138.応用篇:何がなんでも小説家になる

 「プロの書き手(小説家)」という職業は遊ぶように仕事ができるわけではありません。

 担当編集さんとのすり合わせもありますし、「テーマ」「あらすじ」「箱書き」「プロット」を作ることも必要です。

 当然執筆する時間もかかりますし、推敲する時間も要ります。

 遊ぶつもりで「プロの書き手(小説家)」を目指すべきではありません。





何がなんでも小説家になる


 書き手が「何がなんでも小説家になる」と決心しなければ商業ライトノベルの書き手になることはできないでしょう。

 「紙の書籍化」を目指すには、まず「小説賞・新人賞を獲る」か「小説投稿サイトで目立つ」かしなければなりません。

 そのために費やす試行錯誤の日々は、ただ本コラムを読むだけでなく、実際に長編小説を何本も書いて「着想力」「構成力」「描写力」を高める必要があります。





最初から評価される書き手などいない

 処女作から大人気を博する書き手なんてまずいません。

 それができた人は「小説家」として「天与の才」があったのでしょう。

 もしくは「かなりの読書通」で一年間に何十冊と読み込んできた人かもしれません。

 通常は小説投稿サイトに一年で長編小説を三本、四本、五本と執筆し、それが何年も続いてようやくフォロワーさんが一定の水準にまで達するのです。

 そこまで小説執筆に情熱と時間を費やすことができないのであれば「小説家」など目指すべきではありません。


 一年間に「三百枚」を三本、四本、五本と執筆していくのはかなりの努力と忍耐が必要です。

 一年のうち三百日を執筆に充てられるとして、三本書くには一日で原稿用紙三枚、四枚、五枚を書けないといけない。

 それぞれ千二百字、千六百字、二千字を毎日書かなければならないのです。


 そうやって自分を振り返ると、この「小説の書き方」コラムは百三十日連日二千五百字から五千字を書いてきました。

 ということは、三百日三千字書くペースなら年間で七本の長編小説が執筆可能なはずですね。

(2019年5月時点まで毎日連載を続けて820本以上続いています)。


「その計算はおかしい。一年は三百六十五日ある。だから一日三千字書ければ二千七百三十七枚は書けるはずだ。三百枚で換算すれば九本書けなければおかしい」という声も聞こえてきそうですね。

 でもそれは机上の空論です。

 執筆するだけなら達成は可能でしょう。

 しかし現実には推敲をして間違い探しをする時間も必要ですし、さまざまな情報に触れて知識を広く集める時間も必要です。

 それらの時間を無視するわけにはいきません。

 たまには遠出してイベントに参加してくるなんていうのも気分転換にうってつけですね。

 部屋に閉じこもったところで、効率は上がりませんよ。





小説を書くことが好きになれば

 一年三百日で毎日三千字書く。文字にするととても簡単です。

 でもこれは「小説を書くのが好き」という強い意志がなければ成しえないことです。

 強い意志を持ち続けなければ何年も実のならない長編小説を書き続けることなんて到底できはしません。


 気になっていた新作ゲームが発売されたからそれをプレイしよう。

 「小説を書く」のはいつでもできるから。

 そんな心構えでは商業ライトノベルの書き手には決してなれないでしょう。

 本気で商業ライトノベルの書き手になりたければ、優先すべきは「小説を書き続ける」ことのほうです。

 ゲームは小説を書いて余った時間にするようにしましょう。


 映画を観に行くのも同様になります。

 さまざまな映画を観てきたほうがよいのは当たり前です。

 でもそれは小説を書いてストックを抱えた状態になってから観に行くようにしましょう。

 映画を観に行って小説投稿サイトに投稿し忘れたなんてことをしていたのでは、読み手のことを軽視しすぎています。


 スポーツ小説やバトル小説を書く場合はスポーツを観戦しに行ったり、格闘技のテレビ中継を観に行ったりしてもいいですね。

 とにかく自分の書いているジャンルの情報は広く集めていきましょう。


 幸い『小説家になろう』『カクヨム』などの大手小説投稿サイトは予約投稿が可能ですから、ストックさえしてあれば、いつでも投稿できるので心置きなく映画を観に行けますね。

