100.実践篇:中高生女子向け恋愛小説

 ついに100本目の連載となりました。

 今回は「中高生女子に向けた恋愛小説」がテーマです。

 とりあえず手元にあるネタが尽きたら、コラムの連載は週一くらいにしていこうかなと思っています。

(と言いながら2019年5月まで毎日連載しているわけですが)。





中高生女子向け恋愛小説


 中高生のとくに女子にウケるのは「恋愛もの」です。

 中学生の頃までは女性は男性よりも成長が早いという特性があります。実際中学一年生くらいならまだ女子のほうが男子よりも腕力もありスタミナもあるのです。ある意味「早熟」だと思ってください。

 これは肉体面だけでなく精神面でも同様で、初恋の時期も女性のほうが早いのです。

 だから中高生に向けた「恋愛もの」は主として女性に受け入れられます。




登場人物を極力絞る

 「恋愛もの」を書くときは「登場人物を極力絞る」ことに気を配ってください。

 中高生女子とくに中学女子が求める恋愛像は主に「純愛」です。

 一対一で繰り広げられる「恋愛感情」の流れを読みたいから「恋愛もの」を読みます。

 高校女子になると二対一で繰り広げられる「三角関係」も受け入れられますから、高校女子にだけターゲットを絞るのなら「三角関係」でもかまいません。

 そして中高生女子は「恋愛関係」に含まれないキャラの登場をあまり好ましく見ていません。

 「恋愛感情」が読みたいのに茶々を入れてくるキャラが出てくると中高生女子から「ウザい」と思われてしまいます。





主人公とヒーロー

 主人公とヒーローの二人だけが登場するのが基本的な「純愛」ものです。

 商業ライトノベルでは女性主人公の「純愛」で話が進みます。

 「起承転結」の「起」ではすぐに主人公とヒーローが出会わなければなりません。

 「これから始まる小説はこの二人の純愛小説ですよ」と読み手に知らせるのです。

 小説投稿サイトでは「キーワード」「タグ」が付けられます。

 「誰と誰の純愛小説ですよ」とわかるように女主人公や純愛といった属性の「キーワード」「タグ」を付けておくとミスマッチが防げるのでオススメです。





主人公の設定

 主人公は中高生女子が共感できる人物像でなければなりません。

 「あ、この行動や考え方はわかるかも」と思ってもらえる人物像にする必要があります。

 中高生女子が共感できる存在と言われてもなかなかすぐに思い浮かばないかもしれません。

 そこであなたの身近にいる女性で、なにか特徴のある人はいないでしょうか。

 たいてい誰か一人は特徴のある人がいるはずです。

 昼食時に購買部へ一目散に駆け出していく人はいませんでしたか。

 友達とテーブルを囲んで弁当を食べる人たちもいましたよね。

 そういったよくいる人物をモデルにすれば主人公に厚みが出て、中高生女子が共感できるキャラクターになります。





ヒーローの設定

 ヒーローの設定についてですが「完璧超人」にはしないでください。

 確かに「完璧超人」なヒーローは誰もが憧れます。でもそれだとライバルが多すぎるのです。

 いくら主人公がヒーローに恋をしていても、肝心のヒーローが主人公を選ぶ理由がありません。

 どうしても「完璧超人」が主人公へ思いを寄せるようにさせたいのなら、主人公をかなり「クセの強い」人物にする必要があります。

 その「クセの強さ」が「完璧超人」の心に引っかかって、主人公のことが気になるかもしれません。


 「クセの強い」主人公は読み手が感情移入しづらいという欠点もあります。

 主人公はできるだけ読み手に近い存在にしておいたほうがいいのです。

 読み手に近いほど感情移入しやすくなります。

 主人公を読み手に寄せたら「完璧超人」のアンテナには引っかかりません。

 それならヒーローを「完璧超人」にしなければよいのです。

 「完璧超人」に見えて、なにか「欠点」というか「残念」な一面を持たせてみましょう。

 ヒーローを「残念な人」にする、つまり「クセの強い」ヒーローにするのです。

 そうすればヒーローに注目する女性の数がかなり減ります。

 数が減ればヒーローが主人公を選んでくれる可能性は高くなります。


 マンガの桂正和氏『ウイングマン』では中学生になっても「本物のヒーロー」を目指す少年・広野健太がヒーローです。

 「女子向け恋愛もの」として観た場合、主人公は保健委員の小川美紅になります。中学生でも「本物のヒーロー」を目指しているヒーローというのはかなり「クセの強い」キャラですよね。

