応用篇〜小説を書くために一歩踏み込んでみる
108.応用篇:連載の初回三ページで書くべきこと
今回から「応用篇」となります。
重箱の隅をつつくような小さな問題を取り上げていく予定です。
連載の初回三ページで書くべきこと
あらすじについては「起承転結」「序破急」といった構成を用いるべきです。
でも「初めて小説を書く」人に、小学校で習うとはいえいきなり「起承転結」や「序破急」を述べても響かないおそれがあります。
それをキャラクター小説としてのライトノベルに当てはめて書くのもたやすくありません。
そこで「起承転結」「序破急」という言葉を使わずに、いかに物語を盛り上げていくかという部分に焦点を絞って書いてみます。
導入(読み手を作品に引き入れる)
「導入」は字面そのままに「読み手を作品に導き入れる」こと。つまり「作品に引き入れる」ことを指します。
真っ先に考えなければいけないのが「冒頭から舞台設定を書かない」ということです。冒頭で書くのは主人公についてだけにします。
つまり先に舞台設定を書き、じょじょにズームインして主人公にたどり着くようなカット割りではダメなのです。
これでは主人公に感情移入するまで時間がかかってしまいます。
冒頭の「三ページ」の中から一瞬で誰が主人公なのかを判別できないのは致命的です。
紙の小説は多く左ページから始まり、ページをめくって見開きを読めば「三ページ」になります。
読み手がこの「三ページ」までで主人公を見つけ、感情移入する準備をさせられなければ小説としては失格です。できれば「対になる存在」も「三ページ」内で触れておくとよいと思います。
まず主人公を書き、次に主人公周りを書く。主人公の属するコミュニティーを書いてようやく社会や舞台設定に話が及ぶようにするのです。
つまり主人公にクローズアップしていたビデオカメラがじょじょにズームアウトされていき、周りのものを順に読ませていきます。
これなら主人公が最初に出てきて、その胸中が書き綴られながら背景を描写していくことになるので、読み手は主人公へ自然と感情移入できるのです。
そしてどこまでズームを引くかで物語の舞台となる範囲が限定できます。
地球全体を跨ぐような超ド級の作品でもないかぎり、地球全体までズームアウトする必要なんてないのです。
たとえ国際恋愛をしているにしても、たいていは主人公の住む国と「対になる存在」の住む国の二国だけが言及されて、他の国や地域については話題にも出てきません。
またたとえば日本とアメリカとの遠距離恋愛であっても、主人公は東京二十三区から一歩も出ず、「対になる存在」もカルフォルニアから一歩も出ないということもありえます。
それなら三人称の場合それぞれの地区までズームアウトするだけで事は足りるのです。
一人称の場合は東京二十三区だけ書き、カルフォルニアについては電話やメールやSNSなどでチラッと出てくる程度でまったく問題がありません。
また
方向性の提示
冒頭で登場する主人公はどんな
その前フリを行ないます。
主人公がどんな問題を抱えていて、それを解消する必要があるのかどうか。このあたりについても述べておくべきです。
もし切り離せてしまったら、それは物語にはまったく必要のない
再確認しておきます。
小説とは「主人公がどうなりたい」から始まって「主人公がどうなった」で終わる物語のことです。
つまり小説上で起こる
同じ志を持つ者が仲間に加わる、異なる志を持つ者がライバルになる。
バトル小説ならこのグループ分けも立派な「
主人公の好きな人が近づいてきたり離れていったり、恋のライバルが二人の間に割って入ってきたり。
恋愛小説ならこの駆け引きも立派な「
殺人犯の手がかりを得るために東奔西走することも、推理小説なら立派な「
それを踏まえたうえで、あなたがこれから書こうとする小説はバトルものでしょうか。恋愛ものでしょうか。日常ものでしょうか。推理ものでしょうか。ミステリーもの・サスペンスもの・ホラーものでしょうか。童話や寓話かもしれませんね。
主人公が登場したら、この物語の方向性も早めに提示してください。
「導入」で語った「三ページ」内で主人公が出てくることはもちろんのことです。
さらに物語の方向性が提示されていなければなりません。
つまり「三ページ」内でこれがバトル小説なのか恋愛小説なのか他の何なのかがわからなければ、読み手はこの小説はどんな物語なのだろうかと途方に暮れてしまいます。
あなたは方向性のわからない小説をわからないまま読み進めたいと思いますか?
