91.実践篇:フィクションの作り方

 今回は「フィクション」についてのお話です。

 レベルが高くなると決めることが多くなります。

 初級篇で書きましたが必要なところだけ設定してくださいませ。





フィクションの作り方


 現実ではありえないこと(フィクション・架空)は小説に必要不可欠です。

 「ノンフィクション小説」というジャンルもありますが、現実ではいつもビデオカメラが回っているわけもありません。

 「真実だけを書く」ということは実質不可能です。


 当事者に取材して「事実と思われるもの」を聴き取っていく。

 そこから「おそらくこれが真実だろう」というものに絞って書くのが「ノンフィクション小説」です。

 「ノンフィクション小説」ですら「フィクション」が幾分混じっています。

 ましてミステリー小説やSF小説やファンタジー小説はあらゆるところが「フィクション」だらけで当たり前です。

 では小説で「フィクション」をどう書いていけばよいのでしょうか。





架空の時空を書く

 小説には「いつ」「どこで」「誰が」いて「何が起こって」「どうなったか」といった情報が必要になります。

 その中でも「いつ」「どこで」をまず書かないことには、読み手はどうやって頭の中で小説の世界観を思い浮かべればいいのでしょうか。

 書き手からテレパシーで受け取るわけにもいきませんよね。

 だから必ず「いつ」「どこで」を書く必要があります。


 地球で起こった歴史について書いた小説なら、「どこで」起こった「いつ」の話なのかをまず明示します。

 「日本の江戸幕府末期(幕末)」の話、「アメリカの独立戦争」の話、そういったものです。

 エッセイや随筆であれば「昨日起きた近所」の話かもしれません。

 とにかく小説には「いつ」「どこで」が必要なのです。

 現代日本を舞台とするなら渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』のようにほぼ現実世界を用いることができる作品があります。

 日常ものや部活もの、現代の恋愛ものはそれだけ作りやすいのです。


 日本のミステリー小説は基本的に日本が舞台ですが「いつ」の話かや詳しい地名は決まっていないものです。

 でも「いつ」はたいてい執筆中の最近の話になります。

 そうしないとトリックや動機の整合性がとりづらいのです。

 「同時代性」が関係しています。

 いちいち時代考証しながら書くというのも手間ですしね。

 またとくにミステリー小説の場合は、主に殺人事件や傷害事件が起きます。

 実際に存在する地名にすると関係各所との軋轢を生じかねません。

 だから地名の漢字が違うとか読みが一字違うとかしてわざとズラして書かれていることが多いのです。


 最後に「この作品はフィクションです。実際の地名・人名・団体名とは……」と書かなければならないのもそういった配慮でしょう。





SF小説とファンタジー小説は難しい

 SF小説は舞台が地球であっても話がスケールアップしやすい。

 ライトSFなら「少し不思議」な程度で済むので現代にプラス・サイエンスであってもじゅうぶんお話が作れます。

 賀東招二氏『フルメタル・パニック!』のアーバレストがプラス・サイエンスな設定です。

 スペースオペラに見られる銀河を股にかけるようなSF小説たとえば田中芳樹氏『銀河英雄伝説』であればどの銀河、どの星系、どの惑星の話なのかを読み手に教える必要があるのです。


 ファンタジー小説にも同じことがいえます。

 ライトファンタジーは現代とほぼ変わらないけどなにか「ありえないこと」のある世界です。鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』が代表といえます。

 ハイファンタジーはどういう大陸、どういう国、どういう町の話なのかを教える必要があるのです。

 ライトノベル黎明期は今で言うハイファンタジーがほとんどで、水野良氏『ロードス島戦記』や神坂一氏『スレイヤーズ』のように異世界が舞台でした。

 なので黎明期のハイファンタジー小説は「ファンタジー」というジャンル名だけでじゅうぶん通じていました。


 今は鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』のように現代にプラス・ファンタジーな小説が一定の地位を占めており、これらが一般名である「ファンタジー」と呼ばれるようになったのです。


 そのため『ロードス島戦記』や上橋菜穂子氏『精霊の守り人』、J.K.ローリング氏『ハリー・ポッター』などは「異世界ファンタジー」と区分しなければならなくなりました。

 『とある魔術の禁書目録』などを「現代ファンタジー」と言ってもいいはずなのですけどね。


 小説投稿サイト『小説家になろう』で人気のある「異世界転生ファンタジー」「異世界転移ファンタジー」のように現在では「異世界ファンタジー」ですらさらに細かくジャンルが分かれてしまうことになっています。



