148.応用篇:キーアイテムと伏線(必然性と関係性)

 今回は「キーアイテムと伏線」についてです。

 「伏線を張る」という言葉を実際に活かすのに手っ取り早いのは「キーアイテム」を使うことです。





キーアイテムと伏線(必然性と関係性)


 小説にはキーアイテムが不可欠です。

 キーアイテムがまったく存在しない小説もあります。

 ですが、それだとどうしても読み手を惹きつける力が弱くなるのです。




必然性

 水野良氏『ロードス島戦記』第一巻なら魔女カーラのサークレットがキーアイテムになります。

 主人公のパーンたちはカーラのサークレットを奪い取って壊すことが最終目的となっていたのです。

 そしてカーラのサークレットは六勇者のひとりニースの娘レイリアが封印に失敗し、レイリアがサークレットを身につけて現世の「魔女カーラ」となっていました。

 パーンたちはレイリア・カーラとでも呼ぶべき「魔女カーラ」からサークレットを奪い取ることになんとか成功します。

 しかし盗賊のウッドチャックが欲望に駆られてサークレットを身に着けてしまったのです。

 それ以降の「魔女カーラ」はウッドチャック・カーラとして歴史の闇へと消えていきます。

 パーンはウッドチャックを探し出してサークレットを壊そうと心に誓いますし、ハイエルフのディードリットはそんなパーンの背中を守る者としてパーンと行動をともにすることになるのです。



 このように、キーアイテムがあれば中心とした物語を作りやすくなります。

 登場人物がそのキーアイテムを求める必然性が生まれるからです。


 キーアイテムがあれば何ができるようになるのか。

 それが必然性です。


 『ロードス島戦記』における「カーラのサークレット」は自分を倒した者に取り憑いて永遠の命を得、ロードス島における善と悪とのバランスを保つために存在します。

 だからカーラを討伐するにはサークレットを壊す以外にないのです。





関係性

 キーアイテムは関係性を持たせられます。

 ある人物がキーアイテムを使えばこんな効果が現れる。

 そういう因果関係ですね。


 同じく水野良氏『魔法戦士リウイ ファーラムの剣』ではキーアイテムの「ファーラムの剣」を探し求める旅を長々と続けていました。

 そしてついにファーラムの剣を手に入れた前後から世界は混沌に呑み込まれていきます。

 「ファーラムの剣」は魔術の心得がある戦士でなければ特殊能力を発揮しない武器に設定されているのです。

 主人公のリウイが「ファーラムの剣」に見込まれて特殊能力を発動するための試練を課され内的成長を促されます。

 世界が完全に混沌に呑み込まれる前にリウイが「ファーラムの剣」の特殊能力を発動して魔精霊アトンに戦いを挑み、なんとか倒すことに成功したのです。


 「魔法戦士でなければ扱えないキーアイテム」だからこそリウイが主人公になりました。

 創作手段としては逆で「魔法戦士であるリウイにしか扱えないキーアイテム」を作って「ファーラムの剣」にした、というところでしょうか。


 このように、キーアイテムにまつわる関係性が物語を正しい方向へ進める道しるべになることがあります。





最初から仕組まれていた伏線

 物語を円滑に進めるためによく用いられるのが「伏線」です。


 「伏線」があると、読み手は頭の隅にその情報を残します。

 その記憶が薄れる前に先へ先へと読み進め、どんな意味での「伏線」だったのかを確かめずにはいられなくなるのです。

 だから適度に「伏線」を張った小説は、すらすら読めるようになります。


 私が提唱する「佳境クライマックスから結末エンディングへ」向かう創作過程で言えば、「佳境クライマックス」で必要になる「キーアイテム」をどのタイミングで手に入れるのか、また「キーアイテム」に関する情報をどのタイミングで得られるのかを考えながら「佳境クライマックス」から遡って適切な位置に「伏線」を置くのです。


