87.実践篇:助詞は重複させない
今回は「助詞」の中で代表的なものについてまとめてみました。
助詞は重複させない
助詞といえば「てにをは」が有名ですが、これらは理由のない限り一文の中で重複させないようにしてください。
なぜ重複させるといけないのでしょうか。
文の意味(文意)がわかりづらくなるからです。
正確な意味がわからなくなる
助詞は基本的に用言にかかります。
「高速道路を走る」の「を」は「走る」にかかっています。
これが「海沿いを高速道路を走る」と書けば一つの用言に「を」が二つかかっていることになります。
パッと見では何を言いたいのかわかりませんよね。
これが「海沿いを走る」と「高速道路を走る」の二つの文をくっつけてリズムをつけよう、という意図があるのなら詩や歌詞などであればそう書いてもかまいません。
その場合は「海沿いを、高速道路を走る」のように読点「、」で区切ったほうがわかりやすいと思います。
ただこの文を「リズムがいい」と受け取るか「いったいどこを走っているのかわからない」と受け取るかは読み手次第です。
もし小説で「海沿いの高速道路を走る」「海沿いにある高速道路を走る」という意味で書いたのだとしたら、上記の「リズム」と「わからない」に合致しません。
つまり読み手には正しい情報が伝わっていなかったことになります。
ひとつの用言にかかる助詞が重複してしまうとこのような「意味不明」な文になるのです。
それなら初めから「海沿いの高速道路を走る」「海沿いにある高速道路を走る」と書いたほうがわかりやすくなります。
読み手に負担を強いるような書き方はするべきではありません。
「が」の重複
助詞「が」もよく重複されます。
「彼があなたが好きだと言っていた」はなんとか読めます。
これは「彼が『あなたが好きだ』と言っていた」という文のカッコを省いただけだからです。
これは「複文」になります。
カッコを書かないことでわかりにくくなる例です。
わかりにくいのは「彼が彼女が好きだ」のように述語(用言)が一つしかない場合でしょう。
これは「海沿いを高速道路を走る」と同様二つの文をくっつけてリズムをつけようとしているのであれば「彼が、彼女が好きだ」のように読点「、」で区切る必要があります。
ただそのようにしてもこの文はわかりにくいのです。
それは「が」が文の「主語」を示す助詞だからです。
一文に主語が複数あって混乱するのが日本語の特徴でもあります。
英語ならたいてい「I」や「You」など一文で主語はひとつです。
だから主語で混乱することがまずありません。
しかし日本語はかなり自由です。主語を複数書くこともできてしまいます。
「が」が重複しても仕方のない場合もあります。接続助詞としての「が」が混じるときです。「私は彼が好きだが、彼女も彼を好きらしい」という文なら「彼が好き」と「だが、」の二回「が」が出てきます。でも機能が異なるため「わかりにくい」とは思わなかったと思います。
「私は彼が好きだが、彼女も彼が好きらしい」にするとどうなるか。「重文」になっているので、こちらもわかりにくくはならないと思います。
「は」の重複
助詞「は」は文の主体を表します。
これは一文だけでなく、これに続く文にまでかかり続けます。
基本的に次の「〜は」が出てくるまで、文章の主体は先に「〜は」で示したものになるのです。
それほどまでに重要な助詞であれば重複など絶対あるべきではありません。
「北海道はとても人は住みづらい環境だ」という文を読んでください。
「北海道は住みづらい」のか「人は住みづらい」のか。
主体はどちらでしょうか。
こういった場合たいてい最初に出てきた「〜は」のほうが主体で、後から出てくるほうが主語であることが多いです。
「北海道は人が住みづらい環境だ」なら言わんとするところを瞬時に理解できるではないでしょうか。
ただし例外があります。「では」「には」「とは」といった他の助詞と組み合わせて用いる場合です。
これらの助詞は「文の主体」を表していません。
文中での用言の範囲を限定するときに用いられます。
これらは「で」と「は」の二つの助詞ではなく「では」というひとつの助詞だと解釈するべきです。それなら「は」が重複したとは見なしません。
「私は東京では渋谷が好きです」と書いても「は」はひとつであり、「では」もひとつであると解釈するわけです。
これは「で」にも言えます。
「東京ではいつも電車で通勤します」も「では」がひとつと「で」がひとつとして考えるのです。
このような見かけ上「助詞が複数くっついている」ような場合は、そのセットでひとつの「助詞」だと考えてください。
「の」の重複
助詞「の」は主に体言に付きます。そしていくつも連続させることができるのです。
「山のお寺の小道の途中でばったり知人と出会った」という文章の場合「の」が三連続になります。
いくらでも続けられるので、かえって何が言いたいのかわかりづらくなる例です。
