101.実践篇:成長を描いた小説

 とりあえずネタは今回を入れてあと2本になりました。

 100日連続投稿も達成しますので、ここからペースダウンしていく予定です。

 (ですが2019年5月時点で750日以上毎日連続して投稿していますけれども)。





成長を描いた小説


 小説は基本的に「主人公がどうなりたい」から始まって「主人公がどうなった」で終わります。つまり主人公の成長を描くのが小説なのです。

 その成長は身体的能力かもしれませんし、精神的支柱かもしれませんし、技術的スキルかもしれません。その組み合わせもありえます。これは「中高生男子向けバトル小説」に示されているものですね。

 おわかりだと思います。「バトルもの」は「主人公たちの成長」に特化した小説なのです。





主人公が目指すもの

 「主人公がどうなりたい」と思う段階が起承転結の「起」にあたるのです。

 物語ではまず主人公を登場させます。

 できれば成長をともにするヒロインやパートナーも欲しいですね。

 一緒に困難に立ち向かい、力を出し合って切り抜ける。

 そんな人たちをいち早く集めなければなりません。



 ライトノベル始祖の一つである水野良氏『ロードス島戦記 灰色の魔女』も、主人公パーンが「父のような立派な騎士になりたい」とまず志を立てるのです。

 親友のエトとザクソン村を出たいと思い立つのですが、初めてのゴブリン戦で大苦戦します。

 そこにドワーフのギムと魔術師のスレインが駆けつけてなんとか勝利を収め、一同は村を出ることになるのです。

 その後エルフのディードリットと盗賊のウッドチャックが順次加わって「最終決戦に欠かせないメンバー」が固まります。

 あくまでもここまでが「起承転結」の「起」に当たる部分です。

 「起」の中にも「起承転結」がありますから、メンバーが揃うまでにただ騎士に憧れて粋がっていただけのパーンはそれなりの戦士へと成長しています。





窮地ピンチに陥る

 主人公陣営に突然大きなピンチが訪れます。「起承転結」の「承」にあたるのです。

 ここで敵やライバルを出しておくと起承転結の「転」に移ったときに唐突感がなくなるので、出せるようなら出してください。

 まぁ主人公陣営が大きな窮地ピンチに陥るということは、誰かが大きな窮地ピンチに陥れてくるわけですから、その誰かが必要になりますよね。

 そこで必然的に敵やライバルが出てくる理由付けになるでしょう。



『ロードス島戦記』では主人公パーンの「立派な騎士になりたい」という願望に近づく必要があります。

 そこで一行は神聖王国ヴァリスへ向かうことにするのです。

 その行程でとある情報を手に入れたパーンたちは古びた館を訪れます。

 するとそこには強力なダークエルフとオーガがいてパーンたちは大きな窮地ピンチに陥ります。しかしそこで“灰色の魔女”カーラの情報が手に入ります。

 その後“帰らずの森”を通ってヴァリス国へ入ろうとしたときヴァリス聖騎士団が何者かと争っている場面に遭遇するのです。たいへん苦労しますが結果的にヴァリスの王女フィアンナを救出することに成功します。

 そして実はこの王女誘拐が“灰色の魔女”カーラの仕組んだ企みであることがわかるのです。

 ここで王家との繋がりと最終的に倒すべき相手が示されました。

 そこでパーン一行はフィアンナ王女を伴ってヴァリスに赴きファーン王と対面します。その流れでパーン一行は聖騎士団に配属され、マーモ軍と全面対決に臨むことになるのです。

 ここもかなりの大きな窮地ピンチになります。しかし“灰色の魔女”が仕組んだのはファーン王とベルド皇帝の相討ちでした。

 これにより両陣営は混乱に陥り、双方が兵を退きます。

 こうして歴史の天秤を偏らせず均衡させるのが“灰色の魔女”の思惑だったのです。

 そしてこれが『ロードス島戦記 灰色の魔女』における「最大の窮地ピンチ」となります。





奇跡的な要因を素にして勝利を収める

 最大の窮地ピンチに見舞われた主人公陣営は、一発逆転を狙って反撃を開始します。そして奇跡的な要因を前提として勝利を収めるのです。

 これがなかなか難しい。


 まず実力差がある敵やライバルに勝つためには、今の自分たちに「何が足りていないのか」「何が必要なのか」という情報を知る必要があります。

 そこで助言や助っ人やお助けアイテムを手に入れることになるのです。

 これを話の筋を乱すことなく主人公陣営にもたらすこと。

 この「話の筋を乱さない」という点がとりわけ難易度が高いと思います。

「起承転結」の「転」に当たり、窮地《ピンチ》を乗り越えて逆転勝利するのです。



 『ロードス島戦記 灰色の魔女』ではパーン一行がファーン王とベルド皇帝との直接対決以前に大賢者ウォートを訪ねます。

 そこで“灰色の魔女”カーラに関する情報と通用すると思われる魔術具を手に入れました。

 これらは最終決戦で奇跡を起こすためには必要不可欠なものです。

 そしていよいよ「佳境クライマックス」であるカーラが待つ湖畔の館での直接対決になります。

 ウォートから手に入れた魔術具と情報とを駆使して戦うのです。

 そうしてドワーフのギムが犠牲になりながらもパーン一行はなんとかカーラを追い詰めることができました。

 しかし盗賊のウッドチャックが邪心を抱いてしまい、カーラの撃退には成功しますが、討伐には失敗したのです。これによりカーラは闇に隠れてしまい、表面上歴史の舞台からは去ることになります。





