81.実践篇:単文と重文と複文
今回は日本語の基本である「単文・重文・複文」を取り上げます。
混同しがちなので一度おさらいしましょう。
単文と重文と複文
日本語の構文には大きく分けて「単文」「重文」「複文」が存在します。
これは小学校の国語の時間に習ったはずですよね。
習ったはずなのに、小説だけでなく文章を書くときはつい忘れてしまいます。
そこでこの三つの文章についておさらいしてみましょう。
単文
「たん-ぶん【単文】文法で、文の構造上の分類の一。一つの文において主語・述語の関係が一回だけで成り立っているもの。「鳥が鳴く」「犬が速く走る」などの類。 →複文・重文」(出典:『大辞泉』)
「彼は独身だ」「馬が走る」「空が青い」「山が静かだ」のように主語と述語がひとつずつあって、それがきちんとくっついている文章、それが「単文」です。
「彼は独身だ」は名詞文です。「彼は」という主語を「独身」という名詞で受けています。
「馬が走る」は動詞文です。「馬が」という主語を「走る」という動詞で受けています。
「空が青い」は形容詞文です。「空が」という主語を「青い」という形容詞で受けています。
「山が静かだ」は形容動詞文です。「山が」という主語を「静かだ」という形容動詞で受けています。
名詞文との違いは「だ」が転換形で「な」になるかどうかです。
たとえば「静かな山」は成立しますので形容動詞文になります。
「独身な彼」は成立しないので名詞文ということになるのです。
人によっては「独身な彼」も「あり」だと思っているでしょうが、文法上は誤りになります。
文章の基礎はこの単文です。
単文が書けなければ文章は書けません。
述語が受けるのは主語だけではありません。対象「〜を」や場所「〜に」そして「〜のように」などの助詞を受けます。たとえば「母は娘を保育所にすぐ預けた」なら「母は」「娘を」「保育所に」の名詞と「すぐ」の副詞がすべて「預けた」にかかるのです。
何も助詞だけが述語に結びつくわけではありません。動詞や形容動詞や形容詞といった用言が連用形となって結びつくこともあります。『大辞泉』にあった「犬が速く走る」は「速い」という形容詞を連用形にして述語「走る」を修飾しているのです。
実は動詞文と形容詞文と形容動詞文は名詞文に転換することができます。
上記の例なら「走る馬だ」「青い空だ」「静かな山だ」という具合です。
これは名詞を形容するために述語を連体形へ変えることになります。
名詞や動詞などを形容するのが本来の形容動詞と形容詞の役割なのです。
これを「走る馬。」「青い空。」「静かな山。」で止めるといわゆる「体言止め」と呼ばれる格好になります。
ただ単に「馬。」「山。」「空。」と言っても具体的なことはわかりません。
忍者の合言葉のようですね。
これを「走る馬。」「静かな山。」「青い空。」とすれば形容がかかっているので具体的にどんな感じなのか思い浮かびますよね。
さらに名詞文も転換することができます。
「独身の彼」と書けば「独身の」は「彼」にかかる連体詞となるのです。
「独身の彼は娘を保育所にすぐ預けた」という文なら「独身の」は名詞「彼」にかかり、「彼は」「娘を」「保育所に」の名詞と「すぐ」の副詞はすべて「預けた」にかかります。
「独身の」が「彼は」にかかっていて他の体言を修飾していません。
これは「の」が直後の体言のみを修飾する助詞だからです。
その「彼は」は「預けた」にかかっています。
最終的に「独身の」以外の言葉が「一つの述語」にかかることがわかるはずです。
これらの転換形が「複文」を構成する要素になります。
「母は娘を保育園に急いで預けた」を例にすると、動詞が二つ出てきます。
これは「単文」であり、どちらの動詞に助詞がかかるのかは明確です。
この例では「母は」「娘を」「保育所に」はすべて「預けた」にかかっています。
「急いで」も連用形ですから「預けた」にかかるのです。
なぜ「急いで」に助詞がかからなかったのでしょうか。
「急いで」がなくても「単文」が成立するからです。
これを「母は娘を預ける保育所に急いだ」という「複文」に変えてみます。
「母は」は文の主体なので、この文のこの位置から次の「〜は」が出てくるまでのすべての述語にかかっているのです。
「保育所に」「娘を」は「預ける」にかかっています。
つまり助詞を受けるのは直後の述語だということです。
これが「複文」の特徴といえます。
「複文」にすると読み手によって受け取り方が異なってくるのです。
だからできうるかぎり「単文」で書くほうがよいでしょう。
とにかく「単文」は簡潔です。
「単文も書けないようなら文章は作れない」と言い切れます。
重文
「じゅう-ぶん【重文】主語と述語をもつ関係が二つ以上並列的に含まれる文。「冬が去り、春が来る」など →単文・複文」(出典:『大辞泉』)
ここで重要なのは「主語と述語をもつ関係が二つ以上『並列的に』含まれる文」の『並列的に』の部分です。
これは「単文」として成立している文章を列記していくということになります。
