98.実践篇:共通点と相違点(中略あり)

 今回はキャラの人間関係について述べてみました。





共通点と相違点


 キャラクターをただ漠然と作っていっても、キャラクター同士がうまくつながらない・関係が結べない。

 そういうことはありませんか。


 小説には主人公が当然いますし、「対になる存在」も必ずいます。

 それぞれの陣営には仲間がいるはずです。

 でもその仲間がうまくまとまらない。

 何かが不足しているのかもしれません。





共通点があるからまとまれる

 人はどこかに「共通点を持っているから集まる」ものです。

 利害関係のみの希薄な関係であっても、その「利害」を共有しているからこそ一時的にとはいえ集団としてまとまります。

 そして利害がいちおうの完結をもって一段落したら新たな利害関係によって集団が再形成されるのです。

 たとえばパソコンが好きな人の周りにはパソコン好きな人たちが集まります。

 アニメ・安彦良和氏&富野由悠季氏『機動戦士ガンダム』が好きな人たちも「ガノタ」として固まっているのは周知の事実です。『機動戦士Ζガンダム』が放送されたときΖを支持せず初代に固執する人たちがいました。それも『機動戦士ガンダムΖΖ』でさらなる混乱を巻き起きすことになったのです。

 集団が形成されては解散し、再形成されては解散し、また再形成されるという状態が長期連続アニメの特徴になります。




〜(中略)〜



 このように、人は「共通点を持っているから集まる」ことになるのです。

 そのことを押さえておけば、主人公陣営と「対になる存在」陣営をうまくまとめるために何が必要なのかが見えてきますよね。





共通点はなんですか

 主人公陣営と「対になる存在」陣営。その集団の共通点はなんでしょうか。

 ライトノベルの主要層である中高生であれば「家族」と「幼馴染み」と「クラスメイト(と教師)」が有力な集団です。

 部活をやっていれば「部活仲間」もいると思います。

 趣味を通じた「趣味仲間」もいるはずです。


 「家族」は伏見つかさ氏『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』『エロマンガ先生』なら兄と妹の交流がテーマになっています。

 「家族」のいない中高生はあまりいませんし、毎日顔を合わせる存在ですから自然親しくもなります。

 渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の主人公・比企谷八幡なら妹・比企谷小町と母が出てくるのです。

 ヒロインの雪ノ下雪乃なら姉・雪ノ下陽乃と母、由比ヶ浜結衣なら母が登場しています。

 「家族」関係をうまく扱えるようになると中高生のウケが格段によくなるのです。


 「幼馴染み」はマンガ・あだち充氏『タッチ』の上杉達也と浅倉南、ゲーム『ときめきメモリアル』の藤崎詩織と主人公プレイヤーが代表例でしょうか。

 ライトノベルに置き換えると難しいのですが、主人公が悩んでいるとき幼馴染みが相談役になるような役回りでしたらそれなりの作品数があります。

 メインの人間関係になりづらいのは、ライトノベルにしようとすると最初から距離が近すぎてドラマが作りづらいという理由もあるのではないでしょうか。

 なのでサブキャラクターであることが多いのです。


 「クラスメイト(と教師)」はかなりふわっとしたつながりであまり強い絆で結ばれているわけではありません。

 賀東招二氏『フルメタル・パニック!』で主人公の相良宗介とヒロインでクラスメイトの千鳥かなめとの関係のようなドタバタ劇に展開しやすい。

 丸戸史明氏『冴えない彼女の育て方』も主人公とヒロインは「クラスメイト」になっています。

 中高生ならほどほどの距離感が保てるため、人間関係に煩わされることもなく脇を固められる点で便利ですね。


 「部活仲間」は学園ものでは最も用いられるつながりになります。

 谷川流氏『涼宮ハルヒの憂鬱』、渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』などつねに時代の人気上位を占めているのです。葵せきな氏『ゲーマーズ!』もメインは「ゲーム部」という部活仲間になっています。


 「趣味仲間」は川原礫氏『アクセル・ワールド』『ソードアート・オンライン』が「オンラインゲーム仲間」の代表ですね。

 『このライトノベルがすごい!』の2016年度版文庫部門第1位の白鳥士郎氏『りゅうおうのおしごと!』も「将棋」を通した「趣味仲間」と言えなくもありません。





相違点があるからキャラが際立つ

 共通点を持てばキャラクター同士のつながりに違和感を覚えません。

 とくに中高生は限られた範囲内でしか人間関係のつながりを持たないため、そのつながりをしっかりと明示しておく必要があります。

 しかしまったく同じ共通点を持つキャラクターばかりで周りを固めるのは話が別です。ただの「画一化」でしかありません。

 この出来事はそのキャラクターでなくても別にかまわない。

 他のキャラクターに代役をさせても支障がないのでは、そのキャラクターを作った意味がないのです。



 主人公と周りのキャラクター、「対になる存在」と周りのキャラクター。

 それぞれになにか違いがなければなりません。

 まったく同じならそのキャラクターを作る意味がないのですから。


 小説に要らないものは書かないほうがいい。

 なんの役にも立たないのであれば、そのキャラクターを出さなければいけない理由がありません。

 小説は登場人物を増やすごとに各キャラクターに費やせる枚数が減っていきます。

 つまり情報の密度が粗くなって存在感が薄れるのです。


 とくに「小説賞・新人賞」が要求する原稿用紙三百枚の中で、主人公と「対になる存在」との二人しか出てこなければそれぞれ百五十枚を使えますが、主人公陣営が五人いれば「対になる存在」を含めて合計六人、一人五十枚しか使えません。