 だから美紅は健太の恋愛対象となりえたのです。


 ですからヒーローは「完璧超人」にしないよう注意してキャラクター設定をしてください。





主人公とヒーローとの出会い

 「恋愛もの」はほとんどテンプレートだけで書けてしまいます。

 まず主人公はヒーローと出会います。初めから知り合いでかつ主人公がヒーローのことを大好きであってもかまいません。

 とにかく小説内で主人公とヒーローが出揃わないことには「恋愛」描写が始まることはないのです。

 「恋愛もの」は主人公とヒーローとの感情のやりとりがテーマです。

 感情を丁寧に書かなければ現実味リアリティーが感じられません。

 だから「恋愛もの」は一人称視点のほうが書きやすいのです。


 神の視点でヒーローの心の中を覗いてしまうと「なんだ、ヒーローも主人公のことが好きなんじゃん」と読み手は知ってしまうので、「あとはどうやって告白してくっつくかだよね」という点にばかり焦点が移ります。

 それだとどれだけ巧みな「恋の駆け引き」を書いたとしても読み飛ばされてしまい、読み手の気持ちが焦れてくることもないのです。

 ここまでが「起承転結」の「起」の冒頭に当たります。





主人公がヒーローに恋をする

 主人公がヒーローに恋をして、さまざまな困難を乗り越えながら最後には結ばれてハッピーエンドで締めます。

 「恋愛もの」はこのパターン以外にありません。

 まぁ登場人物が二人(「三角関係」なら三人)に限られているのならそれしかパターンが入る余地もないのですが。

 パターンが限られるのは中高生男子向けの「バトルもの」に似ていますが、主人公とヒーローの二人だけで困難を乗り越えていくという人間関係が異なります。

 「バトルもの」なら仲間と協力してピンチを脱せますが、「恋愛もの」では困難に直面して二人の心がすれ違うさまがきもです。

 主人公はヒーローのどこかに惹かれて恋をします。

 俗に言う「胸キュン」な場面シーンを作るのです。


 不良なヒーローが捨てられていた子犬に餌を与えている場面シーンはもはや鉄板すぎるくらい。

 頼りがいはなさそうに見えて、主人公が窮地ピンチになったときに体を張って助けてくれる場面シーンというのもやはり鉄板です。

 人が良さそうに見えて実は悪どかったというのも鉄板に違いありません。


 こういう「意外性」が「胸キュン」のポイントになります。

 ヒーローの持つ「意外性」つまりギャップを見せて、主人公をドキドキさせてあげましょう。

 そのドキドキが中高生女子のドキドキにつながって読み手が主人公に感情移入していくのです。

 ここが「起承転結」の「起」の本体にあたります。





ヒーローが主人公を意識する

 主人公はヒーローに恋をします。

 ヒーローがどんな男性で、主人公はヒーローのどんな「意外性」ギャップに惹かれたのか。

 主人公の恋心を丁寧に書くことで読み手は主人公に感情移入していきます。

 主人公の気持ちにヒーローが気づいたとき、ヒーローは主人公のことを意識し始めるのです。

 現実世界なら、たとえ女子が男子に恋をしていたとしても、その男子が女子を特別意識することはあまりありません。

 男子の好みでなければ一顧だにされないのです。


 男子は男子で恋をしている女子がいるのかもしれません。

 そうなればあえて二股を覚悟して主人公を意識するでしょうか。

 このあたりが小説という作り話にとって都合のいい展開、つまり「ご都合主義」もいいところ。


 でも中高生女子は「ご都合主義」であっても、ストレスなく純粋に「恋の駆け引き」を楽しみたいのです。

 だから主人公がヒーローに恋をしたら、ヒーローは主人公を意識せざるをえません。

 それが「恋愛もの」だと割り切ってください。

 ここが「起承転結」の「起」の末尾にあたります。





出来事イベントが起きてすれ違い

 主人公とヒーローは互いの「恋愛感情」をどうやって相手に伝えようか悩みます。

 そして主人公からヒーローへ、またヒーローから主人公へ「恋愛感情」を伝えようとすると出来事イベントが起きて障害として立ちふさがるのです。

 たとえば主人公がヒーローに勇気を出して思いを伝えようとしても、ヒーローが部活の練習に励んでいるためきっかけがつかめないでいる。

