152.応用篇:読み手に伝わっていますか(中略あり)

 今回は「書き手の意図は読み手に伝わるのか」について述べました。

 書き手としては批判であってもコメントは欲しいものなのです。





読み手に伝わっていますか


 小説を書いているとき、書き手はどうしても物語世界の中に没入してしまいます。

 そこから耳に聞こえるもの、目に見えるものを代表とした五感に直感を加えたものを文章にして表していくのです。

 でもちょっと待ってください。

 あなたの書いたその文章。読み手にきちんと伝わっていますか?

 書いている本人は物語世界にいますから返ってくる言葉は当然「伝わっているに決まってるじゃん」となります。




実はまったく伝わっていない

 実はほとんどの小説は読み手に内容がまったく伝わっていません。

 私の書いた小説の類いもまず伝わっていませんからと胸を張れるくらいです。

 でも商業ライトノベルを読んでいて「内容はきちんと伝わってくるんだけど」と思いませんか。

 商業ライトノベルは「きちんと伝わっている」のです。

 でも個人創作をしているだけのうちは「まったく伝わっていない」のが現状としてあります。その差は何か。

 これを知っているだけでも伝え方がかなり変わってきます。

 個人創作をしているだけの書き手が書いた小説は、なぜ読み手に「まったく伝わっていない」のでしょうか。

 文章が読み手の側に立っていないからです。




読み手が損得抜きで批評してくれるか

 商業ライトノベルは出版社と契約して担当編集さんが付きます。

「企画」段階から一緒に討議を行ない、初稿から校正さんを交えて「ここは読み手がわからないので書き改めてください」という指示が書き手に返ってきます。

 そうです。読み手の「ここがわからない」という声を直接聞いて書き改めることができる。それが商業ライトノベルです。

 では個人創作をしているあなたに「ここがわからない」と主張してくる読み手はいるのでしょうか。おそらくいないと思います。

 家族や友達にお試しで読ませている人もいると思いますが、具体的に「ここがわからない」と指摘してくる人はまずいません。

 書き手との人間関係がこじれるのも嫌だから「嫌われるようなことを言いたくない」と思ってためらってしまいます。

 だから個人創作のレベルでは「まったく伝わっていない」小説になってしまうのです。


 二次創作であれば同好の士が「ここがわからない」と主張してくることはままあります。

 同じサークルで活動している人は自身も参加する同人誌に載せる作品のレベルが気になるものです。

 自身の実績にも影響が出ますから「ここがわからない」を遠慮なく言ってきます。

 だから個人創作されている方はできれば同好の士と「サークル活動」を始めるのがオススメです。

 また同人誌即売会などで小説同人誌を頒布された参加者は期待して購入しています。

 代金を払ったのに小説の内容がまったくわからないとなったら「返品するから金返せ」レベルの感情も入るのです。

 二次創作を無料で読める小説投稿サイトである『pixiv小説』も似たような仕組みになっています。「俺の時間を返せ」という言葉の代わりに「ここがわからない」と伝えてくるのです。

 だから個人創作されている方はできれば小説投稿サイトへ積極的に作品を公開していきましょう。

 もちろん同人誌として売りたい作品とは別の作品をです。


 サークル活動や小説投稿サイトへの投稿を始めて、忌憚のない意見が聞ける状況になることをまず目指してください。

 少なくとも「まったく伝わっていない」とされていた小説が批評によってどんどんブラッシュアップされて、「ある程度は伝わっている」作品になっていきます。

「どういうところに気をつければ読み手に伝わる小説になるのか」を知ることもたいへん大きな糧になるのです。




二次創作でスキルアップを目指す

 前々から言っていますが『pixiv小説』では人気のあるオリジナル作品の二次創作でなければランキングに入れません。逆に言えば人気のあるオリジナル作品の二次創作ならランキングに入れるのです。少なくとも閲覧数は必ず伸びます。


〜(中略)〜


 二次創作で「どういうところが伝わっていないのか」「どう書けば読み手に伝わるようになるのか」の試行錯誤を繰り返しましょう。小説を書くときの表現スキルは確実にアップしていきます。

