136.応用篇:面白い小説・楽しい小説

 今日はあなたの小説を面白く楽しく読んでもらうためのちょっとしたスパイスをご用意致しました。

 創作の一助になれば幸いです。





面白い小説・楽しい小説


 長く語り継がれるほどの名作になるには「面白い小説」「楽しい小説」である必要があります。

 読んでいて「面白い」と思うから時間を忘れて通読するのです。

 「楽しい」と思うから友人に勧めて読んでもらい「楽しさ」を共有できます。

 だから小説は「面白さ」「楽しさ」を追求すべきです。





面白い小説

 「面白い小説」とはどういうものでしょうか。内容の方向性はさまざまです。

 その中でとくに「面白い」と感じるのは「ギャップ」にあると思います。

 シリアスなんだけどおとぼけシーンがある。その「ギャップ」が読み手に「面白い」と感じてもらえるのです。


 マンガ・北条司氏『CITY HUNTER』の主人公・冴羽リョウは普段は美女に目がない「もっこり男」ですが、いざとなったら冷徹なスイーパーとして容赦なく悪人を撃ち殺します。

 もっこりの軽さと容赦しない重さの「ギャップ」が冴羽リョウの魅力になっているのです。


 賀東招二氏『フルメタル・パニック!』は主人公の相良宗介が秘密機関ミスリルに所属している兵士です。子供の頃からゲリラ兵として鍛えられているからか、日常的な感覚とは乖離した「戦争ボケ」をしています。

 だからヒロイン・千鳥かなめを守るという任務を彼なりの真面目さで貫こうとしますが、「戦争ボケ」なのでなんでも疑ってかかるのです。

 些細なことで銃を発砲したり物を解体・爆破したりします。

 その「ギャップ」が読み手には魅力的に映り「面白い」と感じさせるのです。


 川原礫氏『ソードアート・オンライン』は主人公・桐ヶ谷和人、通称「キリト」がVRMMORPGで『ソードアート・オンライン』というゲームの「浮遊城アインクラッド」を訪れます。そこは誰かがゲームをクリアしないかぎりゲームを途中で降りることができないし、ゲーム内で死んだら現実世界でも死んでしまうという「デスゲーム」の世界でした。

 しかしそんな中でヒロインのアスナなどとの交流を通じてなにげない日常を過ごすことになります。

 「デスゲーム」と日常の交流という「ギャップ」が売りの小説でした。


 鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』の主人公・上条当麻はレベルゼロの無能力者で普段は冴えない男子学生です。

 それでも高レベルの能力者に対して「幻想殺しイマジンブレイカー」を使って相手の能力を無効化し、説教を垂れたら素手でぶん殴ります。

 普段冴えないのに実戦になったらとんでもなく活躍する姿には「ギャップ」が感じられるはずです。





楽しい小説

 「楽しい小説」とはどういうものでしょうか。

 こちらも内容の方向性は多種にわたります。


 その中でとくに「楽しい」と感じるのは「ノリの軽さ」にあるでしょう。

 「ノリが軽く」て作品のトーンが明るい。

 とくにライトノベルの主要層である中高生は「重厚な小説」よりも「ノリの軽い小説」を支持します。

 彼ら彼女らは学校の勉強や部活動や塾などで散々つらい思いをしているのです。

 せめて小説だけでもトーンが明るく「ノリが軽い」ものが人気を集めます。


 神坂一氏『スレイヤーズ!』はノリのよいライトノベルの始祖ともいえる作品です。

 数々のトラブルから甚大な事態を招く「ドラゴンもまたいで通る」略して「ドラまた」の主人公であるリナ=インバース。

 相棒の剣士ガウリイ=ガブリエフとともにとにかくトラブルを巻き起こしまくるドタバタコメディに仕上がっています。

 そのノリはひじょうに軽いのです。

 本作の大ヒットにより「ライトノベルは明るくノリの軽い小説」という一面が形成されていきました。

 「楽しい小説」でアニメ化された第一作と見てもいいでしょう。


 吉岡平氏『無責任艦長タイラー』は戦争ものですが、主人公のジャスティ・ウエキ・タイラーがとにかく軽い。

 ノリの軽さならおそらくライトノベル最高峰でしょう。

 戦争しているはずなのに強運とヤマカンに優れており、相手を煽てたりすかしたりするのも得意なので、ほとんどまぐれで勝ちまくります。

 そして最後には大統領にまで出世してしまうのです。

 ここまで軽い主人公はまずいませんので「楽しい小説」が読みたいという方にはとくにオススメしたい作品となります。

 こちらはタイラーの年齢を20歳に設定したうえでアニメ化されました。


 水野良氏『魔法戦士リウイ』は主人公のリウイがとにかく脳筋で、魔術師なのにゴブリンの大群を大切な魔法の杖でぶん殴って杖を折ってしまい、それでも腕力のみですべてのゴブリンをのしてしまいます。

