97.実践篇:敬語について

 今回は「敬語」について簡単に述べてみました。





敬語について


 日本語には敬語があります。相手が目上なら基本的に敬語で話すのです。

 敬語は大きく三つに分けられます。

 尊敬語・謙譲語・丁寧語です。

 まずは最も簡単な丁寧語から見てみましょう。




丁寧語

 まず名詞・形容動詞に「御」を付けます。

 話し相手から差し出されたもの、話し相手に差し出すものに「御」を付けるのです。「御」は「ご」「お」「おん」「み」と読みます。


 漢字で書くと「ご飯」は「御飯」、「おみおつけ」は「御御御付け」、「お話」は「御話」、「ご意向」は「御意向」、「お体」は「御体」です。

 形容動詞なら「立派だ」が「ご立派です」となります。


 外来語である「カーテン」や「天ぷら」や「クレジットカード」に「御」は付きません。

 それぞれ「ごカーテン」「お天ぷら」「おクレジットカード」とおかしなことになるのです。

 「ご」「お」と読む場合は基本的にかなで書きます。「おん」「み」は「御身に障ります」「御柱」のように漢字で書くのです。


 また語尾を「〜だ。」「〜である。」となる常体の「だ・である体」から、「〜です。」「〜ます。」となる敬体の「です・ます体」に変えます。

――――――――

 名詞文:彼はうちのエースだ。 ⇒ 彼はうちのエースです。

 動詞文:彼は第三コースを走る。 ⇒ 彼は第三コースを走ります。

 形容動詞文:彼はもの静かだ。 ⇒ 彼はもの静かです。

 形容詞文:彼はすばしっこい。 ⇒ 彼はすばしっこい(の)です。

――――――――

 形容詞文の基本は「形容詞+です」となります。ですがこれを常体である「だ・である体」に戻すと「彼はすばしっこいだ」となりおかしな文になります。

 「だ」を付けるなら本来は「彼はすばしっこいのだ」のように「の」を間に置くべきです。

 これを敬体に変換すると「彼はすばしっこいのです」となります。


 この煩雑さのため、形容詞文はしばしば「です」も「ます」も付けないことがあるのです。

 その場合は「彼はすばしっこい」と常体のままで用います。

 「すばしっこいです」が通常です。

 「すばしっこいのです」はいいところのお嬢様が使うような改まった言い方、

 「すばしっこい」のままならかなり気さくな言い方になります。

 形容詞文の敬体はその場や話す人の性格などを考慮して選ぶとよいでしょう。





尊敬語

 尊敬語は「相手の動作を敬って持ち上げる言葉遣い」です。

 基本形は動詞の連用形を「御〜になる」にしたり「-aれる」の形に変えたりします。

 「話す」を「お話しになる」にするのが「御〜になる」の形です。

 「-aれる」は「渡す」を「わたs-aれる」→「渡される」にする意です。

 「得る」は「えr-aれる」→「得られる」になります。「見る」は「みr-aれる」→「見られる」になるのです。

 「する」の尊敬語である「される(s-aれる)」もこの形です。


 「御〜になる」の場合は別の語幹に変わることもあります。

 一段動詞「見る」を連用形にしても「見」だけが残り「御見になる」とすると通じません。

 この場合は「ご覧になる」に変わるのです。

 「来る」も「お見えになる」になります。

 「死ぬ」も「お死にになる」と言えなくもないですが基本的には「お隠れになる」のように語幹を変えるのです。


 なお「御〜になる」と「-aれる」は一緒に用いることができません。

 使うと「二重敬語」のルール違反になります。

 「見る」は「ご覧になる」か「見られる」かになりますが、重ねて「ご覧になられる」とするのはルール違反なのです。

――――――――

 彼は第三コースで走る。 ⇒ あの方は第三コースをお走りになる。

 彼は第三コースを走る。 ⇒ あの方は第三コースを走られる。

 彼は横綱を見た。 ⇒ あの方は横綱をご覧になった。

――――――――

 また特定の動詞は別の動詞へ変換することでさらなる敬意を表すことができます。

「する」を「なさる」、「言う」を「おっしゃる」、「食べる」を「召し上がる」、「来る」を「いらっしゃる」とする類いです。

 こちらも「御〜になる」「-aれる」形と同時に使えば二重敬語です。

 「おっしゃる」をさらに敬意を高めようと「おっしゃられる」とするのは誤りになります。

 これは結構な確率で見られるルール違反です。





謙譲語

 謙譲語は「相手を敬って自己の動作をへりくだる言葉遣い」です。

 基本形は「御〜する」になります。

 「話す」を「お話しする」、「渡す」を「お渡しする」にする形です。


 こちらも語幹が変わる場合があります。

 とくに一段動詞の場合は他の語幹に変わるので要注意です。


 「見る」を「お見する」ではなく「拝見する」にします。

 五段動詞の「行く」を「お伺いする」に変えるようなパターンもあるのです。

 「考える」を「愚考する」のように「愚〜」とする例もあります。

――――――――

 私は先生に話した。 ⇒ わたくしは先生にお話しした。

 私は横綱を見た。 ⇒ わたくしは横綱を拝見した。

 私はそのように考えた。 ⇒ わたくしはそのように愚考します。

――――――――

 また特定の動詞は別の動詞へ変換することでさらなる謙譲の意を表すことができます。

 「する」を「致す」、「いう」を「申す」「申し上げる」、「食べる」を「頂く」、「もらう」を「賜る」「頂く」「頂戴する」、「行く」を「参る」、「尋ねる」を「伺う」、「あげる」を「差し上げる」、「思う」を「存ずる」とする形です。


 「御〜する」を「〜させていただく」の形にすると二重敬語のルール違反となります。

 「〜させる」はこちらから働きかけて相手に行なわせる意ですが、「いただく」は「もらう」つまり先方からこちらに受け取る意だからです。

 つまり「お話しします」を「お話しさせていただきます」とするのは誤りになります。

 「お話しします」でじゅうぶん謙譲の意は伝わるのです。

 「お話しします」ではどうも軽いと感じるときは「お話し致します」としましょう。

 厳密にいうとこちらも「御〜する」と「する」の謙譲の組み合わせなので二重敬語の誤りになりますけどね。

 でも「御〜致す」は現在許容される書き方です。





敬語は専門書を必ず用意しておこう

 尊敬語と謙譲語は、特定の動詞が変換される例も多いため、詳しくは敬語の専門書を購入しましょう。

 それを使って敬語が必要な場面で一つひとつ書籍で調べていって、書き慣れる以外に上達のすべはありません。

 文章全般にいえますが、とくに敬語はかなり意識的に習得しようとしないかぎり憶えられません。

 だから必ず専門書や類語辞典を用意して、尊敬語と謙譲語のある動詞なのかをチェックすべきです。

 もし困ったら尊敬語は「御〜になる」「-aれる」の形、謙譲語は「お〜する」の形だけにしてもかまいません。

 おぼつかない単語を使うよりも確実に敬語であることが伝わります。





最後に

 今回は「敬語」についてざっと触れました。

 敬語は特殊な使い方が多いため、必ず専門書を購入してつねに勉強する必要があります。

 小説を書いているうちに、目上の人と話す場面もいずれ必ず出てくるものです。

 そのときに敬語が使えないようでは「物書き」としては程度が低いと先方に見なされてしまいます。

 小説を書く以上、人一倍敬語に気を払うべきです。



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