63.中級篇:さらに伝わる文章とは

 感情は直接書かないことで伝わります。

 「さらに伝わる文章」とはどういうものでしょうか。





さらに伝わる文章とは


 伝わる文章とは「判断や感想を省いて出来事や事実を書いた」ものです。

 ただそれだけだとなかなか書きづらいと感じる方もいらっしゃると思います。

 そこで「さらに伝わる文章」を書くため、次の二つのことに注意してみてください。





結末は最後までとっておく

 あなたはテレビのスポーツ中継を楽しみにしたことがありますか。

(2022年では多くの若者はインターネットに慣れてスポーツ中継を観なくなったそうです。観ても得点が入ったシーンだけだったり、試合に勝ったときにダイジェストで観ます)。

 その試合のことについてインターネットのニュースサイトやSNSを閲覧したことはありますか。

 この二つを聞いてピンとくる人はいい書き手になれます。

 ピンとこなかった人でも続きを読めば理解していただけるのではないでしょうか。



 テレビでスポーツ中継を楽しみにしていて、ついニュースサイトやSNSを閲覧してしまうのは今ではよくあることです。

 そのとき避けようとしても避けられなかったらとても嫌になるものがあります。


 そう「ネタバレ」です。



 これから「結果のわからない」スポーツ中継を観ようとワクワクしていたのに、すでに結果がわかってしまった。

 これで中継をハラハラ・ドキドキしながら観られるでしょうか。

 観られませんよね。


 サッカーならせいぜいネットで入手した点を得た時間まで待って、どのようにして点が入ったかその流れを確認するだけです。

 そう「確認するだけ」であって「ハラハラ・ドキドキ」なんてまずしません。

 スポーツ中継は結末が出るまでの過程を観るのが面白いもの。

 スポーツ中継を楽しみにしているときはできるだけインターネットには触れないでおきましょう――という警句をいうためにこのコラムを書いているわけではないのです。



 小説を書くときもスポーツ中継と同様、物語が終わって「結末」が出るまで「ネタバレをしない」ことが求められます。

 「結末」にたどり着く前に「ネタバレ」してしまえば、もうその小説の先を読み進む必要がなくなるのです。

 どんなに連載を重ねている小説であっても例外ではありません。「バレた」らそこで終わりです。

 極力「結末」につながる道が見えないように注意しながら描写していきましょう。





出来事は起こった順に書く

 簡単なことですが、意外と忘れがちです。

 朝起きてから会社に出勤するまでを書いてみるとわかります。

――――――――

 朝いつものようにベッドの上で目が覚めた。枕元に置いてある時計を覗き込むと七時三十分だ。八時発の電車に乗らないと会社へ間に合わない。

 ベッドから抜け出して急いで朝食用の食パンを掴み、トースターに入れてタイマーを回す。

 パジャマの上を脱いでから素早くワイシャツを着てひとつずつボタンをかけていった。終わったらすぐに腕時計をはめる。やはり有名ブランドの時計は存在感が違うな。

 パジャマの下を脱いだら靴下を履き、その流れでスラックスに足を通す。財布はいつもどおりスラックスの左後ろのポケットの中にある。引き出しからハンカチを取り出すとスラックスの右前のポケットにしまった。

 タンスから紺と白のストライプを描くネクタイを選び、首に巻いていく。

 スーツのジャケットを羽織ったら、右外ポケットにポケットティッシュ、右内ポケットに手帳とボールペンがあることを確認した。左内ポケットに充電が終わっているスマートフォンを収める。

 革のカバンを手に取って中を確認する。よし、忘れ物はない。

 すると待っていたかのようにトースターから焼きたての食パンが飛び出てきた。カバンを左脇に抱えると冷蔵庫からバターを取り出し、熱々のパンに塗りたくる。塗り終えたバターを冷蔵庫に戻して焼けたパンと溶けたバターの程よい匂いを嗅ぎながら焼けた食パンを口にくわえてカバンの取っ手を左手に持った。

 玄関に向かい、靴べらを使いながら慌てて革靴に足を通す。

 そのまま勢いに任せて家を出ようとしてうっかり鍵をかけ忘れそうになってしまった。慌てる心を落ち着かせるように鍵をしっかりとかける。ドアノブを回して引いてもドアは開かない。施錠は確認した。

 時間は七時四十分。さぁここから駅まで全力疾走だ。パンをくわえながらではなかなかうまく走れない。とりあえず走りながらパンを完食することを優先しよう。水もない中、パンを強引に口に詰め込んだ。これで阻むものはない。八時ちょうど発の電車に間に合うよういっそう足に力を入れて加速した。

 三つ目の信号を抜けてようやく駅が見えてくる。電子マネー機能が入っているスマートフォンを勢いよくジャケットの左内ポケットから取り出した。さらに加速する。

 改札が見えてきた。改札の上にかかっている時計はすでに七時五十八分を指している。息があがってきた。しかし八時発のこの電車に乗り遅れるわけにはいかない。

 スマートフォンをタッチして改札を通過し、電車の待つホームに向かってまずは階段を駆け上がった。あともう一息だ。一番線ホームへ続く階段を駆け下りようとすると発車を告げるベルが鳴る。もう時間がない。階段を二段飛ばしで懸命に下りた。まだベルは鳴り続けている。

 手近なドアを見ると乗客があふれんばかりだ。そんなことを気にしてはいられない。なんとしてもこの電車に乗らなければ。乗客を押し込みながら体をドアの内側へと潜り込ませていく。ベルが鳴り止みドアがゆっくりと閉まった。体はなんとか車内に押し込めたようだ。

 乱れた息と流れる汗を鎮めながら、心の中で小さなガッツポーズをとった。

 よし、これで今日もなんとか遅刻をせずに済みそうだ。

――――――――

 とこんな具合で、出来事を起こった順に延々書き連ねると際限なく文字数が稼げてしまいます。

 しかもまだ電車に乗るところまでしか書いていません。

 これから会社にたどり着くまでにまだどれほどの描写が必要でしょうか。

 書くことが多すぎて困ると思います。



 ちなみに書いた行動がすべて連動しているので、読んでいて引き込まれたのではないでしょうか。

 行動が立て続けに起こることでその先が知りたくなると思います。だからなんてことない文章にグイグイと引き込まれてしまうわけです。



 ただ小説として必要な出来事に絞るとこんなに冗長な文章を書く必要なんてありません。

 小説の文章は書き手が「伝えたい」テーマが読み手に「伝わる」ように書くことがたいせつです。

 上の文章のうち書き手が「伝えたい」テーマは何か、何が「伝わる」と読み手はワクワク・ハラハラ・ドキドキするのか。

 その視点に立つと、書くべき情報は整理されて文章はもっと短く簡潔になります。


 上記は一人称視点で書いているので、主人公の判断や感想が文章に混じっているのです。

 でも書くことで本当に読み手をワクワク・ハラハラ・ドキドキさせられるのか。

 その点を考えて推敲していくことになります。





最後に

 今回は「さらに伝わる文章」について述べてみました。

 要は「書き手の判断や感想を省いて出来事や事実を書く」という基本を押さえつつ、「ネタバレ」させずに「動作が連続する」ように書くことで、さらに「伝わる」文章になるということです。


 つい横着して「俺は悲しんだ」と書いたところで「悲しさ」は伝わりません。

 どのような出来事があって「悲しさ」を感じたのか。


 出来事を書くことで読み手に「これは悲しくなるわな」と思っていただければ成功です。

 一人称視点ではどうしても「悲しい」「悲しむ」と書いてしまいがちですが極力排除して、できるだけ客観的に事実を書くことだけに集中しましょう。



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