42. :手本を探そう

 今回は基礎篇のラストとして「手本を探そう」という内容です。





手本を探そう


 あなたが小説を書きたくなった理由はなんでしょうか。

 おそらく、好きな小説を見つけて「こんなふうな物語を書いてみたい」と思ったからではないでしょうか。


 そこで小説を書く前段階として、まずお手本となる小説を探すことから始めましょう。


 自分の好きなジャンル、書きたいジャンルでかまいません。

 とにかく本を読んで、好きな小説をピックアップします。


 売れっ子作家のものでも新人作家のものでも結構です。

 出版されているというだけでも一定以上の質はあります。


 できれば単行本一冊に収まっている中編・長編小説がよいでしょう。





読み返して書き写す

 好きな本が見つかったら、その本を描写に注意を払いながらひたすら読み返してください。

 何冊かある場合でも、まずは一冊を繰り返し読みます。

 複数巻ある長編小説の場合は全巻通しで読んでしまったほうが構成が理解できてよいのです。

 ですから一冊で完結している小説をオススメします。


 時間があればパソコンでも原稿用紙でもかまわないので書き写してみましょう。このとき縦書きで写したほうが勉強になります。


 手本となるべき小説は自由に選びましょう。

 とくに「私はこの作品が好き」と思っていれば、どのような表現が自分の「心に痕跡を残す」のかを客観的に知ることができます。

 そのような表現知識の積み上げが「良い小説」を書くためには不可欠です。





原稿用紙の使い方を体得する

 好きで手本にした小説を書き写していれば、原稿用紙の使い方や小説を書くときに盛り込まなければならないことなどを体得できます。


 「小説を書く」ためには文章の書き方においてさまざまなルールがあることを知るべきです。それにはやはり既存の作品からその手法を学びとる以外にありません。


 いつ改行するのか。

 どうやって段落を変えているのか。

 どうしてそういう表現をしているのか。


 また、何度も読み返すことで文体を吸収できます。

 どのように書き進めばよいのかも憶えられるのです。


 この先、小説を書き進めるときに行き詰ったら、時間を見つけて好きな小説をまた読み返すとよいでしょう。

 これで当初豊富にあった創作意欲も再び湧いてきます。





手本にするなら質の高い作品を

 小説を書き始めた当初はただ「自分が好きな小説」を手本にするだけでよいのですが、中級以上を目指すのであれば、質の高い作品を手本にしたほうが圧倒的に有利です。


 百点の作品を手本にして八十%模倣できれば、八十点の作品に仕上がります。

 八十点の作品を手本にして八十%模倣しても、六十四点の作品にしかなりません。

 手本にするなら断然点数の高い作品にすべきです。


 あとは独創性オリジナリティーの加点がどこまでつくかで総合評価は左右されますが、基礎点の高いほうが総合評価は有利になります。


 それでは、なにをもって「質の高い」とするのでしょうか。

 ここでは四つの基準を設けてみます。




一.明治・大正・昭和中期までの、いわゆる「名作」

 さまざまな「文章読本」で高く評価されているのは夏目漱石氏、森鴎外氏、谷崎潤一郎氏、島崎藤村氏といった「文豪」です。

 語り継がれるほどの名作は文句なく「質が高い」といえます。

 これらの作品は文体が古いので、現代風に変換する知識が求められます。

 それさえクリアできれば最良のテキストとなるでしょう。


 今は現代語訳された書籍も出版されていますので、そちらを購入すると手っ取り早いと思います。


 平均評価で九十点。百点もゴロゴロしていて「名作」と呼ばれるゆえんです。




二.「流行作家の初期作」

 十年、二十年前の単行本が今でも書店に置いてあり買えること。

 これは客観的に見て「質が高い」といえるでしょう。


 書店の棚は数が決まっており、売れない本をいつまでも飾るゆとりはありません。

 着想だけがすぐれている作品は時代に合わなくなれば消えていきます。

 淘汰が行なわれて残るのは表現が巧みな作品です。


 平均評価では八十五点。探せば百点も見つかります。




三.文学賞・新人賞・ベストセラーをあてにしない

 作品の質を問うときに、賞やセールスほどあてにならない基準はないでしょう。

