65.中級篇:作品世界のスケール

 今回は「作品世界のスケール」がテーマです。

 大きくするにはどうするのかを重点的に書いています。





作品世界のスケール


 作品世界のスケールを定める要素はある程度決まっています。

 その中で最大なものが「出来事イベントの大きさ」です。

 これによって読み手はその作品のスケールを計ります。




出来事の大きさ

 単純に「出来事イベントの大きさ」と言っていますが、要は「どれだけの規模で起こる出来事イベント」なのかを表します。


 たとえば「全銀河の生命が脅かされる」のがアニメ『伝説巨神イデオン』ですし、水野良氏『魔法戦士リウイ ファーラムの剣』は魔精霊に世界が飲み込まれそうになる話。

 川原礫氏『ソードアート・オンライン』は「ゲーム内で死ぬと現実でも死に、ゲームクリア者が出ないとその世界から逃れられない」設定です。

 『ミクロの決死圏』なんていう作品もありました。

 銀河規模から惑星規模、大陸規模からコミュニティ規模、ごく微小な規模などたくさんあります。


 学園ものなら「受験」と「卒業」が最大の出来事イベントになることが多いですね。

 学園ものは卒業を契機に物語が大きな変化を余儀なくされます。

 大人気の学園ものである渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』は最終的に「受験」と「卒業」が大きな出来事イベントになるのかもしれません。もちろんそこまで待たなくても終わることはありえます。

 ただ、あまりにも高評価をされている小説だと、既定路線の終着点である「受験」と「卒業」まで描く可能性が高いのではないでしょうか。

 その前に比企谷八幡がきちんと恋愛できるようになっていればいいのですが。


 このように「どれだけの規模で起こる出来事イベント」なのかが明示されれば「出来事の大きさ」が決まり「作品世界のスケール」も定まります。





よくある展開

 よくある展開に「この世が闇に覆い尽くされようとしている窮地」「この世が破滅しそうになっている窮地」「地上の人々から希望が失われそうになっている窮地」「時間軸・空間軸が崩壊しそうになっている窮地」の出来事イベントがあります。


 それぞれ頻出するくらいの鉄板ですが、実際問題、人の想像が及ぶ範囲はこの程度だということです。

 「神を殺す」ような出来事は抽象的すぎて小説や物語ではまず語られません。「神を殺す」のはたいてい神であり、それは「神話」の形で語られるのです。

 その割に「ドラゴンを倒す」物語はありふれています。ドラゴンは「北欧神話」で見られるように本来は神と同等かそれ以上の実力を有しています。

 エニックス(現スクウェア・エニックス)から発売されている堀井雄二氏『DRAGON QUEST』シリーズが先鞭をつけた形で、現代日本人が理解できる最強の存在がドラコンとなっています。その影にドラゴンを操る魔導師なり魔王なりの姿が見え隠れするわけですが。