 彼が勇者だとの戦の神マイリーの啓示を受けたメリッサと、同じパーティーを組む異民族の女剣士ジーニと盗賊のミレルがリウイとともに冒険するのです。

 男一人に女三人という編成であってもリウイの立場は三人より下で、とにかく見下されるドタバタコメディですが、リウイはどんな困難も機転を利かせて解決してしまいます。

 リウイの成長とともにパーティーの絆も深まり、世界を救う「ファーラムの剣」を探し出すアレクラスト大陸巡行の旅に出ることになるのです。

 こちらもアニメ化されていますね。


 逢空万太氏『這いよれ! ニャル子さん』は「重苦しく」て恐怖を抱くような『クトゥルフ神話TRPG』の世界観をライトノベルへ持ち込んで、ノリの軽い小説として書かれています。

 発狂指数である「SAN値」がよく登場して『クトゥルフ神話』独特の怖さをベースにしながらも「ノリの軽さ」をたいへん重視しているのです。

 だからアニメ化もされました。


 平坂読氏『僕は友達が少ない』通称『はがない』は転校してきた主人公・羽瀬川小鷹には友達がいませんでした。

 そんな中ヒロインの三日月夜空が「エア友達」と会話しているところを目撃してしまい、人付き合いが苦手な者同士で相通じる面があって、夜空のムダに高い行動力で「友達を作る」ことを目的とした「隣人部」を結成するに至ります。

 活動していくうちに小鷹には友達のような異性が次々と現れていくのです。

 いわゆるハーレム状態といっていいでしょう。

 そのためたいへんノリの良い小説に仕上がっています。

 こちらもアニメ化されましたね。





アニメ化への近道

 「面白い小説」「楽しい小説」はアニメ化しやすいメリットがあります。

 アニメはとくに「ギャップ」があり「ノリの軽さ」を感じさせるほどドタバタのコメディ感が増すため、ひじょうに映えるのです。

 だからアニメ化まで見越して小説を書きたい方は「ギャップのある『面白い』小説」か、「ノリの軽い『楽しい』小説」を書くようにしてください。

 さらに「面白くて楽しい小説」なら言うことはないでしょう。


 渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』はまさに「面白くて楽しい小説」の見本のような作品です。

 主人公・比企谷八幡はひねくれ者ですし、ヒロインの一人の雪ノ下雪乃は無愛想、もう一人のヒロインの由比ヶ浜結衣は「表面上」明るい性格です。

 彼ら「奉仕部」に依頼してくる人や学校の人間はとにかく個性的で楽しい空間を作り出しています。

 そして八幡はひねくれてこそいますが、やるときにはやる男です。

 つまり八幡には「ギャップ」があって、周囲の「ノリが軽い」小説になっています。

 「ギャップがあってノリが軽い」つまり「面白くて楽しい小説」だといえます。

 これで人気が出ないはずもありません。

 アニメ化もされて人気も爆発的に高いのです。

 その人気は『このライトノベルがすごい!』で2013年度から2015年度まで大賞の三連覇を成して殿堂入りするほどです。


 ただし「面白くて楽しい小説」は、創り出すのがとても難しいと思います。

 それは「ギャップ」を出そうとすると「ノリの軽さ」が軽減してしまい、「ノリの軽さ」を出そうとすると「ギャップ」が弱まるという相反性があるからです。

 程よいバランスを見つけ出すのは小説を書き始めたばかりの書き手には難しすぎます。

 ある程度長編小説を書いて「着想力」「構想力」「描写力」を高めてから挑むべきでしょう。





最後に

 今回は「面白い小説・楽しい小説」について述べてみました。

 ギャップがほとんどなくノリが軽くない小説でも人気が出ることはままあります。

 水野良氏『ロードス島戦記』や雪乃紗衣『彩雲国物語』のようにテーマが重くてもアニメ化されたケースはあるのです。

 ですが最近ではそういった小説がアニメ化されることは少なくなりました。

 オリジナルアニメではこういった作品がまだ作られ続けますが、ライトノベル発のアニメではやはり「面白い小説」か「楽しい小説」かが問われています。


 ここまで傾向と対策という意味で書きました。

 もちろん書き手としては「重厚な物語を書きたい」と思う人も多いでしょう。

 そういう方は「重厚な物語」を書くべきです。

 最近の「重厚な物語」でもアニメ化されたケースはありますからね。



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