私なら「三ページ」目を読んだ段階でその小説を閉じます。
推理ものなら「三ページ」以内に犠牲者が発見されてほしいのです。
いえ、犯罪を肯定しているわけではありませんよ。
「これは推理ものだ」と感じさせてくれなければ推理小説を読んでいる意味がないということです。
『小説家になろう』で最も人気のある異世界転生ファンタジーや異世界転移ファンタジーなら「三ページ」以内で主人公が異世界に到着していてほしい。
異世界ファンタジーなら「三ページ」以内で舞台が異世界であることを示してほしい。
サスペンスやホラーなら「三ページ」以内でなにか不思議で奇妙な事件が起きてほしい。
読み手なんてしょせんはこんな感じで身勝手なものなのです。
書き手が語りたい「その世界の設定(世界観)」のことなんて知ったこっちゃない。
それを説明する前に主人公を舞台に登場させ、
それを踏まえて「主人公がどうなりたい」が提示されるのが理想的なのです。
三ページ
方向性が提示されるまでが「三ページ」以内に書かれてない小説は「三文小説」と見てよいでしょう。
小説投稿サイトなら初回投稿ぶんのうち冒頭「二千字」以内に書かれてあると良心的だと思います。
ご存じの通り、紙の原稿用紙は「一枚四百字」です。そして紙の書籍はだいたい「一ページ六百字」ほどになります。つまり「三ページ」なら「千八百字」ほどなので紙の原稿用紙なら「五枚」(一枚目の右半分は題名と著者名が書かれるため本文にはカウントしません)、小説投稿サイトなら若干甘めに見て「二千字」以内が目安です。
冒頭では吉川英治氏の歴史小説『三国志』のファンで内気な高校生の主人公ですが、「三ページ」以内に異世界転移したら『三国志』の知識を活かして魔王「コーメー」として大活躍する、なんていうのは『小説家になろう』ならいそうな主人公ですよね。
ちなみに「三ページ」以内で示された方向性と全体にわたる方向性が違ってしまってもかまいません。
意外性があってウケる可能性もあるのです。
これは私が昔書いた小説の筋書きなのですが一つの例として挙げてみます。
たとえば「三ページ」以内が現実世界の恋愛ものを示しているのに、その後なぜか異世界転移ファンタジーに変化してもいいのです。
さらに異世界での恋愛ものに発展していったら、「三ページ」の恋愛と並走するように感じられます。
そうなれば「現実世界に戻ってこられるようになったとき、『三ページ』で示された現実世界の恋愛をとるのか、その後に展開された異世界の恋愛をとるのか」というワクワク・ハラハラ・ドキドキな展開を読み手に予想・妄想させ続けることができます。
意図してなのか偶然なのかの違いはあるでしょう。
どちらにしても物語を貫くワクワク・ハラハラ・ドキドキ効果がひじょうに高まります。
ある程度書けるようになったら一度は試してみたいテクニックでしょう。
乗り越えなければならない障壁
「主人公がどうなりたい」から始まって「主人公がどうなった」にたどり着くまでまったく障壁が存在しない、という小説を読んだことがありません。
人物の成長を描くには「障壁を乗り越える」必要があるからです。
障壁を乗り越えるために頭と体をフルに用います。
ひとたび乗り越えれば達成感と充足感が味わえるのです。
そして脳内物質のドーパミンが大量に放出されて興奮状態に陥ります。
小説を読んでいて最も楽しかったと思わせるのがドーパミンの働きなのです。
小説の場合これまた「三ページ」以内にどんな「障壁」なのかに触れなければなりません。「障壁」を乗り越えるまでに「三ページ」ではなく、どんな「障壁」なのかに言及するだけでよいのです。
言及しているから「この主人公はこういうことに立ち向かっていくことになるのか」と読み手は理解してくれます。
「三ページ」以内でどんな「障壁」なのかを書いていない小説というのは読み手に手がかりを与えていないことになるのです。
「この先主人公はどんな障壁に立ち向かっていくのかな」という情報が示された小説は、読み手にムダな時間を使わせません。
冒頭「三ページ」を読んで「これは面白くなりそうだ」と思わせられれば書き手の勝ち。「どうもこの障壁相手だと盛り上がりに欠けそうだ」と思われたら書き手の負けです。
最後に
今回は「連載の初回三ページで書くべきこと」について述べました。
これで冒頭「三ページ」で書くべきことが出揃いました。
「物語の主人公(と『対になる存在』)」「物語の舞台範囲」「物語の方向性」「主人公が乗り越えなければならない障壁の存在」です。
実際にこの四つを書いていけば「三ページ」なんてあっと言う間に過ぎてしまいます。
「書き出しが書けない」なんてことはまったくないのです。
書くべきことは山ほどあります。
一つの言いよどみも許されません。
ムダなく書いて「三ページ」を有意義に用いてください。
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