89.実践篇:説明と描写の違い
今回は「説明と描写」の違いについてです。
でも区別がつきにくい面もあるのです。
説明と描写の違い
地の文には「説明」と「描写」があります。
一見同じ文のように見えて、実際には「説明」と「描写」に分かれているのです。
そこで、今回は「説明」と「描写」の違いについて述べたいと思います。
(ここですべて説明しきれていないので、この後も何度か説明と描写について語る回があります)。
説明文とは
「説明」文とはそのものずばり「説明している文」です。
何をどう書けば「説明」文なのでしょうか。
起きていることや事実を「私情を挟まず」淡々と書いて、読み手に必要な情報を提供する文。
それが「説明」文です。
――――――――
下校途中に二十代の女性と出会った。きらびやかな格好をしている。
見惚れていると女性がこちらへ歩いてきた。
「あたしに何か用?」
低い声が鳴り響く。女性は女装した男性だったのだ。
――――――――
すべて起きていることや事実のみを「私情を挟まず」淡々と書いています。
「説明」文は主に舞台設定や見た目だけを書くために用いるのです。
ただ淡々と。
一人称視点の場合は主人公が見たもの聞いたものはそのまま書けます。
そこに主人公が思ったこと、感じたこと、考えたことを差し挟んではいけません。
それでは「描写」文になってしまうからです。
「説明」文だけでは、あまりにも淡々としすぎてお説教かお経のような文章になってしまいます。
読んでいて「面白い」と思うよりも「だからどう感じればいいの?」と平板すぎる文章を「読まされている」ように感じてくるのです。
視点を持つ人がどう感じるのかを書かなければ結局は「お経」になってしまいます。
描写文とは
「描写」文とは「ある立場から出来事で感じたことを述べている文」です。
こちらは「私情を挟んで」多彩に書き、読み手に特定の感情や感覚や印象を与える文になります。
これが「描写」文です。
――――――――
下校途中に二十代と思しき女性と出会った。ずいぶんと派手な装いをしている。
あまりにも美しすぎてついまじまじと見つめていると、美女がこちらへつかつかと歩いてきた。
「あたしに何か用?」
腹の底に響くような低い声が轟く。女性と思っていた人は女装した男性だったのだ。
――――――――
「思しき」「ずいぶんと」「あまりにも美しすぎて」「まじまじと」「腹の底に響くような」「思っていた」はすべて視点を持つ人物の感情や感覚や印象が込められています。
「描写」文は主に視点を持つ人物が出来事や事実などをどう受け止めたのか、どう感じたのかを読み手に伝えるために用いるのです。
一人称視点なら主人公がどう受け止めたのか、どう感じたのかをそのまま書けます。
ただ「描写」文ばかりでは感情の吐露が著しくて、平静な状態で出来事や事実を語ることができません。
読んでいて「面白い」とは思いますが「意味のよくわからない話だな」と感じて明確な意味がない文章を「読まされている」ように感じるのです。
視点を持つ人が出来事や事実を平静に説明できなければ「意味のよくわからない話だな」と思われてしまいます。
説明と描写は表裏一体
「説明」文だらけで「描写」文が足りないと、散々うんちくを聞かされ続けているようなものです。
「描写」文だらけで「説明」文が足りないと、感情がこもりすぎて状況が今ひとつ飲み込めなくなります。
程よいバランスをとることがたいせつなのです。
ではどのあたりが「程よいバランス」なのか。これは
視点を持つ人が平静な状況下にあれば「説明」文が多くなって「描写」文が少なくなります。
平静でいられない状況下では「描写」文が多くなって「説明」文が少なくなるのです。
感情が平静であるかどうか。
これが「程よいバランス」の目安になります。
冷徹な人はどんなときも「説明」が多めになるのです。
感情を表に出しやすい子どもは「描写」が多めになります。
実際官僚の書く文章と小学生の書く作文は違っていてしかるべきです。
官僚は冷静に「説明」しようとしますが、小学生は感情の赴くままに「描写」しようとします。
「説明」と「描写」は表裏一体なのです。
一文で「淡々」と出来事や事実だけを書くか、出来事や事実から受ける「感情や感覚や印象」を含めて書くか。
その差だけです。
だから読み手から「説明しすぎですよ」「描写しすぎですよ」と言われたら、「感情や感覚や印象」を出し入れしてください。
ほんのわずかな書き直しだけで読み手は納得してくれます。
ライトノベルでの説明と描写
「説明」文と「描写」文は基本的に相容れません。
一文の中で一方を「説明」しもう一方を「描写」することはあります。
視点を持っている人は「描写」できるけど、視点でない人を書くときは「説明」するしかないからです。
ライトノベルでは「説明」の後に「描写」を書きたければ改行します。
「描写」の後に「説明」するときも改行するのです。
これだけでかなり見た目のよい(ページの下が軽い)文章に仕上げられます。
そして小説を読み慣れない中高生が読みやすくなるのです。
大衆小説(エンターテインメント小説)や文学小説なら「説明」と「描写」は交ぜ書きしてかまいません。
そもそもあまり頻繁に改行していると大衆小説や文学小説としては「質が低い」と判断されてしまいます。
これらの小説のとき、改行するのは文の主体が切り替わるときだけです。
つまり新しい「〜は」が出てくるときに改行します。
最後に
今回は「説明と描写」について述べてみました。
違いは地の文が「出来事と事実のみが淡々と」書かれているのか、「感情や感覚や印象を含めて」書かれているのかです。
ライトノベルでは基本的に「説明」文と「描写」文が切り替わったら改行します。
大衆小説や文学小説では文章の主体である「〜は」が切り替わったら改行するのです。
この差を理解しておくだけで読みやすい小説に仕上がります。
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