 SF小説とファンタジー小説が難しいのは「いつ」「どこで」をどう読み手に語ればいいのかの線引きにあるでしょう。

 うまく書けないけどSFやファンタジーを書きたいとなれば「ライトSF」「ライトファンタジー」を選ぶことになります。

 現代に依拠するため数少ない「ありえないこと」をその都度書いていけばいいだけですからね。


 これがスペースオペラやハイファンタジーとなれば、どういう世界なのか、そこから考え出さなければなりません。

 しかも作った設定を読み手にすんなり受け入れてもらうために、どう書き連ねていけばいいのかが頭を悩ませます。自由に世界を作れる反面、読み手に世界観を伝えるのが難しいのです。

 そこで以下はスペースオペラやハイファンタジーのような全面的にフィクション「ありえないこと」のある世界をどう書けばいいのかについて述べていきます。





場所を決める

 先に「いつ」を決める書き手もいますが、ここでは「どこで」から作ろうと思います。

 なぜならスペースオペラもハイファンタジーも現代とはまったく異なる世界ですから、「いつ」が先にわかったところでどんな世界なのかはさっぱりわからないからです。

 先に「いつ」を決めてしまうと場所の設定に苦労することにもなります。

 なので「どこで」つまり場所を先に決めておくのです。


 フィクションの場所が日本であってもまったく問題ありません。

 そこでまずは「どんな場所を舞台にして物語を作ろうかな」と考えてください。

 「この国とあの国が戦争中で、この国の側から見た物語」のように考えます。

 「この世界は魔王が魔物を各地に放って、人間は地域ごとに固まって生活している物語」というのもよくある設定です。

 それが決まれば具体的に地図を起こしていきます。


 この大陸はこういう感じに国が分かれていて、その中でこの国とあの国が戦争中。それぞれを支援している国々はどことどこか。

 そういう状況をひと目で確認できるようにするには、やはり地図があったほうがよいのです。

 方眼紙に適当に線を引いてどこが国境か、くらいの大雑把なものでかまいません。中心となるこの国とあの国の位置関係をブレさせないために書くだけですから。

 日本が舞台なら日本地図を確認して東京と大阪が勢力を競い合っているといった、ふわっとした設定を作っていきましょう。





時代を決める

「どこで」が決まったら「いつ」を決めます。

 ハイファンタジーでは「いつ」と言われてもその起点が断定できないこともあります。

 水野良氏『ロードス島戦記』には「○○暦何年」のような表記がありません。つまり「いつ」の起点そのものを決めていないのです。

 逆にSF小説である田中芳樹氏『銀河英雄伝説』では「宇宙暦何年、帝国暦何年」のようにみっちりとした暦が存在します。これはSF小説だからとも言えるでしょう。

 ファンタジーは「○○王何年」といった暦が使われやすい傾向があります。古代中国の暦や日本の和暦に近いからです。

 そして時間経過については暦がわからなくても「あれから何年」と書くことになります。

 それでも何月何日かを明確に書いているハイファンタジーもあるんですよね。このあたりは書き手の性格が表れる点ではないでしょうか。



 SF小説は「西暦何年」「宇宙暦何年」のような絶対的な年代が好まれる傾向にあります。

 SFとは「サイエンス・フィクション」ですから、絶対的な年代を決めて書き手は「その頃にはこんなテクノロジーが存在しているんじゃないかな」という想像を膨らませるのです。

 読み手は「その頃はこんな世の中になっているのかな」とこれまた想像を膨らませます。需要と供給が一致しているため、SF小説では絶対的な年代が好まれるのでしょう。


 SFといっても「すこしフシギ」がモットーの藤子・F・不二雄氏。

 彼の書いた『ドラえもん』のドラえもんは二十二世紀から来た設定ですよね。

 その頃にはドラえもんがいても不思議はないかなという藤子・F・不二雄氏の想像の賜物です。


 同じ藤子・F・不二雄氏『パーマン』では年代がわかりません。

 まぁ『ドラえもん』ものび太たちの暮らす年代まではわからないんですけどね。

 ただ双方とも連載マンガだから、連載当時の年代がそのままかそれほど差がないかで使われていたのではないでしょうか。

 このあたりが「ライトSF」としての「すこしフシギ」らしいところです。





生きている生物を決める

 「いつ」「どこで」が決まったら、そこで生きている、暮らしている生物について考えてみましょう。

 小説は人間が書いて人間が読みますから、当然人間は出てくることになります。そしてハイファンタジーなら亜人デミヒューマンや妖精や精霊、SFなら異星人エイリアンが共存しているはずです。


