149.応用篇:生活を書く
今回は「生活を書く」ことについてです。
バトルシーンが書きたい、恋の駆け引きが書きたいなど書きたいものはたくさんあります。
でもそれらは「日常の生活」が土台にないと引き立ちません。
生活を書く
小説には登場人物が存在します。そして彼ら彼女らは生きています。
そんなキャラクターたちが生きていくのは「どんな世界」で「どんな身分」で「どんな生活」をしているのか。
それを決めなくてはなりません。
生活は身分によって左右される
キャラクターがどんな生活を過ごしているのか。
これを決めるためにどうしても避けられないのが「どんな身分」かということです。
王様なら王宮の中で暮らしているでしょうし、食事も各地の珍味を味わえるでしょう。
着ている服だって高級絹製かもしれません。
仕事は基本的に執務室へ籠もって官吏からの上奏書に目を通して決裁していくことになると思います。
そしてたまには王宮の外へ出て鷹狩りをしたり釣りを楽しんだりすることもあるでしょう。
このように王様ならその国で最上級の生活ができます。
大臣なら官舎に住んで、食事はお抱え料理人が振る舞ってくれる。
着ている服は綿製。
仕事は行政府へ日参して各地からの陳情書に目を通して王様に上奏書を書くといったところでしょうか。
また王様からある指示を受けて公共事業を指揮監督しているかもしれません。
たまの休みには大臣同士で酒を酌み交わしたり街を訪れて実情を把握していったりするでしょう。
このように大臣ならその国でそれなりに高い役割を担った生活をします。
役人なら寮に住んで、食事は食堂で済ませる。
着ている服は役職で定まっている制服で、仕事は官吏から指示された雑務をこなす日々。
たまの休みには仲間や友人たちと街へ繰り出して娯楽に興ずるでしょう。
このように役人なら現代日本のサラリーマンのような生活をすることになります。
大商人の富豪なら王様のようにドでかい邸宅で暮らし、各地の珍味を食べ、着ている服も王様クラスの高級品(ブランド物)。
仕事は他所から仕入れてきた商材を他者へ売り渡して利ざやで儲ける。
たまの休みは宴会を開いて富を惜しげもなく費やすことでしょう。
このように大商人なら王様顔負けの生活ができます。
一般の農民や町民なら長屋で暮らして、主に米やパンなどに魚を添えて食べるでしょう。肉なんてめったに食べられない。
着ている服は安価な麻製。仕事は農業に従事するか公共事業に従事するか商人の丁稚かもしれません。
とにかく他人から仕事を与えられる立場です。このように農民や町民なら現代日本のアルバイトやパートタイマーのような暮らしをすることになります。
このように身分によってどんな生活が送れるのかがある程度決まるのです。
以上は古代中国や「剣と魔法のファンタジー」でよくある世界を参考にしました。
現代日本なら身分や役職は相応に変わってきます。
ご近所付き合い
身分が決まったから生活がわかった、とは思わないでください。
たしかに生活の基礎はわかりましたが、それはひとりのことがわかったにすぎないのです。
人間は
昭和の時代であれば、調味料が切れたら長屋の隣家に行って貸し借りするなんていうのはごく当たり前に行なわれていました。
食べ物を大量に作りすぎて隣家にお裾分けしに行くなんてこともあったのです。(「お裾分け」は今でもある程度残っていて、マンガの青山剛昌氏『名探偵コナン』において沖矢昴が隣に住む阿笠博士と灰原哀によくカレーや肉じゃがなどを持っていっていますよね)。
これも昭和的ですが、田舎の実家が農家なら、林檎や梨や桃や米といったものが仕送りされてくることもありましたね。自分では食べきれないと思えば隣家にお裾分けするのが当たり前でした。
これらはすべて庶民のすることであり、貴族はこのようなご近所付き合いとは縁遠かったものです。
平成の世を生きている中高生では気づかない昔の風習は、ライトノベルのとくに異世界ファンタジーで流用できるアイデアにあふれています。
それを書けるのは相応の歳を召さなければなりませんが、おじいさんやおばあさんが存命でしたら、そのような昭和の良きご近所付き合いを知っておくのは小説での生活感を出していくのに悪くありません。
皆が知っているご近所付き合いの典型例はアニメの長谷川町子氏『サザエさん』で頻繁に見られますね。
だから少しでもファンタジー世界の生活を創造しようとするなら『サザエさん』は最強のバイブルになるでしょう。