主人公たちはどうなったか

 奇跡的な要因を前提として勝利を収めた主人公たちは、その後どうなったか。そこまで書いて初めて小説が完成します。

 そもそも「主人公がどうなりたい」から「主人公がどうなった」までを描くのが小説だからです。

 もちろん当初の想定どおり「主人公がどうなりたい」という目標を達成することで「主人公はどうなった」が定まることが多いです。

 しかし超長編の連載小説ともなれば、ひとつの「エピソード」のみで「主人公が望んでいた未来像」に到達することはまずありません。到達してしまえばそこで物語は終了してしまうからです。

 小説賞の三百枚・十万字なら確実に「主人公の望んでいた未来像」へ到達させなければなりません。

 小説投稿サイトで連載しているなら「主人公の望んでいた未来像」へ一歩近づいたり遠のいたりしてその「エピソード」では「主人公がどうなりたい」に到達させないのが常です。

 つまり近づいたり遠のいたりして目標までの距離感が変わることで読み手を楽しませなければなりません。



『ロードス島戦記 灰色の魔女』では犠牲となったギムを弔った後、パーンはエルフのディードリットとともにウッドチャックを追い続けることになります。

 エトはヴァリスへと帰還して国情回復に尽力するのです。

 残されたスレインはギムが守り抜いた女性を彼女の故郷へと送り届ける役目を自らに課します。

 こうして『ロードス島戦記』第一巻『灰色の魔女』は幕を閉じたのでした。

 その後パーンはディードリットとロードス島諸国を巡ってウッドチャックを探すとともに訪ねた国の混乱を鎮めてまわることになります。その功によりのちに「ロードスの騎士」という二つ名を授かることになるのです。

 それまでにはまだ数巻の連載が必要となりました。





成長のリセット

 川原礫氏『ソードアート・オンライン』で顕著に示されたものに「成長のリセット」があります。

 これを応用してゲーム世界であるという設定でストーリーそのものがリセットされる作品も現れました。長月達平氏「Re:ゼロから始める異世界生活」が代表ですね。

 谷川流氏『涼宮ハルヒの憂鬱』では「エンドレスエイト」というループの形をしたリセットが行なわれていましたね。この「エピソード」がテレビで放送された際に苦情が多数寄せられたのは記憶に新しいと思います。

 いずれも「リセット」することでこれまでの経験がすべてなかったことにされます。ただ知識や経験は消えないので元いた状態まで進め直す「巻き戻し」作業はそれほど苦労しません。


 『ソードアート・オンライン』の場合はVRMMORPGの世界を渡り歩くことで、その世界ではゼロからリスタートすることになるのです。

 こちらは新しいゲーム世界の知識を主人公キリトは知りません。

 彼がストーリーを進めることで新しいゲーム世界の知識を自然と読み手に伝えられました。

 この発想が出来た時点で川原礫氏は不動のライトノベル作家となったのです。

 もし「アインクラッド」世界だけで連載が終わっていたとすれば、現在に至るまでフォロワーを生む作品にはならなかったでしょう。





最後に

 今回は水野良氏『ロードス島戦記 灰色の魔女』をベースに「成長もの」の基本構造を見てみました。

 コラムNo.99「中高生男子向けバトル小説」のテンプレートのもとが「成長もの」にあることがわかっていただけたかと思います。


 バトルの派手さを優先するか、主人公の成長を優先するか。

 その差があるくらいで、他は同一と言ってよいでしょう。


 現在の若者は「コツコツ努力する」ことよりも「初めから優秀で、少し考え方を変えて行動して成功する」ことを求める傾向があるようです。

 とくに男子の読み手は「初めから優秀」(『小説家になろう』でいうところの「俺TUEEE」「チート」「主人公最強」)という主人公に自分を重ねようとしています。


 そのこと自体が悪いとは言いませんが、そういう読み手を想定して「初めから優秀」な主人公で読み手におもねるのもどうかなとは思うのです。

 身体的な努力ではなく「少し考え方を変える」ことで成功する。

 「知能戦」といえば聞こえはよいですが、「成功するために泥まみれ汗まみれになるのは嫌」という悪い意味での「お上品さ」を感じてしまいます。

 マンガではさらに顕著で井上雄彦氏『SLAM DUNK』や許斐剛氏『テニスの王子様』や藤巻忠俊氏『黒子のバスケ』なんて主要人物が軒並み「初めから優秀」になっています。

 まぁ昔もゆでたまご氏『キン肉マン』や武論尊氏&原哲夫氏『北斗の拳』や北条司氏『CITY HUNTER』などの『週刊少年ジャンプ』作品は主人公が「初めから優秀」でした。

 なので『ジャンプ』マンガっぽいライトノベルを書こうとすれば、必然的に「初めから優秀」な主人公になってしまうわけですが。


 当の『週刊少年ジャンプ』は最近出荷部数が200万部を割り込んだことで話題となりました。最盛期は650万部を超えていたので、かなりの勢いで読み手が減っていることがわかります。


 原因はいくつか考えられますが、やはりスマートフォンの影響が大きいのではないでしょうか。スマホは維持費がかさみますし、今ではスマホアプリによって無料でマンガが読める時代です。

 わざわざ『週刊少年ジャンプ』本誌を買う理由がなくなったのかもしれません。

 小説界も例外ではなく、紙媒体の小説雑誌と「紙の書籍」の売上は大幅に減少しています。「紙の書籍」の中で唯一販売数が伸びているジャンルこそ「ライトノベル」なのです。当然「ライトノベル雑誌」は今でも一定の販売数を維持できています。

 これから小説界に殴り込みをかけたいと思ったら、尻すぼみの文学界に進むか、これからも人気が維持されるライトノベル界に進むかは自明ではないでしょうか。



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