 順調に付き合っていたのにある出来事イベントがきっかけでケンカをしてしまう。

 思い違いをしていたり、約束を忘れていたり、話しかけたら人違いだったりなど。


 「恋愛感情」を言い出すきっかけが作れずにいると読み手はウズウズしてきます。

 「あんたの好きっていう思いはその程度なの?」「状況を読まなくていいからここで告白しなよ!」という具合に。


 「すれ違い」は「起承転結」の「承転」に当たります。

 ここで大きな流れを作っておいて、最も盛り上がる「告白」へとなだれ込むのです。

 「恋愛もの」の小説はこういったウズウズを楽しむためにあります。

 「私ならこうするのに!」と思ってくれたら、読み手はすでに主人公へ感情移入しているのです。

 ただ、あまり長々と引っ張りすぎると「もう見てらんない!」となって小説の先は読まれなくなります。

 「小説賞・新人賞」の規定ラインである四百字詰め原稿用紙三百枚・十万字であれば、さすがに途中で放り出されることはないでしょう。

 結末が近いことがわかっているからです。


 でも超長編の連載小説ともなれば、延々と告白できずにうろうろしてしまうことが往々にしてあります。


 少なくとも三百枚に一回は距離を縮めるような構成にしてあれば、読み手も「いい感じに進んでいるね」と感じて、続きを読みたくなるでしょう。

 「すれ違い」によって読み手のウズウズを引きずり出し、適度に解消してあげて距離が一歩ずつ狭まっていく。

 そういう演出が必要です。





告白する

 「恋愛もの」では最も盛り上がる場面です。

 中高生女子が主要層の「恋愛もの」では、できるだけ主人公側から告白するようにしてください。

 ヒーロー側から告白するような形にすると、ただ待つだけの女性になってしまいます。

 小説の中だけでも勇気を持って思いの丈を告白する。

 告白する勇気を女子に与えるのもまた小説の力なのです。


 起承転結の「結」の前半にあたります。ここでこれまでのすべての出来事が止まります。

 長い空白の時間ができるのです。

 主人公とヒーローだけでなく、読み手の時間も止まります。





ハッピーエンド

 「告白」が成功するか失敗するか。

 「恋愛もの」では最も肝心な部分です。

 「起承転結」の「結」の後半にあたります。


 「告白」だけしてそのまま終わらせる手法もありますが、かなりの高等テクニックが必要です。

 それまでの文脈で成功するのか失敗するのかを暗示していなければならないのですから。

 恋が実るかどうかですが、特段の理由がない限り「告白は必ず成就」させてください。

 中高生女子に「告白失敗」を読ませてしまうと夢がなくなります。

 たとえどんなに困難な状況であっても「告白は必ず成就」させてあげれば、小説から勇気をもらえるのです。


 読み手の夢をなくすのと、読み手に勇気を与えるの。どちらかを選べと言われて「夢をなくす」と答えるような人だけは遠慮せずに「告白失敗」にさせましょう。

 それがあなたの作風です。

 でもたいていの書き手は「勇気を与える」ほうを選ぶと思いますので、大団円ハッピー・エンドが待ち構えています。


 「告白」の後の流れにもパターンはありますが、ここは自由に想像力を働かせてみましょう。

 照れくさそうに手をつなぐのもいいですし、抱きしめてもいいですし、いきなりキスしてもいい。

 何年後かに時間が飛んで将来の姿を描くのも鉄板の展開ですね。





最後に

 今回は中高生女子が最も好む「恋愛小説」について述べてみました。

 有力な小説投稿サイトである『小説家になろう』は異世界転生ファンタジー以外の伸びが今ひとつなので、現時点で投稿するなら女性向け恋愛小説に強い『エブリスタ』『アルファポリス』になると思います。

 「恋愛小説」はテンプレートさえ間違わなければいくらでも書けるのが特徴です。

 『小説家になろう』『エブリスタ』『アルファポリス』で二重投稿の連載をしながら、次の連載に向けたキャラクター作りを進めていけば、連載が終了しても間をあけずに新連載が始められます。



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