職場付き合い・友人付き合い
ご近所同士の付き合いだけで生活がわかったとはいえません。
職場においての付き合いがあります。
同僚間での付き合いや上司と部下との付き合いもあるでしょう。
営業職なら得意先との付き合いも重要になります。
『サザエさん』ならマスオさんとアナゴさんは職場仲間ですし、磯野家を得意先とする三河屋さんも職場づきあいといえますよね。
でも営業職の人が一般家庭とつながってるというのは現在では姿形も残っていません。
たいていのことがコンビニエンスストアで間に合ってしまう時代です。
三河屋さんの扱う酒や醤油が足りなくなってもコンビニエンスストアに行けば買えます。
わざわざ他人を介在させる必要がなくなったんですね。
また友人との付き合いも大切です。同性で同好の士であれば趣味の話題で大いに盛り上がることでしょう。
異性の友達となれば、当初は友人関係であっても、次第に恋心が芽生えないともかぎりません。
逆に本当の姿を知ってしまって憧れを抱けなくなり友情より意識が進むことがなく、恋心を打ち明けられてもそれに応えようとはしなくなる、なんてことも日常茶飯事です。
技術の普及レベル
江戸時代と現代日本で生活が根本的に違うのは「普及している技術のレベルの違い」とも言えます。
たとえばエアコン。
江戸時代にはエアコンなるものは存在していませんでした。
人々はどうやって暑さを凌いだかというと玄関先に「打ち水」するのと「風通しのよい間仕切り」と「風鈴」が挙げられます。
「打ち水」をすると気化熱で気温が2℃ほど下がります。
「風通しのよい間仕切り」とは木造建築で障子やふすまなどを用いた住まいで、
また「風鈴」で金属的な音を出して耳から涼をとっていたのです。騒音問題から「風鈴」も姿を消してしまいましたね。
冷蔵庫の場合は、江戸時代なら冬場の豪雪地帯で「氷室」によって雪が氷として保存されていて、夏場になったら貯蔵していた氷を切り出して町へ売りにいっていました。
これを収納棚に入れて食材を冷やしていたのです。それが今では冷蔵庫だけで冷たい貯蔵庫が確保できています。
現代社会においては「電気」と「オイル」があればたいていのものが賄えるでしょう。衣服はオイルを使った化学繊維で作れますし、自動車を走られるのもガソリンや軽油などのオイルです。(今は電気自動車も普及していますね)。また先述したエアコンも冷蔵庫も電気を使っています。
パソコンもiPhoneもひげ剃りも電気製品ですよね。
「剣と魔法のファンタジー」であれば、治癒の魔法を使えるのなら外科医は必要でしょうか。
人類史においても古代エジプト文明では開頭手術を行なっていたと思しき骸骨がいくつも出土しています。
痛いところを切開して病巣を取り除くという発想は古代からあったのです。
中国三国時代で魏の覇王・
もしこれが開頭手術をすることなく治癒の魔法でちょちょいと治してしまったら、その人は神の化身や聖人として崇められていたことでしょう。
中国秦の始皇帝が抱いていた不老不死の夢も実現していたかもしれません。
このように技術の普及レベルの差によって生活は根本的に異なってきます。
あなたの作る世界ではどういった技術がどの程度普及しているのでしょうか。
それが決まらないと、人々がどんな生活をしているか見えてこないと思います。
最後に
このように生活を書くには、身分による生活スタイルの違いや、人付き合いによる多様性も
それがキャラの日常生活を感じさせる「エピソード」として作品で描かれれば、読み手は一気にキャラに親近感を覚えますし、感情移入しやすくなります。
もちろん感情移入は読み手と近しい考え方やコミュニティーが不可欠です。
それらが大幅に異なっているキャラクターには感情移入はできません。
中国古典『春秋』は為政者の言行録の意味合いがあり、のちの君主が過去のやり取りを読んで自らの戒めとしていたそうです。
自分の言行録は見せてもらえない決まりになっていたのです。
為政者という立場が共通しているから『春秋』に描かれていることをわがことのように感じられました。
歴史もまた生活を形作る一要素になるのです。
また技術の普及レベルの違いにより人々はどのような生活をするのかも決まるのです。
これらの要素を書くことで、あなたの小説は人々の生活感にあふれる作品となります。
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