「彼は独身で、私は所帯持ちだ」は名詞文による「重文」です。「彼は独身だ」と「私は所帯持ちだ」の並列になります。
「花が咲き、鳥が歌う」は動詞文による「重文」です。「花が咲く」と「鳥が歌う」の並列になります。
「空は高く、海は深い」は形容詞文による「重文」です。「空は高い」と「海は深い」の並列になります。
「山は静かだが、川は賑やかだ」は形容動詞文による「重文」です。「山は静かだ」と「川は賑やかだ」の並列になります。
「が」は逆接の接続助詞なので、前の文と後ろの文は意味が正反対ですよと示しているのです。
なので少しわかりにくいかもしれません。
上記例ではそれぞれ同じ形の並列ですが、取り立てて同じくする必要はありません。
ただその場合「複文」になってしまう場合があることに注意してください。
また名詞文に転換して「青い空、白い雲」のように形容詞文を転換して名詞文の「体言止め」にしたものを並列させることもできます。
「体言止め」を頻発させると言いたいことがよくわからなくなるので、詩の類いでない限り連発しないほうが効果的です。
「青い空を見上げると白い雲が浮かんでいた」というなにげない文章も「重文」です。
「青い空」が「空が青い」の転換形でそれが「見上げる」に付く。
これだけで「単文」になります。
「白い雲」も「雲が白い」の転換形でそれが「浮かんでいた」に付く。
これも「単文」になります。
「青い空を見上げる」「白い雲が浮かんでいた」の間の接続助詞は順接の「と」であるため、並列していると見なされて「重文」であることがわかります。
複文
「ふく-ぶん【複文】文を構造上から分類した場合の一。主語と述語からなる文でさらにその構成部分に主語・述語の関係が認められるもの。「ここは雨の多い地方だ」など →単文・重文」(出典:『大辞泉』)
「単文」の中に「単文」が含まれる構造を「複文」といいます。
『大辞泉』の例である「ここは雨の多い地方だ」は「ここは地方だ」という「単文」の中に「雨の(が)多い」という「単文」が含まれていて「地方だ」を修飾しています。
「雨が降ったら旅行は延期される」なら「雨が降った」と「旅行は延期される」が共に「単文」です。
「降ったら延期される」自体が「単文」になっているため、「雨が降ったら」という「単文」が「延期される」という述語にかかってしまいます。
「速く走ればすぐに着く」なら「速く走る」と「走ればすぐに着く」という「単文」同士による「複文」です。
「海沿いにある高速道路を走る」も「複文」になります。
「複文」の場合どの助詞がどの述語にかかるかわかりづらいため、基本的に一文で同じ助詞を用いないほうがいいでしょう。
このように述語が二つ以上ある場合は「複文」になりやすい傾向があります。
「重文」は「単文」が一つの述語がその前に出ている体言をすべて受けて成立した文が、接続助詞・接続詞でくっついているだけなのです。
だからリズムを考慮しなければいくらでも続けられます。
でも「複文」は一文中に述語が二つ以上あって、前の述語が後の述語にかかる形です。
「複文構造」が入れ子になって多重化すると、その文は何が言いたいのかすぐには判別できなくなります。
いわゆる「スパゲティー構造」と呼ばれるものです。
「雨が降る日は気分も滅入ってしんみりしてしまった」という文は一見すると「重文」ですが「スパゲティー構造」を持つ「複文」です。
「雨が」は述語「降る」にかかり、「雨が降る」は「日」に、「雨が降る日は」と「気分も」が「滅入り」にかかって最終的に「しんみりしてしまった」にかかってしまう。
もう何がどれにかかってるのか、ひと目見てすぐにわからないのではないでしょうか。
これを「雨が降っている。こんな日は気分も滅入る。しんみりしてしまった」のように入れ子を分解して単文にできるよう変換したほうがテンポもよくなります。
一文でまとめたいなら「雨が降り、こんな日は気分も滅入り、しんみりしてしまった」のように単純な「重文」にしてもいいですね。
一つの文章が長くなるとどうしても「スパゲティー構造」が発生しやすくなります。
できうるかぎり「単文が成立している」ように心がけ、「単文」を並列させられないか考えてください。
どうしても「複文」にする必要があるのなら「入れ子」は一つに限定するくらいが程よいのです。
最後に
今回は「単文・重文・複文」について述べてみました。
この違いを理解できなければ、日本語で文章を書くことはできません。
英語などでは主語と述語はワンセットですし、複文の構造もシンプルです。
日本語は自由に書けるため、主語と述語、さらに修飾語が乱立しやすくなっています。
とくに修飾語はどの体言・どの用言にかかっているのか判別しづらい文もよく見られるのです。
しかし名文と呼ばれる作品は「単文・重文・複文」が巧みに用いられています。
その機能をしっかりと理解しているからこそ「名文」と称させるのです。
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