 文学賞をとった作家の作品はすべて質が高いわけではありません。

 新人賞をとった作家は将来有望だから賞をとったのであって、着想がすぐれていることはあっても、表現の質はそれほど高くありません。


 受賞作やベストセラーを読んでも表現の巧みさに首をひねるものも多々あります。

 受賞作やベストセラーは表現の巧みさよりも着想に重点が置かれているからでしょう。


 平均評価では七十五点。良作に出会えば手本となりえます。




四.ライトノベルはあまり参考にはならない

 ライトノベルの旧作は本屋でほどんど棚にありません。

 そもそもライトノベルは中高生をメインターゲットにした大量消費向けで表現の質を伴いません。(2022現在、メインターゲットは中年です)。


 手本にできるほど表現が巧みなライトノベルはひじょうに少ない。

 それでもここ十年ほどで劇的に良くなってきました。


 川原礫氏『アクセル・ワールド』『ソードアート・オンライン』、鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』、渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』、佐島勤氏『魔法科高校の劣等生』などはいまだに書店の棚を専有していますからね。


 ただそれは主要な読者層である中高生に向いた書き方です。

 そのためライトノベルは「一文改行」スタイルの小説が多数を占めるようになりました。

 「一文改行」スタイルはページ数の割に内容が薄くなります。


 三百枚の小説を書くように編集者から言われたとします。「一文改行」スタイルで書いていくとすぐに書き終えるでしょう。

 しかしその内容は「大衆小説」と比べて三割ほど減ってしまいます。ページの下部分がスカスカだからです。


 だからライトノベルでは「文字数」を指定して「小説賞・新人賞」が設けられています。一文改行をされても、必要な分量を確保できるからです。

 またライトノベルは「萌え」や「属性」などに見られるように着想が重視されます。

 文章の巧みさよりも中高生にウケる書き方だけしかできないのです。


 そして時代が流れると書き手も年をとっていきます。その時代の中高生が求める小説を今までどおり書き続けられるものでしょうか。かなり厳しいはずですよね。(2022年現在では中年が主要層なのでほぼ固定化しています)。


 ライトノベルの書き手を目指している方も、表現は「名作」「流行作家の初期作」で勉強したほうがよいのです。

 そのうえで中高生にウケる書き方をすればよい。

 そうすれば時代を経て読み手が成長したらそれに見合った書き方や表現をしていけるようになります。


 平均評価では七十点。手本にはあまり向いていません。


 それでもライトノベルを手本にしたいのでしたら『このライトノベルがすごい!』の上位に掲載されるような、中高生が今現在楽しく読んでいるライトノベル作品を手本にしてください。

 そうすれば今ウケている要素は身につくはずです。





九十%以上模倣する

 よい手本を見つけたら、それを九十%以上模倣できるように努力してみましょう。

 何度も何度も読み返し、時間の余裕があれば縦書きで書き写すのです。

 九十点の作品の九十%は八十一点となり、なんとか及第点がもらえます。


 九十%は難しいと思われるかもしれませんが、人間繰り返し行なえば、放っておいても八十%は憶えてしまいます。

 七十点の八十%は五十六点ですから、及第点に到底及ばないのです。

 なので最初から点数が高い「名作」を、手本としてオススメします。


 人間、興味を持てば八十五%。絶対必要なんだと切迫していれば九十%以上は確実に憶えられます。

 行なう前からあきらめないで、とにかくトライしてみましょう。





最後に

 今回は「手本を見つける」ことについて述べてみました。

 言文一致体を確立しようとしていた明治から大正時代の当時は文字通り「独りで書き方を見つける」しかありませんでした。

 しかし今は世に小説があふれています。

 手本となる小説を探して、それを真似することが上達への近道です。


 ぜひ積極的に小説を読み、自分に合った書き手を見つけてください。



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