あらすじ、箱書き、プロットという段階を経ます。
「企画書」は「誰が何をする話」かということで「主人公がどうなりたい」と「主人公はどうなった」で表したものです。「あらすじ」はそこにどんな出来事が起こってどのような変遷をたどるのかを確定させます。
すでに頭の中に構想があって物語を具体的に練られているのであれば、「企画書」をすっ飛ばしていきなり「あらすじ」から書き始めましょう。「企画書」は「あらすじ」を導き出すためだけのものですから。
「あらすじ」を考えるときは「
たとえば「よいキャラクターを思いついたから第一章から順にあらすじを書いていこう」とするなら「そのよいキャラクターの魅力を書き切る」前にだれてしまいますし、かなりの行き当たりばったりな「あらすじ」にならざるをえません。
それを「
破綻のない連載小説を作りたい場合などはとくに重要です。
ただし小説を書こうと思い立った「キャラクター」「セリフ」「
なぜならその事柄について書き手には明確なビジョンが存在するからです。
描写の粗密
書き手は小説の文章を自分の思い通りに書けます。用いるものは日本語などの言語だけ。
自由度の高さが最も高い表現形式であり、何にも縛られず自由に書けるのが小説なのです。
小説を書こうと思い立った部分は描写を密にしてください。
その部分の描写が長ければ読み手は「この書き手はここが書きたかったんだな」と察してくれます。
逆にそれほど重要でない部分は描写を疎にしてください。他が疎であるからこそ、小説を書こうと思い立った部分が際立つのです。
バトル小説は基本的に「こんなバトルや
だからといって日常シーンを疎にしないでください。日常シーンを疎にしてしまうと、肝心のバトルシーンが映えません。
バトルは日常の背景があって初めて深みが出てくるのです。
恋愛小説も「告白」部分が思いついたとして、そこを密にするのは当たり前。
ですが告白に至るまでの日常シーンがどこまできちんと描けているかで、読み手が主人公に感情移入できるかが決まります。
どこを密にしてどこを疎にするのか。これを決めるのも書き手の裁量なのです。
冒頭試し読みができるとき
ライトノベルを中心に扱うアニメショップや電子書籍販売サイトなどでは冒頭の試し読みができるところが多くあります。
小説投稿サイトなら「あらすじ」「キャプション」も読まれるでしょう。
そういった事情もあり、小説は冒頭三ページ以内でどれだけ読み手に「この小説はここを書きたいんだ」という書き手の思いを伝えることができるのか。
そこを考慮してこそ冒頭の「書き出し」が定まってくるのです。
社会人になると会社で「報告書の提出」などを求められることが多々あります。
かなりの「文章読本」は報告書などで「結論を先に持ってきて、最後に再度結論を書けば伝わりやすい」と教えているのです。
それに倣うなら「これが書きたいんだ」というものを小説の冒頭に持ってこなければ「何を主張したい小説なのか」が読み手にはさっぱり伝わらないということになります。
田中芳樹氏『銀河英雄伝説』も冒頭で主人公であるラインハルト・フォン・ローエングラムの「銀河を手に入れる」という小説の肝を提示しています。もし冒頭でそれを書かなければ、これは「宇宙での艦隊戦」を書きたいのかなと思われるのです。
ですが物語の中ほどで「艦隊戦」にひと区切りついてしまいます。そうなるとそれ以上の巻は無意味なものになったはずです。
でも「銀河を手に入れる」という野望が冒頭で示されたために、銀河の完全制服を目指す流れが必然になりました。
その点『pixiv』に上げた拙著『暁の神話』は、冒頭が朗らかすぎました。そして第一章には「戦」の描写がいっさいありません。これは完全に失敗したケースでしょう。
私の悪いクセは冒頭を朗らか路線で書いてしまうことです。もし冒頭を朗らか路線で書くのであれば、小説全体を朗らかな作品にしていなければなりません。逆に「戦」がメインなのであれば、冒頭を「戦」のシーンで始めるべきだったのです。
「冒頭三ページで書き手が書きたいものを明確に示す」ことがどれほど重要であるかわかっていただけると思います。
書きたいものに注力すれば
「書きたいもの」に注力して「あらすじ」を書けば、物語の芯は強固で揺るぎないものになります。自ずと「冒頭三ページ」でそれが読み手に伝わるものです。
伝わりさえすれば、あとは「あらすじ」を逸れない範囲内で書き手の自由に書けます。「プロット」は「箱書き」をト書きにしていき、それにどんどん描写を付け加えていくのです。
そうすれば「書きたいもの」が確固とした存在感を持って小説に厚みを加えてくれます。
「書きたいもの」が明確であることのメリットはそこにあるのです。
「何を書きたいのか」がわからない小説は「冒頭三ページ」を読んでも何も伝わってきません。だから小説を見切ろうかどうかは「冒頭三ページ」で勝負がついてしまうのです。
私の小説は「冒頭が朗らか」であるがために緊迫した「バトル」や「戦」シーンが演出できていません。
おそらく「冒頭三ページ」といっても小説投稿サイトに投稿しているのでおそらく「スマートフォンの画面で三ページ」で「書きたいもの」がわからない小説になっていたのだと思います。
最後に
今回は「何を読み手に読んでもらいたいのか」について述べてみました。
書き手は「これを書きたい」という着想があるから小説を書きます。
それを読み手に読んでもらって「これを書きたい」というものが読み手に伝わることを期待しているのです。
でもたいていの書き手はおぼろげなイメージだけで小説を書き始めてしまいます。
それでは読んでも「何が書きたい」のかさっぱり伝わりません。
「エピソード」や「
プロの書き手になりたければ「これを書きたい」という明確なイメージを持って「あらすじ」「箱書き」「プロット」を連載開始より前に作ってください。
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