95.実践篇:字句を強調するには
今回は「字句の強調」を取り上げました。
字句を強調するには
すべての文が等しく重要なわけではありません。
かるく読み流してくれていい文と、なんとしてでも読み手の「心に痕跡を残す」ようにしたい文があるはずです。
それをどう書き分ければよいのでしょうか。
いくつか例示していきます。
体言止め
「体言止め」は中学生のときに習いましたよね。
そのくらい簡単な方法です。
「体言止め」をすれば強調したい体言をひじょうに断定的に示して強調できます。
基本は名詞文か形容動詞文の「〜だ」から「だ」をとる形です。
名詞文・動詞文・形容詞文・形容動詞文を転換して述語を主語の修飾語として主語を「体言止め」にするテクニックもあります。
「だ」をとる場合と転換する場合では強調する体言が異なりますので、勘違いしないようにしましょう。
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宏美は女性だ。 ⇒ 宏美は女性。
もしくは転換して 女性の宏美。
宏美はせっかちだ。 ⇒ 宏美はせっかち。
もしくは転換して せっかちな宏美。
宏美は脇目も振らず走った。 ⇒ 脇目も振らず走った宏美。
宏美は気ぜわしい。 ⇒ 気ぜわしい宏美。
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倒置法
「倒置法」も中学生のときに習っていますよね。
基本は単文の主語を述語より後に置く構造です。
「体言止め」の転換形もそれは同じになります。
「倒置法」はそれよりも長い文章でも成立させることができるのです。
述語の後に読点「、」を入れて「倒置法」であることを表します。
これにより通常の構文よりも主語などが強調されるのです。
応用として「倒置法をして副詞で止める」こともできます。
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せっかちな宏美は余裕を持って車の運転ができなかった。
⇒余裕を持って車の運転ができなかった、せっかちな宏美は。
明日はきっと晴れるだろう。
⇒晴れるだろう、明日はきっと。
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追記法
「追記法」は「倒置法」ととても紛らわしいです。
基本は「倒置法」と同様、単文の主語を述語より後に置く構造になります。
見た目の違いは、述語の後に句点「。」を入れて「追記法」であることを示すことくらいです。
句点「。」が入れてあるので、時間も当然前文よりも進んでいます。
「倒置法」では読点「、」で区切っているため、同じ時間であることがわかるでしょう。
「追記法」を用いると「一度文章が完結した、かに見せて実は続きがあった」という効果が期待できます。
追記した部分を強調したわけです。
次の文は「追記法」になります。「テレビを見ていた」後に「父が帰ってくる」わけですからね。
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⇒母と二人で面白おかしくテレビを見ていた。厳格な父が帰ってくるまでは。
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反復法
「反復法」は同一または類似の語句を繰り返す手法です。
「遠い遠い昔」「松島やああ松島や松島や」「嬉しや喜ばしや」「酒が飲める、酒が飲める、酒が飲めるぞ」の類いになります。
繰り返し同じようなことを唱え続けるのです。
読み手の印象に残らないはずがありません。
ただ現代で用いるとちょっとキザな印象を受けます。
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⇒好きです。好きです。あなたのことが。恋しい。恋しい。あなたのことが。
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列挙法
「列挙法」は体言なら体言をずらずらと、用言なら用言をずらずらと並び立てる手法です。
基本的に体言は単語で、用言は動作や状態の単文で用います。
「地震、雷、火事、親父」「清く、正しく、美しく」が典例です。
体言で並べると「体言止め」を連発したような小気味よいリズムが刻めます。
用言を連発すると動作にテンポが生まれるのでアクションを畳みかけるのに使い勝手がよいです。
このように文章にリズムとテンポを生むのが「列挙法」の特徴となります。
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⇒青空、白雲、飛燕、陽光。世間はすっかり春真っただ中だ。
⇒剣が振り下ろされる。ひらりとかわす。刀で反撃した。剣で受け止められる。刃を滑り込ませる。剣で弾かれる。体勢が崩された。そこへ一蹴り食らう。背中から地面へ叩きつけられた。
こうして勝敗が決したのである。
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例を三つ挙げる
「例を三つ挙げる」は文字通り「何かを説明したいなら、例を三つに絞って挙げる」手法です。
三つ挙げるだけで格段に説得力が増します。
政治家には「三バン」つまり「地盤、看板、カバン」が必要だと昔から言われているのです。
徳川家も「尾張・紀州・水戸」の「御三家」で構成されています。
「三種の神器」といえば「八咫鏡・草薙剣・八尺瓊勾玉」です。
中国の三国時代は「魏・呉・蜀」の三国による勢力争いでしたし、劉備玄徳は軍師として諸葛亮孔明を陣営へ引き入れるために「三顧の礼」をとりました。(まぁ「三顧の礼」は三回訪ねたのではなく毎日訪ねた可能性もあります。古代中国で「三」は「すべての」を意味する文字だからです。当時「全軍」のことを「三軍」と呼んでいたことからもそれが窺えます)。
列挙法で挙げた「清く、正しく、美しく」も「例を三つ挙げる」ことになっていますね。
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⇒仕事の基本といえば「ホウレンソウ」だ。上司への報告・連絡・相談である。
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カッコ“( )”やダッシュ“――”
文章を書いていると「この字句は少し補っておいたほうがいいな」と思う場面が出てきます。
細かいニュアンスを表現するために次文を用いる手もありますが、できれば一文ですっきり収めたい。そういうときはカッコやダッシュを用いて補足していくことになります。
ダッシュは入る際には必ず二個セットで用いますが、終わるときは二つセットで使うか省略するかなので注意しましょう。
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直人はテーブルの上にあった醤油差しを掴んで雅也に投げつけた。その醤油差しにはウスターソースが入っていたのだが。
⇒直人はテーブルの上にあった醤油差し(中身はウスターソース)を掴んで雅也に投げつけた。
⇒直人はテーブルの上にあった醤油差し――中身はウスターソースを掴んで雅也に投げつけた。
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最後に
今回は「字句を強調するには」について述べてみました。
強調するにはさまざまな方法があります。
その中で場面によってどれがふさわしいかを的確に選んで使えるようになれば、文章の表現が格段に進化するのです。
「体言止め」「倒置法」といったよく知られているものから使い始めてはいかがでしょうか。
ただし使いすぎにはご用心ください。途端に陳腐な小説に成り下がってしまいます。
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