80.実践篇:商業ライトノベルの分析(3/3)

 今回は「商業ライトノベル」の最終回です。

 コラムはまだまだ続きますが。





商業ライトノベルの分析(3/3)


 商業ライトノベルの分析の続きです。





主人公には共感と憧れを

 登場人物とくに主人公には「共感」と「憧れ」が必要です。

 片方だけでもじゅうぶん読み手を惹きつけられますが、十二分に惹きつけるためには両立させましょう。


 読み手の「共感」を呼ぶものは何でしょうか。


 ズバリ、主人公の「欠点」です。


 藤子・F・不二雄氏『ドラえもん』のジャイアン(剛田武)はどんなに腕っぷしが強くても「母ちゃん」には敵いません。

 本人は一流だと思っている「歌」とくに「リサイタル」も周囲の評価を下げてしまいます。

 これらは「欠点」として優れています。

 それがゆえにジャイアンは怖いけど「共感」できるキャラクターなのです。


 主人公の野比のび太はとにかく学業が苦手。

 それだけならジャイアンと一緒ですが、のび太は運動も苦手です。

 とにかく「欠点だらけ」な主人公。

 私を含め、学業もスポーツも一流とは呼べないような人がほとんどではないでしょうか。

 そういう人たちの親しみが「共感」を呼びます。

 そうなれば主人公の支持者は多くなるはずですよね。



 そもそも完全無欠のヒーローが主人公だとしたら、どんな出来事が起きても難なく乗り越えてしまうでしょう。

 そんな主人公の活躍をワクワク・ハラハラ・ドキドキしながら読めるものでしょうか。

 完全無欠なのだからワクワクはしてもハラハラもドキドキもしませんよね。

 「欠点」があるからこそ相手がそこを突いてきて主人公は窮地に追い込まれるのです。

 窮地に追い込まれるからハラハラもドキドキもします。

 それを乗り越えていくことで次の出来事イベントに対するワクワクもさらに盛り上がってくるのです。



 読み手の「憧れ」を呼ぶものは何でしょうか。


 ズバリ、主人公にしかできない「長所」です。


 ジャイアンはとにかく「腕っぷしが強い」。

 のび太が中学生にいじめられていたら危険を顧みず中学生に挑んでいく「度胸」もあります。

 そして劇場版になるととにかく「良い奴」になる。


 のび太は「昼寝」「あやとり」「射撃」の天才です。

 劇場版では宇宙一の殺し屋にすら撃ち勝ってしまうほどの早業を見せました。

 アニメや劇場版を観たことのある子どもなら間違いなく彼らに「憧れ」を抱いたはずです。


 鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』で主人公の上条当麻はレベルゼロの無能力者です。これは「共感」を呼ぶポイントになります。