 「対になる存在」陣営に四天王もいれば合計で十人出てくるので一人三十枚しか書けないのです。


 無駄なキャラクターを登場させて一人あたりの描写枚数が減ってしまうのでは、「キャラクター小説」とも別称されるライトノベルとしての魅力も低下してしまいます。

 キャラクターが独特の魅力を発するには「相違点」つまり他人とは異なっている部分があることが大切なのです。





相違点はなんですか

 キャラクターの相違点は、主に身体面と精神面と技術面に分けられます。

 身体的能力が高いか低いか、精神的支柱が堅いか脆いか、技術的スキルが高いか低いか。

 その差によってキャラクターが生きてきます。

 またキャラクターごとの人間関係の深さも相違点になります。

 親友なのかただの同窓生なのかでも主人公とのかかわり方が異なるはずです。





相違点の基準は主人公

 キャラクターの相違点の基準は主人公です。

 まず主人公は身体的能力が高いか低いか、精神的支柱が堅いか脆いか、技術的スキルが高いか低いかを決めるのです。

 一般的に主人公が万能であると「伝説の勇者」ものに、無能であると「ギャグ」ものになります。

 川原礫氏『ソードアート・オンライン』のキリトは敏捷力に特化したユニークスキル「二刀流」所持の最強剣士ですし、『この素晴らしい世界に祝福を!』のカズマは根っからのおバカです。

 主人公の能力次第で小説の内容もガラリと変わります。


 ライトノベルは中高生が主要層です。

 主人公が万能であると憧れますが、あまりに極めすぎていると「ご都合主義もいいところ」と断じられます。

 主人公が無能だと優越感を抱けますが、こちらも度が過ぎると「バカもいいところ」と断じられるのです。

 どちらもほどほどがよい。


 現代日本が舞台なら主要層である中高生と「等身大」の主人公設定がウケます。

 渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の主人公・比企谷八幡はかなりのこじらせ系ひねくれ者ですが、それ以外はそこらにいる平凡な高校生です。

 異世界転生ファンタジーは「平凡な主人公が異世界に転生したらどうなるんだろう」という興味が湧きます。

 小説投稿サイト『小説家になろう』でランキングが異世界転生ファンタジー一辺倒になってしまったのも、読み手のウケがよかったからに他なりません。


 また剣と魔法のファンタジーは派手なアクションが楽しめます。

 「読んでいて楽しい」から時間を忘れて読むのです。

 だから手すきの十分間で「読んでいて楽しい」と思える小説は人気が出ます。

 ならばこそ剣と魔法を土台とした異世界転生ファンタジーは人気が出るのです。





主人公と「対になる存在」の相違点

 主人公と「対になる存在」は基本的に相容れません。

 主人公が男子なら「対になる存在」は女子であることが多い。主人公が運動音痴なら「対になる存在」はスポーツ万能、主人公の性根が強ければ「対になる存在」はメンタルが弱い、といった具合です。

 たいていの場合は主人公のキャラ造形とは真逆を行きます。

 主人公と「対になる存在」との対比が際立つほど娯楽性が高まるからです。


 極端対極端もありますが、共通点を持つ場合もあります。

 田中芳樹氏『銀河英雄伝説』ではラインハルト・フォン・ローエングラムとヤン・ウェンリーは外見(ラインハルトは彫像的でヤンは冴えない青年士官然)と性格(ラインハルトは苛烈でヤンは温厚)は対極です。

 でも用兵家としてはともに抜群の才幹を有しています。

 身体的能力と精神的支柱が異なりますが、技術スキルはともに高水準なのです。

 群像劇の主役としての主人公と「対になる存在」との立場を保っています。

 超長編の連載小説として主人公と「対になる存在」とには相応の枚数を費やしているのです。

 そこまで費やさなければ主人公と「対になる存在」との相違点を強調できません。





仲間の相違点

 主人公陣営と「対になる存在」陣営にそれぞれ加わる仲間を見てみます。

 ともにメインである主人公と「対になる存在」とが中心にいて、その周りに共通点を有しながらも相違点のあるキャラクターを配置するのです。

 主人公との対比でそのキャラクターの持ち味が生まれてきます。

 そしてそのキャラクターでなければこなせない役割を持たせるのです。

 そうでなければそのキャラクターはいなくてもまったく支障がありません。


 前述しましたが、登場人物が増えるほど一人あたりに費やせる枚数が減ります。

 キャラクターは極力絞り込み、モブで済ませられるものはモブに任せましょう。

 どうしてもこの役割は名前があって主人公と明確な関係のあるキャラでなければ務まらない。

 それならそのキャラクターは生きています。ぜひキャラ設定をして物語に登場させてください。





最後に

 今回は「共通点と相違点」について述べてみました。

 キャラクターを作ったはいいが物語で生かせない。

 それでは「キャラクター小説」としてのライトノベルが成り立ちません。

 キャラクターの共通点を使って周りを固め、相違点で差別化する。

 それができてこそのライトノベルなのです。



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