この場合「山にあるお寺へ続く小道を歩いていたら途中でばったり知人と出会った」とすれば「の」を一回も用いずに済みますし、何が言いたいのかよくわかると思います。
この場合「山に」は「ある」にかかり、「お寺へ」は「続く」にかかり、「小道を」は「歩く」にかかっているのです。さらに「山にある」は「お寺」にかかり、「お寺へ続く」は「小道」にかかる「複文」になっています。
つまり文の出だしから次々と言葉がかかり続けるため、意味がわかりづらいと迷うこともないのです。
「の」には所属する・所有するという用い方があります。「会社の重役」は「会社に所属する重役」であり、「私の息子」は「私が所有する息子」です。
このように「の」には万能性があります。
そのため考えもなしに「の」が使い続けられることになるのです。
上記のように他の助詞と用言に切り替えていけば、一度読んだだけで文の意味がわかるようになります。
すべての「の」が他の助詞と用言に置き換えられるわけではありません。どうしても「の」でなければならない場合もあるのです。
上記の「所属する・所有する」意で用いる場合がそうなります。
その場合でも「の」は連続しても二回までが限度です。
三回以上連続させると途端に文意が不明になります。
「彼氏の昔の彼女」ならパッと見である程度わかりますが「彼氏の昔の彼女の手紙」になってしまうと少し考えませんか。
「彼氏の」で区切って「昔の彼女の手紙」とするのか、「彼氏の昔の」で区切って「彼女の手紙」とするのか、「彼氏の昔の彼女」で区切って「手紙」とするのか。
それぞれで意味合いが異なってきますよね。
ちなみに「の」は「主に体言に付く」と書いたのは、用言に付くこともあるからです。
たとえば「彼女が憎む男がいる」とあれば「彼女の憎む男がいる」のように、助詞「が」が重複するときに「が」の代わりに用いることがあります。
この場合は「彼女の」は「憎む男」という結合節の体言に付くと考えることができます。
助詞「の」は奥深いため、その用い方で文章の質が決まることも多いのです。
文章を書くときは、どのように効果的に「の」を用いていくかに注力してください。
並列するための助詞
助詞「や」や「と」、「か」や「とか」などには、体言を並列させる意味があります。
「空には太陽や雲や月や星が代わる代わる流れていく」なら四つの体言が並列しているのです。
「酒と泪と男と女」という歌の題名は四つの体言を並列させています。
「コーヒーか紅茶かオレンジジュースかが選べない」の場合は三つの体言を並列されているのです。
「あれとかそれとかこれとか言われても何のことだかわからない」も三つ並列しています。
それぞれ助詞としての意味は違いますが並列させる機能としては同様です。
これらはいくらでも並列させられます。ただあまりに「や」「と」「か」「とか」などが続くとやはり意味がわかりづらくなるのです。
その場合は適度に読点「、」で区切っていくとよいでしょう。
「空には太陽や雲、月や星が代わる代わる流れていく」と書くだけで読みやすくなりますよね。読点を入れるだけで一度見ればすぐわかるようになったのではないでしょうか。
ただし「とか」は並列させないで単体で使ってしまう書き手がかなりいます。
「オレンジジュースとか選べない」のような形です。
これはある種の人たちの口グセとして定着しています。
ブリッ子な女子やオネエな方々などが用いるのです。
口グセとしては「あり」なのですが、文法上は「誤り」なので地の文で「とか」を並列させずに使ってはなりません。
同様に助詞「たり」は用言を並列させる意味があります。
「人々は走ったり歩いたりローラースケートで滑ったり自転車を漕いだりしている」なら四つの用言を並列させているのです。
ただし体言を並列させる「とか」と同様、用言をまったく並列させないのに「たり」を使ってしまう書き手も多い。
「人々は走ったりしていた」のような形です。
こちらも文法上は「誤り」なので地の文で「たり」を並列させずに使ってはなりません。
「たり」はよく用いる助詞なのでお心当たりのある方がいらっしゃるのではないでしょうか。
「たり」を使うのなら必ず二つ以上の用言を並列させてください。
最後に
今回は「助詞を重複させない」ことについて述べてみました。
他の人が読んで「意味がわかりづらい」と感じる文章はえてして「助詞の重複」をしているものです。
並列以外の助詞はできるだけ重複を避けて書くように心がけるだけで、文章は劇的にわかりやすくなります。
あなたが今まで書いてきた小説を読み返してみてください。
「助詞の重複」の視点から見つめ直してみましょう。
もし重複があれば「どう書き換えれば重複がなくなるか」を意識して添削することをオススメします。
他人の小説よりも自分の書いた小説を振り返るほうが理解が早いはずです。
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