 しかし「幻想殺しイマジンブレイカー」という唯一無二の能力を持っていて、相手の技すべてを無効にしてぶん殴る。

 これは「憧れ」を呼ぶポイントになります。


 「共感」と「憧れ」の共存ができているのです。

 これで人気が出ないほうがおかしい。

 ということで『このライトノベルがすごい!』でも上条当麻の人気はべらぼうに高い。

 「カッコイイ」と思う人が多いキャラだといえます。


 そもそも私たち一般人にできることを主人公が行なったとして、それでワクワク・ハラハラ・ドキドキするでしょうか。

 読み手と等身大の主人公であればその後どうなるかは読み手の想像に収まってしまいます。

 出来事の難易度によってはハラハラ・ドキドキするかもしれませんが、ワクワクはしませんよね。


 「長所」があるから主人公はそれを武器にして有効に活かし、ライバルを押しのけることができるのです。

 だからこそ読み手は「次はどんな敵に対して『長所』を有効に使うのかな」とワクワクして次のエピソードが気になります。





異性とのロマンス

 中高生が日常で最も関心のあるもの。それは「恋愛」です。

 あまりに特定の異性が気になってストーカー紛いのことまでしてしまう。

 若気の至りですね。


 ということは小説にも「異性とのロマンス」を出さない手はありません。


 男性主人公の場合、多くのライトノベルが「ハーレム」状態であるのもまさに「異性とのロマンス」目当てです。

 しかも「ハーレム」にしてあるのは「読み手の好みがひとつではない」からです。

 ある人はかわいい子が好みだろうし、ある人は優しい子が、強い子や面倒見のよい子、天然な子が好みかもしれません。

 メインの相手は決めてあるとしても、それ以外の女子を主人公に絡ませることでバリエーションのある「異性とのロマンス」を演出できます。


 これに対して女子中高生向けライトノベルには「イケメン」のバリエーションが大事です。

 最低条件が「イケメン」なので、出てくる男子は基本全員「イケメン」になります。

 その中でどのタイプの「イケメン」が好みなのか。そのバリエーションに引っかかるキャラがいればその「異性とのロマンス」を妄想します。

 恋愛対象として「イケメン」を置き、主人公である自分とのロマンスを夢見るのです。

 人によっては「イケメン」同士によるBLボーイズ・ラブに発展する可能性もあるでしょう。

 カップリングが作りやすいことも女子ウケする要因です。





不思議なことがある

 商業ライトノベルを読んでいると思うのですが、現実世界が舞台でもたいていなにがしかの「不思議なこと」が入っています。

 この「不思議なこと」が読み手を惹き込む魔力を発揮するのです。


 もちろん直接に「魔法」が出てくることもありますし、「能力者」として限定された者だけが使えるものもあります。

 また設定で現実とは少しだけ何かが違っている世界として「不思議なこと」が出てくるものもあります。


 とくに男子中高生はこの「不思議なこと」にとても敏感に反応するのです。

 女子中高生は「不思議なこと」にあまり反応せず「現実」を見ています。

 これはアニメで人気のある作品を分けてみるとわかるはずです。


 男子は『魔法少女まどか☆マギカ』『ソードアート・オンライン』『ガールズアンドパンツァー』など魔法やSFやファンタジーなど「不思議なこと」がある作品を好みます。


 女子は『テニスの王子様』『うたの☆プリンスさまっ♪』『黒子のバスケ』『おそ松さん』『ユーリ!!! on ICE』など「不思議なこと」がまず見当たらない作品を好む傾向にあるのです。


 だから男子中高生をターゲットにしたければ「不思議なこと」を出しましょう。

 女子中高生をターゲットにしたければ「不思議なこと」は出さないことです。

 これだけで格段にウケがよくなりますよ。





ハッピーエンド

 ライトノベルは「気軽に読める小説」であるがゆえに、バッドエンドだとどうにも決まりが悪いのです。

 もちろんバッドエンドな小説はハッピーエンドよりも読み手の「心に痕跡を残す」ことができます。より深く。

 でもやはりライトノベルはハッピーエンドで終わらないといけないと思ってください。

 そう思っていつつバッドエンドに展開していくのは「あり」です。



 アニメ『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』の最終回をあなたはどう感じましたか。

 おそらく多くの視聴者は「これでいいのか?」と思ったはずです。


 最強の「モビルアーマー」を単騎で倒した主人公があの結末になりましたからね。

 まぁ戦術上はあれが最上なのですが、視聴者でそこまで戦術に詳しい人がどれだけいたでしょうか。

 そのうえでのラストシーンはある意味でハッピーエンドにしてありました。

 さすがに「あのまま終わりでは」と制作側も感じていたのかもしれません。


 これに似た構造だったのが水野良氏『魔法戦士リウイ ファーラムの剣』の最終巻『魔法の国の魔法戦士』でした。

 重要な人物がかなり呆気なく散っていきます。

 展開がどんどんバッドエンドに向かっていくのです。

 世界の終末まで追いやられたところで主人公が……。

 そしてラストに小さなハッピーエンドが込められました。

 『ファーラムの剣』シリーズ前の『魔法戦士リウイ』がひじょうに熱血漢で腕ずくな魔術師リウイの物語だっただけに、この最終巻はとても記憶に残ったのです。


 文字だけで語られる小説とくに「気軽に読める小説」であるライトノベルは、できるだけハッピーエンドが望ましいと思います。

 そのほうが読後「気に病む」こともありませんし。「気に病ん」でしまうと勉学に差しつかえるかもしれませんからね。やはり「お気楽なハッピーエンド」がライトノベルにはふさわしいのです。





最後に

 三回に分けて「商業ライトノベルの分析」を述べてきました。


 次回のネタは「単文と重文と複文」についてです。


 ここから数回ほど細かな文法の話に入っていきます。

 人によっては、わかりきっている話をこの歳になっても繰り返し言われなきゃいけないのか、とお思いになるでしょう。

 でも文法の基礎は小学生低学年に学んだはずなので、習ってから時間が経っていることも事実です。

 そこでもう一度基本に立ち返る時間を設けたいと思います。



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