 耳タコですが、エルフの耳がウサギのように長いと日本人に認識されたのは水野良氏『ロードス島戦記』がまだPCゲーム雑誌『コンプティーク』でTRPGテーブルトークロールプレイングゲームのリプレイが始まる前号まで遡ります。

 このときから挿絵は出渕裕氏が手がけていたのですが「エルフの耳はとがっている」という情報をもとにウサギのように長い耳になったのです。TRPGのもととなったJ.R.R.トールキン『指輪物語』ではエルフの耳はとがっているといってもSFドラマ『スタートレック』のミスター・スポックのように上の部分がちょこっととがっている程度に設定されています。

 こういった勘違いから、リプレイが小説化されたときエルフのディードリットは「ハイエルフ」というエルフの上位種に位置づけられたのです。

(のちに「ハイエルフ」という存在は本家『Dungeons & Dragons』に取り込まれました)。


 エルフは亜人/妖精の中では最も知られた存在ではないでしょうか。

 それでも『指輪物語』準拠なのか『ロードス島戦記』準拠なのかで外見が変わってきます。

 つまり一般的に知られているからといって同じ人種の名前を出すだけでとくに外見を書かなくていいということにはなりません。

 いや、知られているからこそ積極的に書かなければなりません。



 自分の小説に登場する「エルフ」はこういう外見をしているんだ。

 そう主張していなければただ人種が「エルフ」というだけの存在にすぎなくなります。

 外見はどんなだ。性格はどんなだ。人類をどう見なしているのか。どんな生活をしているのか。説明すべき点は山ほどあります。


 それらの情報がすべて出揃った時点で、読み手があなたの小説で書かれている「エルフ」を再認識した際に『ロードス島戦記』準拠だったんだとわかっても損はないのです。



 あなたの作った小説世界にはどんな人種が住んでいますか。どんな獣が棲んでいますか。どんな魔物が跋扈ばっこしていますか。

 それらすべての生物がどんな形で共存・対立していますか。

 これらをすべて設定しても、小説ですべてを説明しようとはしないでください。読み手は設定の能書きが読みたいのではありません。物語ドラマが読みたいのです。





社会経済を決める

 生物が決まると社会(コミュニティー)を決める必要が出てきます。

 コミュニティーの決定はおさに従っているのか、村一番の年寄りに一任しているのか、占いで決めているのか、物事すべてを多数決で決められているのか。コミュニティーの形を決めるのです。

 長がいる場合でも封建制なのか皇帝制なのか共和制なのかなども決めていきます。また男女や大人と子どもの役割分担などもあるはずです。つまり職業も生まれてきますよね。



 コミュニティーができると流通も気になります。

 シェアしているのか物々交換なのか通貨があるのか。

 食べ物はいくらで買えて、武具はいくらで買えるのか。


 通貨が出てきたので書き及んでおきますが、通貨の他にもいわゆる「度量衡」つまり長さ・体積・重さの単位も必要になってきます。

 異世界ファンタジーなのにメートルやグラムを使うのはおかしいですよね。

 かといってまったく独自の単位を考え出しても、読み手にはうまく伝わりません。


 そこで単位の名称は違うけど数値は同じにする方法が考えられます。

 1メートルを1ファビュラスと呼ぶことにすれば、20メートルは20ファビュラスです。こうしておけば単位に頭を悩ますことも少なくなります。


 すべてのコミュニティーで設定する必要はありません。物語に登場する場所のみ決めておけばいいのです。

 前項と重ねます。読み手は物語ドラマが読みたいのです。





技術を決める

 SFやファンタジーは「ありえないことフィクション」が小説の魅力です。

 その世界では魔法はどれだけ進んでいて、どのくらいの魔法が一般に普及しているのか。

 量子コンピュータがあってディープ・ラーニングで瞬時に世界のあらゆることを解析できるコンピュータがあったり、スマートフォンのように手元であれこれ検索できる一般技術化されたものがあります。

 「ありえないことフィクション」は限界で何ができるのか、一般人では何ができるのか。

 その描写をすることが「技術を決める」ことです。





最後に

 今回は「フィクションの作り方」について述べてみました。


 まず場所を決め、次に時代を決めます。そして生物とその社会を定めていけば、「フィクション」の誕生です。


 もちろん現代日本を舞台にして架空の都市を創るのでもかまいません。

 その場合でも社会構造は決めておかないとどんな都市なのか読み手には想像がつかないのです。

 鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』の例もありますからね。


 物語の筋だけを書くのではなく、「フィクション」をどの程度織り込んでいくのか。

 それが書き手の腕の見せどころです。



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