84.実践篇:あなたの小説が廃れないためには(補講)
作品の陳腐化についてご質問がございました。
コメントだけで足りるかと思ったのですが、一本書いてしまったほうがいいと判断しました。
あなたの小説が廃れないためには(補講)
今回はご質問がございました。コメントではうまく伝えられないと判断したので急遽補講を行ないます。
芸能人を題材にした作品
ご質問の内容は「一時期の流行にとらわれない物として、芸能人を題材にした作品も稀にランクインするケースがあるのですが……これに関しては、別枠扱いになるのでしょうか。」というものでした。
「紙の書籍化」された小説の中で、芸能人を題材にした作品がいくつかあります。
・石原裕次郎氏や美空ひばり氏などの長く芸能界を賑わせた大スターを扱う場合。
・市川團十郎氏や中村勘三郎氏、初代・林家三平氏や桂歌丸氏といった歌舞伎界(梨園)や落語界の大物を扱う場合。
・オリエンタルラジオの中田敦彦氏やアンジャッシュの渡部建氏のように芸能人自身が芸能界について書く場合。
・プロのライターが流行りの芸能人を取り上げて書く場合。
・黒柳徹子氏や水嶋ヒロ氏やピースの又吉直樹氏のように自ら文芸作品を書く場合。
このうち「流行りの芸能人を取り上げて書く場合」はすぐに陳腐化します。
たとえばじゅんいちダビッドソン氏やとにかく明るい安村氏を題材に選んだとして、いつまで話題が持つでしょうか。
じゅんいちダビッドソン氏は2015年のR−1ぐらんぷり優勝者ですが、今はほとんど話題にのぼりませんよね。
とにかく明るい安村氏も最近聞きません。近年減量して「パンツが隠れなくなった」という話題を振りまいていますが、得意芸を封じられた人物をどう評価すべきでしょうか。
今アキラ100%氏を題材に書けばヒットするだろうことは間違いないと思います。
でもその話題性は来年以降もつでしょうか。
かなり厳しいと思いますよね。
だから「流行りの芸能人を取り上げて書く場合」はすぐに陳腐化するのです。
(2019年5月時点で、これら三人の名はほとんど聞かなくなりましたね)。
それに対し「長く芸能界を賑わせた大スターを扱う場合」「歌舞伎界(梨園)や落語会の大物を扱う場合」は、その活躍を直に見聞きしてきた人たちが多く、長きにわたって話題を維持することができます。
最近ではiMacやiPhoneやiPadなどの生みの親スティーブ・ジョブズ氏の伝記『スティーブ・ジョブズ』(ウォルター・アイザックソン氏著)が一世を風靡しました。
ジョブズ人気は健在で、死去当時より冊数は減っていますが今でも伝記やマンガなどの関連書籍が書かれ続けています。
それもその人の活躍した当時を知る読み手層がいるから需要があります。
ジョブズ死後に誕生した人たちにジョブズの話をしても通じるはずがないのです。
これは昭和の大スターであった石原裕次郎氏や美空ひばり氏の伝記や小説が今ではほとんど書かれていないことでも明らかでしょう。
つまり長きにわたって売れる作品を作れます。
しかし賞味期限もあることを知っておくべきです。
「芸能人自身が芸能界について書く場合」は取り上げる話題次第です。
内輪ウケだけを狙ったような作品ならすぐに廃れます。
芸能界の闇のような題材なら芸能界の「一里塚」「マイルストーン」として役目を果たすため長きにわたって売れるでしょう。
ただしこちらも一時期大きくヒットしたとしてもすぐに人気は落ちていきます。
前述したオリエンタルラジオの中田敦彦氏やアンジャッシュの渡部建氏が書いた書籍は文芸というよりネタ本としての価値があるため、そのネタが古びるまでは売れ続けるでしょう。
頭の良い彼らがそれに気づいていて、第二・第三の書籍を出版しています。
こちらは芸能人自身がどれだけ書籍を書き続ける努力をするかによって左右されると思います。
最後に「自ら文芸作品を書く場合」です。
黒柳徹子氏『窓ぎわのトットちゃん』に始まり、最近では水嶋ヒロ氏(ペンネーム:齋藤智裕氏)『KAGEROU』、キングコング西野亮廣氏『えんとつ町のプペル』、ピースの又吉直樹氏『火花』『劇場』などがあります。
いずれもビッグヒットを記録しており、とくに西野亮廣氏と又吉直樹氏は二冊目、三冊目を出すことで一冊目も再び売れるという好循環を作ったのです。
有名人として忙しい芸能人が自ら筆を執る。
芸能人としてのネームバリューによって一冊目は必ずビックヒットを飛ばします。
しかし二冊目、三冊目と出していかなければ人々からすぐに忘れ去られてしまいます。
このあたりは「芸能人自身が芸能界について書く場合」と共通しているのが興味深いです。
自ら筆を執って文芸作品を書いていればその効果は絶大です。
長きにわたって人々の心をつかむ作品が多くあります。
もちろんゴーストライターが書いている場合もあるので、一概に判別はできません。
昭和の時代では芸能人が書いた文芸作品はたいていゴーストライターの手によるものでした。
ビートたけし氏が最近「(恋愛小説を)初めて自分で書いた」と公言して物議を醸したものです。
最後に
今回は補講として「芸能人を題材にした作品も稀にランクインするケースがある」というテーマで述べてみました。
「芸能人を題材にした作品」も多岐にわたっています。
ご質問の本意は上記では、スティーブ・ジョブズ氏の伝記の類を指していると思われます。
ですがいい機会なので「芸能人」を扱った作品全般について考察した次第です。
すぐに消えてしまうものから後世に語り継がれるものまでさまざまです。
現時点で後世に語り継がれるレベルの文芸作品は『窓ぎわのトットちゃん』『火花』といった芸能人自身が書いたものだけとなっています。
『えんとつ街のプペル』やゴーストライターのように本人が書いていると言いがたい場合はいくら売れたとしても芸能人自身の評価とはまた別物です。
とくに西野亮廣氏の評価は、経済界と出版界では評価が真っ二つに割れています。
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