109.応用篇:初回で三ページ以降に書くべきこと

 初回の投稿では「三ページ」の後ろにも文章は続くのです。

 そこに盛り込むべき要素とはどんなものでしょうか。





初回三ページ以降に書くべきこと


 初回「三ページ」はその小説の魅力を最大限にアピールするチャンスです。

 では「三ページ」以降はどのようなことを書くべきでしょうか。





舞台設定を語る

 「三ページ」では「舞台設定から書くな」と言いました。

 しかし初回投稿の全文で「舞台設定を書くな」というわけではありません。


 異世界転生ファンタジーや異世界転移ファンタジーまた異世界ファンタジーであれば、世界観を説明しておかないことには「どこを舞台にして何が起きているのか」が読み手にはさっぱり伝わらないのです。


 現実世界の物語であればとくに書く必要はありません。

 普通に眠りから覚めて高校に向かい、授業を受けて部活をし、疲れて帰宅する。疲れたあとの夕食はやはりおいしい。あとは宿題をこなして寝ればいい。

 というように、舞台設定を書くことなく描写できます。


 小説内でとくに舞台設定を書かなければ「三ページ」で示された方向性により、ありふれた現実世界の「バトルもの」だったり「恋愛もの」だったり「日常もの」だったり「推理もの」だったりするんだな。読み手はそう理解します。



 異世界が絡んだりファンタジー要素が入ったりするような世界を書きたいのであれば、初回投稿の中で必ず言及していなければなりません。


 初回でまったくファンタジー要素を出さない――たとえば魔法が飛び交うような世界であることに言及しない――のに、次回からいきなり何の説明もなくファンタジー要素が出てくる。魔法が飛び交う。

 これでは読み手が確実に混乱します。


 小説投稿サイト『小説家になろう』で「ローファンタジー」のジャンルにカテゴライズした、また「異世界転生」「異世界転移」のキーワードを付けたから初回でまったくファンタジー要素が出てこなくてもいいだろう。というのでは、読み手のことを完全に無視しています。


 たとえ「ローファンタジー」にカテゴライズしたり「異世界転生」「異世界転移」のキーワードを付けたりしてあるのに、初回からきちんとファンタジー要素を出しておかなければ肩透かしもいいところです。


 初回投稿で「この作品のどこにファンタジー要素があるの?」と思われたらミスマッチも甚だしいと思います。

 私が読み手ならそんな小説の連載は追いません。

 「看板に偽りあり」の小説を有り難がって読む理由がないのですから。


 というわけで「三ページ」で方向性を示したら、それに沿って舞台設定をある程度語っておく必要があるのです。


 すべてを語ろうとすれば初回投稿の分量が多くなりすぎますし、世界観だけ延々と語られても読み手は設定資料集を読んでいるような気持ちにさせられます。

 楽しくもなんともありません。


 あなたは読み手として娯楽性のない小説が楽しいと思いますか。





出来事イベントはある程度解決させる

 「三ページ」で書いた主人公にまつわる出来事イベントを、連載の初回ぶんである程度解決させなければなりません。

 出来事イベントが起こって主人公が対処もせず謎だけが残った、ということでは読み手の気を惹けないのです。



 初回で出した出来事イベントを「ある程度」解決させていれば、読み手は「この小説は面白いかも」と見当をつけられます。


 それがあらぬ方向へ解決させたり、完全に解決させたりするとどうなるのでしょうか。


 あらぬ方向へ解決させる、つまりミスリードすると「この小説は何がどうなっているのかさっぱりわからない」と読み手が感じます。

 読み手に先を読ませない小説にはなりますが、逆に「海の物とも山の物ともつかない小説だ」と思われて、初回で見切られてしまう可能性があるのです。


 「先を読ませない」ことを題目に掲げている推理小説やミステリー小説などでは、初回の投稿でわざとミスリードして「あれ、この終わり方で合ってるの?」と疑問を持ってもらえれば「続きを読んでみようかな」と思ってくれることもあるでしょう。



