86.実践篇:主語の扱い方
今回は「主語の扱い方」について述べてみました。
その場の勢いだけで書いているとどうしても主語がおろそかになります。
主語の扱い方
今回は主語を中心に述べます。
主語は文章の要です。主語のない文章もあります。たいてい隠れているだけですが。
それでは主語に関する問題点を大きく二つ紹介します。主体も主語に含めて書いているのでご注意ください。
■主語の連続と重複と喪失
勢いに任せて文章を書いていると、つい主語(主体)が連続してしまったり重複してしまったり喪失してしまったりするものです。
主語(主体)が連続してしまう例を示します。
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博は腕時計を見ると十時十分を指している。待ち合わせの場所に間違いはないはずだが、博は不安に思いスマートフォンで悦子にメールを送った。程なくして帰ってきたメールを見て博は愕然としてしまった。地名は合っていたのに県が違っていたのである。
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この文章で主語(主体)「博」は三回出てくるのです。それも三文連続で出てきます。こういうときは最初の主語(主体)以外を削ってしまってまったく問題がありません。
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博は腕時計を見ると十字十分を指している。待ち合わせの場所に間違いはないはずだが、不安に思いスマートフォンで悦子にメールを送った。程なくして帰ってきたメールを見て愕然としてしまった。地名は合っていたのに県が違っていたのである。
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まったく違和感のない文章になりました。「〜は」は文章の主体を表しています。
次の「〜は」が出てくるまで文章の主体は固定されるのです。
だから上記のような三連続で同じ「博は」は最初の一回だけにしてもまったく問題がありません。
主語(主体)が重複してしまう例を示します。
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博はどうしたものかと悩んだ挙句、悦子は迷わず帰宅することにした。
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この文章の主語(主体)は「博は」でしょうか「悦子は」でしょうか。
わかりませんよね。
これは接続の仕方が悪いケースです。
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博はどうしたものかと悩んだが、悦子は迷わず帰宅することにした。
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これなら「重文」になっています。
「博は」は「悩んだ」までの主体であり、「悦子は」は「帰宅することにした」までの主体であることが明白です。
主語の重複はたいていの場合「重文」にすべきところを「複文」にしてしまうことで発生します。
日本語の基礎は「単文」>「重文」>「複文」です。「単文」にできるなら可能なかぎり単文にする。
「複文」になりそうなら「重文」にできないかを検討する。
どうしてもダメな場合は「複文」にするのです。
主語(主体)が喪失してしまう例を示します。
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博はスマートフォンからメールを送ったが、メールを返さなかった。
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これは「重文」です。博はメールを送りました。しかしメールを返さなかった人物の名前がわかりません。
この文をそのまま読めば、「博がメールを出して、博がメールを返さなかった」ように受け取れます。
メールを返さなかったのが悦子であるのなら次のように書くべきです。
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博はスマートフォンからメールを送ったが、悦子はメールを返さなかった。
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「メールを送ったのは博」であり、「メールを返さなかったのは悦子」であることが明白です。
疑う余地もありません。
これを博は誰かにメールを出したけど返信がなかったとすれば次のように書きます。
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博はスマートフォンからメールを送ったが、いつまで経ってもメールは返ってこなかった。
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これで誰かに出した博のメールには返信がなかったことがわかります。
このように勢いに任せて書いていると、往々にして主語(主体)がおかしなことになります。
書くときの勢いはとても大切です。
とくに長編小説を書いているときは熱を上げるくらいの勢いがなければ書き終えることが難しいでしょう。
だからこそ、その後の推敲で主語(主体)の確認をするべきです。
主語(主体)がわからなくなると文章の魅力は半減どころではありません。
まさに「小学生の作文レベル」と見なされます。
■主語と述語はできるだけ近づける
小説に書き慣れてくると、主語(主体)にも述語にも修飾詞がいくつも重なってきます。
結果主語(主体)と述語が遠くなって、誰がどうしたのか、どうなのかがひと目でわかりにくくなるのです。
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子供の頃から世話好きな恭子は毎日夜遅くまで仕事をしてくたびれて帰ってくる雅治をいつも寝ずに待っていた。
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この文章の主語(主体)は「恭子は」で述語は「待っていた」です。
でも実際に読んでいるときは「恭子は毎日夜遅くまで仕事をして」と恭子が仕事をしているように受け取れます。
「恭子は毎日夜遅くまで仕事をしてくたびれて」と恭子がくたびれているようにも受け取れます。
「恭子は毎日夜遅くまで仕事をしてくたびれて帰ってくる」と恭子が帰ってくるようにも受け取れます。
「雅治を」が出てきてようやく「あれ。ここまでは恭子の話じゃないの?」となるのです。
そして最後の最後に「寝ずに待っていた。」です。
ここでようやく主語(主体)である「恭子は」は述語の「待っていた。」にたどり着くのです。
多分に誤解を生じさせる書き方だといえます。
そこでまず主語と述語をできるだけ近づけてみます。
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毎日夜遅くまで仕事をしてくたびれて帰ってくる雅治を、子供の頃から世話好きな恭子はいつも寝ずに待っていた。
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これで誤解がなくなりましたね。
それでも一文が長いので、二つの文章に分けてみましょう。
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雅治は毎日夜遅くまで仕事をしてくたびれて帰ってくる。子供の頃から世話好きな恭子は彼をいつも寝ずに待っていた。
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一文の長さが半分になりました。
わかりやすくなりましたね。
実は最初の一文は読点を入れることである程度誤解がなくなります。
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子供の頃から世話好きな恭子は、毎日夜遅くまで仕事をしてくたびれて帰ってくる雅治をいつも寝ずに待っていた。
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主語(主体)の「恭子は」の後すぐに読点を入れるのです。これで主語(主体)の「恭子は」は最後の「待っていた。」まで文から浮かせることができます。
最後に
今回は「主語の扱い方」について述べてみました。
かなり初歩的な指摘が多いと思います。
それでも皆さんは無意識のうちにやってしまうのです。
初歩すぎて忘れてしまっているのでしょうか。
そこであえて「実践篇」の段階で言及することにしました。
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