 現在でもドラゴンを敵に回すライトノベルは山のようにあります。

 そこからひとひねりして蝸牛くも氏『ゴブリンスレイヤー』のような「難敵になりそうにない」ものを題材にした小説が出てきたのです。

 伏瀬氏『転生したらスライムだった件』は自分が最弱になってしまう異世界転生ものになっています。

 でも本来スライムは難敵だったんですよ。

 剣では切れないしこん棒では潰せない粘液生命体。

 そのうえ溶解液であらゆるものを溶かしていく。

 完全に倒すには「焼き殺す」以外ないという点でTRPG『Dungeons

 & Dragons』プレイヤーはかなりの苦戦を強いられたものです。

 それに比べて『DRAGON QUEST』のスライムはかわいい姿をした存在で容易に倒せます。ゲーム開始当初の経験値稼ぎのため頻繁に戦うことになります。

 でも現実味リアリティーを求めるなら、小説では溶解液による剣の刃こぼれなどを描写していくようにしてはいかがでしょうか。

 以上のように、物語の「結末エンディング」に繋がる出来事イベントである「最終決戦」での「対になる存在」の大きさが作品世界のスケールを決定づけます。





最大の出来事イベントへの伏線

 最大の出来事イベントの筋立ては、そのときが来るまで読み手に知られたり悟られたりしてはなりません。

 前回のテーマであった「ネタバレ」同様、読み手に先の展開を読まれれば、あなたの小説は駄作。先を読まれずに意表をつけたなら良作となります。


 意表をつこうとすればどうしても設定をひねりがちです。

 それでも読み手は物語の「結末エンディング」を予測しながらあなたの小説を読み、先を見通そうとします。

 その道標になるのもまた「伏線」なのです。


 読み手の欲求に応える形で、物語の「最終決戦」の状況はある程度読み手に開示される必要もあります。

 「世界を救うためにはファーラムの剣が不可欠」という「伏線」があることで『魔法戦士リウイ ファーラムの剣』は「最終決戦」の規模を読み手に早いうちからそれとなく提示しているのです。

 ただ「伏線」の段階では、「最終決戦」で主人公や仲間や世の中がどうなるかまでは書きません。

 書かないことできわめて合理的な「最大の出来事への伏線」となるのです。


 これまでライトノベルをたくさん読んできた方ならおわかりかと思います。

 「最終決戦」に挑む前までにきちんと前フリをして、主人公と「対になる存在」との対決構造のお膳立ては調ととのえておきます。

 そのうえで主人公や仲間や世の中の「結末ゴール」がどうなるかは描かれていません。

 「それらがどうなるのか」を読み手が知りたくなってページを読み進む原動力となるのです。





最終決戦の前に沈み込みを

 物語上最大の出来事イベントである「最終決戦」へ挑む前に、主人公を危機に陥れてください。

 「主人公が不利になる」と読み手に思わせられれば、「最終決戦」で主人公が逆転勝ちしたとき読み手は痛快です。

 高評価を得る作品はたいていこの主人公を危機に陥れる「沈み込み」を用いています。

 手持ちの小説をよく読んでみてください。

 たいてい「最終決戦」前に主人公は「沈み込み」をしています。


 より高くジャンプしたければ、まず体を低くして力をためるのと一緒です。

 より盛り上げたければまずは「沈み込み」させます。


 田中芳樹氏『銀河英雄伝説』では「最終決戦」の前に双璧戦という「沈み込み」がありますし、その出来事イベントへ向かうために「ヤン暗殺」という「沈み込み」があります。

 田中芳樹氏は「沈み込み」を意図的に多用している節があるのです。


 2017年12月15日に最終巻が発売される『アルスラーン戦記』も第15巻では強い「沈み込み」を起こしています。

 そうすることで「この先どうなるかわからない」という不安と期待を入り混じらせているのです。

 遅筆で有名な書き手ですが、どう書けば読み手に正しく伝わるかをよく研究していると思います。

 これも戦略・戦術に詳しい田中芳樹氏の慧眼と呼ぶべきでしょうか。


 水野良氏『ロードス島戦記 灰色の魔女』では魔女カーラとの「最終決戦」の前にファーン王とベルド王の双方が倒されるという強い「沈み込み」が用いられています。

 これにより主人公であるパーンたちはカーラ打倒を強く決意することになるのです。





最後に

 作品のスケールは「最終決戦」の大きさで決まります。

 そのために「伏線」を張って「最終決戦」を盛り上げるのです。

 「最終決戦」の「結末エンディング」は明かさないよう注意しましょう。

 そのうえでどのようなメンバーで戦うことになるのかを提示するのが正しい「伏線」の張り方です。

 まぁサプライズ・メンバーが登場したり主要メンバーが直前で離脱したりすることも「最終決戦」ではよく見られることなのですけどね。


 「最終決戦」の前に「沈み込み」を行なうことでも「最終決戦」を際立たせられます。


 とくにこの二点に着目して手持ちの小説を読み返してみてください。

 きっと「あぁこうやって盛り上げているのか」とか「この小説のスケール感はこの最終決戦のせいか」と気づくはずです。



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