90.実践篇:説明と会話を使いこなす

 今回は「説明と会話」についてのお話です。

 説明ばかり続くと能書きがうるさく感じます。

 そこでいくらか会話に振り分けてバランスをとります。





説明と会話を使いこなす


 「説明」文は文字通り設定を披露するために存在します。

 いっさい「説明」をしない小説はなかなか難しいのです。


 とくに一人称視点であればすべて主人公目線になりますから必然的に「描写」が多くなります。

 「説明」を主人公にどう語らせるかが腕の見せどころです。


 三人称視点や神の視点なら「説明」を地の文で容易に書けます。

 「描写」を忘れて舞台設定の「説明」を長々と書いてしまえるくらいに。


 「設定」を読み手に把握してもらいたい。

 これは書き手なら肝に銘じなければならない問題です。


 「説明」するのが難しくて、つい「描写」だけでなんとかしてしまおうと考えてしまう書き手も多くいます。

 いっさい「説明」をしないと、いつどこでなにが起きているのかが読み手にさっぱり伝わりません。

 そんなふわふわとした小説を読んで、明確なイメージを脳裏に描けるものでしょうか。


 無理ですよね。





一人称視点での説明と会話

 まず一人称視点での「説明」と「会話」について見ていきます。

 書き手が最も書きやすいスタイルが一人称視点です。

 主人公が見たもの聞いたもの感じたものをそのまま文章にしていけばそれなりの小説になります。

 逆に言うと主人公が見たもの聞いたもの感じたものをそのまま文章にしてしまうがために、「説明」が必要なのに「描写」に偏ってしまうおそれがあるのです。

 出来事や事実を客観的に淡々と語らず、主人公からの見え方だけが書かれてしまいます。


 一人称視点の場合、地の文で直接「説明」を書くと、その文だけが文章から浮きます。

 主人公の見たもの聞いたもの感じたものをそのまま書いてある文章の中で、客観的に淡々と「説明」する文が入るわけなので当たり前です。


 ではどうすれば「説明」を加えて「描写」とのバランスをとればよいのでしょうか。


 「会話」文をうまく使うことです。


 話し相手がいて、設定の情報を「会話」の形でやりとりすれば、それほど無理せずに「説明」を行なえます。

――――――――

「昨日の夜、駅前のコンビニで強盗があったんだって」

「ホントかよ。いくらぐらい盗られたんだ?」

「店員の話だと五万円くらいらしいよ」

「コンビニって金ありそうなのに案外ないんだな」

「レジの中なんてそんなもんだろうな」

――――――――

「会話」だけを使って設定を読み手に提示してみました。

 いつ「昨夜」どこで「駅前のコンビニで」何が起きたのか「強盗が起きた」が示されています。簡単に「説明」する事ができました。


 この「会話」が成立するには「事情通の人物」と「何も知らない人物」との「会話」である必要があります。


 双方が知っている内容について書けなくもありませんが少し難しいです。

――――――――

「昨日の夜、駅前のコンビニで強盗があったんだって」

「あ、それ知ってる。確か五万円くらいとられたんだよな」

「コンビニって金ありそうなのに案外ないのかな」

「レジの中なんてそんなもんだろうね」

――――――――

 いちおう「会話」は成立しているように見えます。

 でも双方が知っていることをあえて「会話」で見せることに少々無理を感じませんか。

 「事情通の人物」と「何も知らない人物」との「会話」に比べて「いかにも説明くさい」文章になりました。


 そこでメディアを利用して設定を読み手に提示する方法があります。

――――――――

 俺と兄は一緒に朝食をとりながらテレビを見ていた。

〈昨夜、○○駅に程近いコンビニエンス・ストアで強盗事件が発生しました。店内は店員一人だけでしたが、ケガはありませんでした。店の話では被害額は五万円ほどだそうです〉