 でも普通のライトノベルではミスリードする理由がないですよね。

 出来事イベントはきちんとした形で解決してこそ読後感は良くなり「この先の展開が楽しみだ」とワクワクしてくれるようになります。


 かといって完全に解決させてしまうと「え、これだけ?」という呆気ない読後感になってしまうのです。

 何か謎が残るように「ある程度解決させる」ことが必要になります。


 残った謎が、その小説の背骨バックボーンを構成するようなものなら、なおのこと残しておかなければなりません。


 水野良氏『ロードス島戦記』のカーラや田中芳樹氏『銀河英雄伝説』の地球教のように残しておかなければならない謎というものが物語にはあります。





主人公がどうなりたい

 できれば初回投稿ぶんで「主人公がどうなりたい」という気持ちを主人公に意識させるべきです。

 それにより読み手が「主人公を見守っていきたい」「主人公がどんな道を歩むのか知りたい」と思ってくれればフォロワーさんが一気に増えます。

 そう思わせられなければ、その小説の連載を読み手が「面白い」とは感じていないということです。


 フォロワーさんが増えない小説を長々と連載するなんて徒労もいいところではないですか。

 そんな連載はさっさと畳んで、新しい連載をスタートさせるべきです。


 初回投稿ぶんで「主人公がどうなりたい」と思わせて主人公と読み手が同じ気持ちになれば読み手は主人公に感情移入できたということになります。

 そのレベルまで読み手を惹きつけられないかぎり、初回投稿は失敗といってよいでしょう。



 初回投稿で起こる出来事は「主人公がどうなりたい」と思い立つきっかけを与えるものでなくてはなりません。

 出来事が起こったけどとくに「主人公がどうなりたい」と思い立てないようでは初回投稿としては失敗です。

 『ロードス島戦記』なら主人公パーンは「騎士になりたい」と心に決めます。

 『銀河英雄伝説』ではラインハルト・フォン・ローエングラムは「銀河を手に入れたい」と親友ジークフリード・キルヒアイスと誓い合っているのです。

 このパーンとラインハルトがその後どうなっていったのか。

 読み手はパーンが「騎士になれる」のか、ラインハルトが「銀河を手に入れられる」のかを心の片隅に置きながら、連載を読み進めていくことになるのです。

 この二人が最終的に結末「主人公がどうなった」かは連載をすべて読んだ方ならおわかりだと思います。



 上記のように「主人公がどうなりたい」と思い立つところから物語は動き始めるのです。


 連載を続けていくための潤滑油と言えます。物語は「主人公がどうなりたい」と沿うように次から次へ出来事イベントが発生するのです。


 「主人公がどうなりたい」と関係のない出来事イベントなんていっさい必要ありません。読み手にとって時間のムダです。

 「主人公がどうなりたい」に対して出来事イベントがどう影響をあたえるのか。

 その連なりが物語であり小説なのです。





主人公はどんな問題を抱えているのか

 主人公について書くのが小説です。


 ではその主人公が現状に満足しているとしたらどうでしょうか。

 現状を維持したいと思うはずです。守りの姿勢になりますよね。


 そんな主人公を物語で動かしたいとなれば、満ち足りた現状を打ち壊す何かが起こらなければなりません。

 それによって主人公の安寧は破られます。

 そして再びの安寧を求めて行動を起こさなければならなくなるのです。



 では主人公が現状に満足していなかったらどうでしょうか。

 現状を変えたいという強い願望を持つことになります。攻めの姿勢ですね。


 そうなれば主人公は自分の意志で現状を変えるべく動き出すことでしょう。

 そして自分が望む状態が訪れるまで立ち向かい続けることになります。

 多くの小説は「主人公が何か問題を抱えている」ことが多いのもそのためです。



 現状に満足しているか満足していないかで、主人公の行動原理がまったく異なります。

 当然「主人公がどうなりたい」という最終目標も違ってくるのです。

 そこをどう描いていくのか。安寧の回復か、現状の打破か。


 主人公の抱える問題を明らかにしていくのも初回の投稿では不可欠です。





最後に

 今回は「初回三ページ以降に書くべきこと」について述べました。

 初回投稿では「舞台設定を無理なく見せる」ことと「主人公がどうなりたい」かを書くべきなのです。

 それによってどんな世界観において、主人公がどんな人物で「どうなりたい」のかが明確になります。

 読み手が「主人公がどうなりたい」かを知って連載を追いかけてくれるかもしれませんし、連載から離れていくかもしれません。

 でも初回で見切ろうか読み続けようかを決められるのは読み手として良心的でもあります。



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