 ただし二次創作だけしか書かないと「描写力」しか身につきません。

 オリジナル作品(一次創作)を書くときに必要な「着想力」「構想力」が身につかないのです。

 他人の考えた世界観・キャラクターで公式にはないエピソードを書くのが二次創作である以上、「着想力」「構想力」はほとんどが原作に依拠しています。

 だから二次創作に勤しむ傍らオリジナル作品(一次創作)も書いて『pixiv小説』以外のところに投稿したほうがいいでしょう。

 『ピクシブ文芸』を含む『pixiv小説』に投稿すると「そんな暇があるなら二次創作のほうをたくさん書いてよ」と読み手は思うわけです。




小説投稿サイトでお試し投稿

 オリジナル小説を小説投稿サイトに投稿しよう。

 そう思ったときでもいきなり超長編の連載は始めないでください。

 フォロワーがいない状況で始めても読み手がつきません。

 まずは短編小説を数多く投稿しましょう。

「自分はこのくらい幅広いジャンルの小説が書けますよ」という多様性を見せてもいいですし、「自分はこのジャンルをとことん極めた小説が書けますよ」という深化を見せてもいいのです。

 そのあたりの戦略は書き手自身が立てるべきでしょう。

 私も「政略・戦略・戦術」について読書をたくさんしていますから、私なりの戦略というものがあります。

 でもそれは万人に通用するものではありません。

 私の個性に合わせたやり方で少しずつ浸透していければいいな、という気持ちで活動しています。




伝わる文章にするには

 読み手に「伝わる文章」とはどういうものか。

 端的にいうなら「読み手が欲する情報が過不足なく提供されている文章」のことです。

――――――――

 宏一は怒った。

――――――――

 とだけ書かれた一文があったとします。読み手としては「どうして怒ったのか」「誰に対して怒ったのか」「何に対して怒ったのか」「どのような様子で怒ったのか」。さまざまなことが知りたくなりませんか?

 そういった情報をこの一文の前後に散りばめていれば、この一文でも「読み手が欲する情報」は過不足なく伝わります。ひとつでも欠けると曖昧さが残るのです。

 また「宏一は怒った。」だと神の視点になってしまいます。小説世界に感情移入しづらくなるので感情語である「怒る」は見た目でわかるような動作で表したいところです。

――――――――

 宏一は深雪の軽率な行動を見てついカッとなってしまった。

――――――――

 これなら「どうして」「誰に対して」「何に対して」は書けています。

 「どのような様子で」が薄いように思えますが「カッとなってしまった」という述語である程度わかるのではないでしょうか。慣用句・常套句・紋切型ですが。

 一文で過不足ない情報が表せたのです。しかも怒る描写で「怒る」という単語を使わずに表現できています。これが安っぽくならずに「伝わる」表現なのです。

――――――――

 ロックバンドのヴォーカル兼ギター担当の宏一は同じロックバンドのサブヴォーカル兼キーボード担当の深雪の、反響に心遣いしなかった行動を見てつい我を忘れてカッとなってしまった。

――――――――

 これは装飾過多な文章になっています。「ロックバンドの〜担当」は別文にしたほうがすっきりしてわかりやすいはずです。「反響に心遣いしなかった行動」「我を忘れてカッとなってしまった」はいずれも修飾を最小限にしたほうがわかりやすいと思います。


 このように、怒る場面で「怒る」という単語を使わない。悲しい場面で「悲しい」という単語を使わない。

 これができる書き手は間違いなく「描写力」があります。

 端的に表せる抽象的な単語を安易に使わないからです。

 もちろん万事このような書き方をしているとまどろっこしいだけ。

 とくに重要でない場面でのことなら、「怒る」「悲しい」という単語を使ってもまったく問題ありません。

 これも「省く」技術です。





最後に

 今回は「読み手に伝わっていますか」ということについて述べてみました。

 あなたの周りであなたの小説に意見を言ってくれる人はいますか?

 いるのならその人に書いた小説を読んでもらいましょう。

 いないのなら小説投稿サイトで「ここがわからない」というコメントがつくのを待つのです。

 ただし小説投稿サイトは人気が出ないとコメントがまず付きません。

 人気が出るためには「よい小説」である必要があります。

 つまり「伝わる小説」を書いている人にはコメントが殺到し、「伝わらない小説」を書いている人にはコメントはいっさいこないのです。これだと本末転倒ですよね。

「伝わらない小説」を書いている人に成長できる環境がありません。


 そういうときは『pixiv小説』で二次創作を書くのがオススメです。

 創作元を選べば「男子に人気」なら二桁のブックマーク、「女子に人気」なら三桁のブックマークが付きます。

 これなら「伝わらない小説」を書いている人でもコメントが期待できるはずです。

 それと並行して「自力で『伝わる小説』が書けるよう」に注意しながら文章を書いてみてください。

「読み手が欲する情報が過不足なく提供されている文章」が目標です。

 ここまで努力しないとプロの小説書きにはなれないと思いましょう。



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