「おいおい、うちの近くじゃないか。物騒だな」

 兄が話題を振ってきた。俺が、

「コンビニって金ありそうなのに五万円ぽっちか」

 と言うと兄は応えた。

「レジの中なんてそんなもんだろうな」

――――――――

 「会話」だけのときよりも多くの情報を客観的に淡々と「説明」することができました。


 このように「客観的に淡々と」伝えるメディアの特性を利用すれば、無理せず設定を「説明」することができます。

 かといってすべての設定をメディアで見せるというのも芸がないです。



 地の文でも「描写」を意図的に「説明」にして入れ込んでいく手もあります。

――――――――

 わぁ、寝坊した! ベッドから急いで起きるとパジャマを脱いで制服に着替えていく。

 朝飯を食べていたら確実に遅刻してしまうじゃない。階段で二階から下りてキッチンに駆け込んだ。

 そこにお母さんが待ち受けていて「遅くまで起きているから寝坊するのよ」と言われてしまった。

「時間がないから朝飯はパス! 弁当できてる?」

「はい、これ持っていきなさい」

 お母さんから風呂敷に包まれた弁当箱を受け取ると慌ててカバンに詰め込み、急いで玄関に向かった。

――――――――

 「ベッドから急いで起きると〜」「階段で二階から〜」の二文が「説明」でそれ以外が「描写」と「会話」です。

 「描写」の中に「説明」を入れ込んでいるのにそれほど違和感なく読めたと思います。

 入れ込み方のコツは「文末を繰り返さない」要領です。

 「描写」と「説明」を交互に入れていきます。

 「描写」文の森の中に「説明」の木を紛れ込ませるのです。


 上記では読み手にそれほど違和感を与えることなく「説明」できました。





三人称視点での説明と会話

 三人称視点は、地の文をつねに客観的に淡々と書くことになります。つまり「説明」文と相性が良いのです。

 だから膨大な設定を読み手に伝えるなら三人称視点のほうが優れています。


 世界観を創り込んだ作品なら、どうしても設定を余すところなく見せたい。

 そう思って当然で、それには三人称視点が向いているのです。


 その代わり一人称視点で見せられる主人公の躍動感が不足しがちになります。

 相性が良すぎていつまでも設定を「説明」し続けてしまうのが三人称視点の欠点です。

 「描写」とのバランスを著しく欠いてしまいます。


 そこで「書き手目線」で状態や程度を「描写」して、「読み手目線」でその「描写」を感じさせる書き方が必要になるのです。

――――――――

 ドレイク一行は荒れ野を歩いていた。日差しが強く照りつけ、一行の体力を消耗させていく。

 すると突然大きな影に覆われた。ドレイクたちが手をかざしながら太陽のあったほうを向くと、そこには翼を持つ巨大なトカゲのような赤色の生物が飛んでいた。

「レッドドラゴンだ!」

 賢者が鋭い声で叫ぶ。レッドドラゴンと呼ばれた空飛ぶ巨大トカゲは彼らの目の前に舞い降りた。

〈汝ら、この地に何用か〉

 ドレイクたちの頭に直接声が聞こえてきたようだ。

――――――――

 この文章は基本的に「説明」文です。ただし「巨大なトカゲのような」「レッドドラゴンと呼ばれた空飛ぶ巨大トカゲ」「声が聞こえてきたようだ」はいずれもキャラの感想を述べている「描写」文として機能しています。

 「〜ような」「〜そうな」は比喩の一つ「直喩」です。誰かが何かにたとえた文となります。つまりこれらの文は三人称視点である「書き手目線」で「たとえた」わけです。それを「読み手目線」で「描写」として感じさせることができました。


 三人称視点の場合は「説明」文の森の中に「描写文」の木を紛れ込ませているのです。


 それだけでなくキャラ同士の「会話」によって「描写」することもできます。

――――――――

 ドレイク一行は荒れ野を歩いていた。一行の最後尾を歩いていたトレイルが、

「こう日差しが強いと体力を奪われていくだけだな」

 とぼやくとふいに一行は大きな影に覆われた。

 ドレイクたちが手をかざしながら太陽のあったほうを向くと、赤色の巨大な生物が飛んでいた。

「レッドドラゴンだ!」

 賢者が鋭い声で叫ぶ。

「この羽の生えた大きなトカゲがドラゴンだっていうのかよ」

 翼のある巨大トカゲは彼らの真ん前に舞い降りた。

〈汝ら、この地に何用か〉

 ドレイクたちの頭に直接声が聞こえてきたようだ。

――――――――

 このように情報を「会話」文にして書けば「描写」として機能するのです。

 さきほどの「描写」を紛れ込ませる手法と合わせて使えば、「説明」臭くない「説明」が可能になります。

 ただし「会話」を使うと文章がそれだけ長くなってしまいます。


 「説明」文を「描写」文にするだけならそれほど長くなりません。

 しかし「会話」文にするとニュアンスを加えたり説明臭くさせないために、それなりの長さを要するのです。


 取り立てて重要でない「説明」文を「会話」文にするのは冗長になるだけ。

 重要な情報だけを「会話文」で印象づけるのです。


 重要でない情報は「説明」でさらっと流すようにすれば、情報の重要度を読み手に感じさせる役割も期待できます。





最後に

 今回は「説明と会話を使いこなす」ことについて述べてみました。

 重要な情報は「会話」にすると読み手の印象に残ります。

 さして重要でない情報は「説明」であっさりと片づけましょう。

 それだけで読み手に必要な情報を的確に提供することができます。



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