 この方法なら「あらすじ」「箱書き」「プロット」を創る段階から、どのタイミングで出そうか迷わずに物語を展開させられます。

 これを「先出しの伏線」と呼ぶことにします。





後からこじつけた伏線

 今度は逆を考えてみます。

 「佳境クライマックスから結末エンディングへ」向かう創作過程で、一度文頭から文末までのあらすじを完成させておくのです。

 そして「プロット」を創る際に「このキーアイテムはこのときに使えばさらに良くなるのでは」と感じることがあります。

 つまり「あらすじ」「箱書き」では想定していなかった位置にあえて「キーアイテム」を生かす「伏線」を張っていくのです。

 これなら「キーアイテム」の存在感が増して、より重要なアイテムにすることができます。

 これを「後出しの伏線」と呼ぶことにしましょう。





先出しと後出し

 物語を創るうえでは基本的に「先出しの伏線」を徹底するべきです。

 まったく「先出しの伏線」を張らずに物語を創ることもできますが、かなりの「行き当たりばったり」感が生じてしまいます。

 そうしてなにが言いたいのかよくわからない小説が出来あがるのです。


 最初は「先出しの伏線」だけであらすじを作ってみて、他人に見てもらい感想を聞いてみましょう。

 「なにか足りないよね」と言われたら「後出しの伏線」の出番です。


 「キーアイテム」を有効に使えるような「場面シーン」はないか、ないなら作るとして物語の流れを阻害しないかを検討し、大丈夫と判断したら「後出しの伏線」を張って「キーアイテム」を存分に生かしましょう。


 小説において「テーマ」が一貫していれば、それもまた「伏線」の材料になります。


 だから執筆の都合から不用意に「テーマ」を変えるのはよくないのです。

 「テーマ」を変えたければ、前出の「テーマ」をきちんと完結させておきましょう。その続きから「テーマ」を変えればいいのです。





キーアイテムでなくても

 そして何も「キーアイテム」という単語にこだわる必要はないのかもしれません。

 たとえば「キーワード」はどうでしょうか。

 この小説ではこの「キーワード」で一貫できないかを考えてみるのです。

 また「キーマン」はどうでしょうか。

 物語の折々に出てくる人物が、物語の結末エンディングを左右するような重要人物だった、なんていうのもよくある話ですよね。


 このように「キー○○」を使えばさまざまなストーリー展開が可能になります。


 でもあまり数が増えすぎると整合性をとるのが難しくなるので、通常「キー○○」は三百枚の中でひとつに限ったほうがよいでしょう。





最後に

 今回は「キーアイテムと伏線(必然性と関係性)」について述べました。

 いずれも物語を円滑に進めるために存在します。


 「あらすじ」を書いていて「どうも方向性がブレまくるな」と感じたのなら「キーアイテム」と「先出しの伏線」を用いてみましょう。

 それだけでかなりのブレが収まります。


 一貫した「あらすじ」「箱書き」を書けたら「プロット」でさらに「後出しの伏線」を挟める余地はないかを狙っていってください。

 当初の「あらすじ」「箱書き」をよりよいものにするためには、「後出しの伏線」が効果を発揮します。


 満足のいく「プロット」が出来たら、後は執筆を始めるだけです。

 「プロット」に従って最後まで書ききりましょう。


 そして書き終えたら推敲して小説投稿サイトに投稿するのです。

 そこで反響を確かめて反省材料にしながら連載を続けてください。


 その最中に反省材料を活かした次作の「あらすじ」を考えていき、「プロット」まで仕上げるのです。

 そうすれば今連載中の作品が完結したらそのまま次の連載をスタートできるようになります。


 人気の出る書き手になるには、一回の休載もあってはならないと思ってください。


 アイデアは湯水のように湧かないでしょうが、事前にストックをいくつも保管してあれば、あたかも「アイデアが湯水のように湧き上がる」ような錯覚を読み手に見せることができますよ。



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