 最近になって『pixiv小説』や『ピクシブ文芸』にも予約投稿機能が付きました。ただ表紙をテンプレートにしないといけないのがネックです。(その後テンプレート以外の表紙も使えるようになっています)。

 たった一日投稿し忘れただけで、書き手は読み手に大きな借りを作ってしまったと思ってください。

 挽回するには一日に二回投稿する日を作るなど多少の無茶をしなければならなくなります。


 小説を職業にしたいのなら、生活のサイクルを「小説を書く」ことに特化すべきです。

 どちらが主でどちらが副なのかは言うまでもないでしょう。





冨樫義博氏

 マンガ『幽☆遊☆白書』『レベルE』『HUNTER×HUNTER』などで有名な冨樫義博氏は無類の「ゲーム好き」として知られているのです。

 そんな彼は腰を患っていて、長時間机へ向かうことが難しい状態と噂されています。

 でも読み手の多くが「ゲーム好き」だと認知しているのが厄介なのです。


 『HUNTER×HUNTER』の休載が長くて頻繁なのは「作者がゲームで遊んでいるからだ」と心ない個人攻撃を受けるハメに陥りました。

 「ゲーム好き」が真実であっても、日銭を稼ぐために創作活動を続けていくのであれば「原稿の執筆」を最優先にするべきであることはこの例でわかると思います。

 だからといって自らの身体を犠牲にしたり命を削ったりしてまで執筆を強制するつもりはありません。

 作者の体に差し障りない範囲に限られることは言うまでもないでしょう。





田中芳樹氏

 スペース・オペラSF小説『銀河英雄伝説』で有名な田中芳樹氏ですが『アルスラーン戦記』は1986年から、『創竜伝』は1987年から連載スタートしていますが、いまだに完結していません。

 『タイタニア』は1988年から連載をスタートして2015年にようやく完結したばかりです。

 そして2017年12月15日に『アルスラーン戦記』第16巻となる最終巻が発売決定しました。(この回を執筆しているときは未完でしたが、『アルスラーン戦記』は予定通りに完結しています)。


 しかし「小説を執筆」すること自体をやめていたわけではなく、『マヴァール年代記』『夏の魔術シリーズ』『薬師寺涼子の怪奇事件簿』などの連作や、単刊長編小説をや短編小説などは書き続けていました。

 ただ先の連載を終えることなく新たな連載をスタートさせてしまい、収拾がつかなくなってしまったパターンといえるでしょう。

 本コラムNo.125『詰め込みすぎない』に関係しますが、思いついたアイデアを小説にせずにいられない性分なのかもしれないですね。

 創作意欲が人並み外れて強く、思いついたアイデアをすでに執筆を開始している小説に持ち込まない心構えは立派です。

 ただ、それは思いついたらすぐに書きあげないと気が済まない性分ともいえますよね。

 「連載している」という責任をあまり感じていないのではないでしょうか。





最後に

 今回は「何がなんでも小説家になる」ことについて述べました。

 長編小説を年に何本も書くには、強いモチベーションが必要になります。

 その最たるものが「何がなんでも小説家になる」という執念です。


 小説の書き手が「紙の書籍化」を果たして「プロの書き手(小説家)」の仲間入りをする。


 「小説賞・新人賞」を授かるのでも小説投稿サイトで目立つのでもかまいません。

 自分の得意と思われる方法で目指すべきです。


 たとえ受賞できなくても「紙の書籍化」のオファーが来なくても、それでも長編小説を書き続ける姿勢そのものを読み手や出版社にアピールしなければなりません。

 そのためには「小説を書くことが好きになる」べきです。


 「何がなんでもプロの書き手(小説家)になる」という執念と対極に位置しますが、「小説を書くことが好きになる」と長編小説を書き続けるのが苦にならなくなります。


 頭の中でつねに小説内世界を思い描いて、ふと思いついたり暇な時間ができたりしたとき、創作ノートに綴っていきましょう。

 「小説を書く」ことが好きになれば、勉強や仕事がどんなにつらくても、いつでも「小説を書く」という好きなことができるのです。

 ストレス発散のために「小説を書く」ところまでいけば一年中でも小説を書いていられます。

 「何がなんでもプロの書き手(小説家)になる」執念と「小説を書くのが好きになる」思いが合わされば最強となって怖いものなどなくなるでしょう。

 もう誰に言われるでもなく小説を書いていけますよ。



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