41. :書きあげて推敲して発表するのが小説

 私のWebサイト(すでに閉鎖しています)で書いていた「小説作法」を再編集してまとめました。

 小説は書き上げないとダメだし、手直ししないとダメだし、発表しなければダメなんです。





書きあげて推敲すいこうして発表するのが小説


 小説の「書き出し」は読み手を惹きつけるために工夫を凝らさなければなりません。

 かといってあまりにも意表をつこうとすると失敗に終わります。


 「文章読本」などでは「書き出しの一文がその文章のすべてを決定づける」とされているほどです。


 ですがあまり考えすぎないでください。

 そもそも小説の文は大別すると二種類しかありません。


 「の文」と「会話文」です。


 どちらで始まるにしても主人公に触れておくこと。

 主人公はなるべく早く登場させなければなりません。


 そして主人公の外見や舞台設定などを手早く示しつつ「主人公がどうなりたい」と思うことを早めに読み手に提供してください。


 あらすじの段階でも述べましたが、小説とは「主人公がどうなった」かを書いた文章を指します。

 その主人公がいつまで経っても登場しないのでは、読み手は退屈して小説を読むことを諦めてしまうのです。


 風景描写をするのも舞台背景の説明をしていくのも間違いではないのですが、書き始めは大雑把でかまいません。

 細部は書き進めながら盛り込んでいけばよいでしょう。


 「主人公をなるべく早く登場させる」

 これを第一に考えます。


 そうやって原稿用紙の最初の数枚の中に読み手を惹きつける描写をすることを心がけましょう。

 ときによっては最後まで書いてみて、それから「書き出し」としてふさわしいところを見つけるほうが建設的なことだってあります。





とりあえず書きあげる

 小説を書くうえで最もたいせつなのは「書きあげる」ことです。

 書きあげない限りそれは作文であって「小説」ではありません。


 描写が足りなかろうと展開が散漫だろうと、とにかく書きあげることです。

 書きあげてこそ、どこが悪いのかがはっきり見えてきます。


 書き進めるポイントは

一.シーンが変わったら必ず冒頭でそのシーンの主人公と舞台の描写をする

二.人物を出したら外見の特徴(服装や体格や容貌など)を書く

三.「視点」を統一する(心理描写をするのは一場面シーンにひとりだけ)

  慣れてきたら「神の視点」で書いてもかまいません

四.書き終わりにも主人公を出す

  死んでいる場合は仕方ありませんが、生きているなら出しましょう


 初心者の方はとにかく書きあげることだけを重視して「たくさん書きましょう」。


 一日原稿用紙三〜五枚でも書いていけば実力はついていきます。

 なにせ一か月で九十枚〜百五十枚は書く計算になるからです。


 毎日書けなくても土日にまとめて二十〜三十枚書いてもかまいません。

 とにかく書きあげることがたいせつです。





書いたら推敲すいこうする

 なんとか物語を書き終えたら、次は推敲すいこうです。

 難しい言葉ですが、要は「シーンの順序を入れ替えたほうがいいか」「文章を付け加えるべきか省くべきか」「表記の揺れはないか」「誤字脱字はないか」を見ていきます。


 書きあげたらすぐに推敲するのではなく二、三日寝かせてから推敲したほうが原稿用紙を冷静で客観的に見られるようになります。


 また推敲する前に文書ファイルを複製して保存しておきましょう。

 コンピュータ時代の小説は文字のデジタルデータで構成されています。初稿の描写を残しておかないと、後日検証する際にどこをどう手直ししたのかわからなくなります。

 それでは推敲の技術が向上したのかどうか判断がつかないのです。

 複製をとったら、ひとつずつ見ていきましょう。





シーンの順序

「シーンの順序」はとても大きな問題になります。

 小説は基本的に時間軸どおりに進めていくべきです。

 あまりにも過去に飛びまくる小説は枚数こそ稼げても、小説内の現在で時間がゆっくりと進むようになります。


 ひどい場合は「書き出し」と書き終わりだけが現在で、間に挟まったものすべてが過去を振り返る「回想の出来事」になってしまうこともあるのです。

 こうなってしまうと「書き出し」がそもそも適切なのか疑問に思いませんか。

 過去の話を現在にして進め、書き終わりをそこから進んだ未来である現在にすればすっきりするような気がしませんか。


 このようにシーンの順番を見つめ直して、シーンを入れ替えたり削ったり書き足したりしていくのです。





文章の添削

 「文章を付け加えるべきか省くべきか」は描写や説明が足りているか過剰になっていないかを見ます。

 そのシーンを読んでみて「ここは細かな描写がないと曖昧あいまいでふわっとしすぎ」とか「説明を畳みかけすぎて読者が興醒きょうざめしないか」とか「見た目や音やにおいなど五感がうまく書けていないな」とかいろいろ思い浮かんでくるのです。

 そこを修正していくわけです。


 重要度の高いところの描写は厚くして、低いところの描写は手早く簡潔に済ませます。


 あと一文が長すぎると小説に流れる時間のテンポが崩れてくることもあるのです。


 一文で連続した時間を畳みかけるように描写する意図がない限り、できるだけ短くするべきでしょう。





表記の揺れ

 「表記の揺れはないか」は送り字や漢字の選び方などを見ます。

 「持ち上げる」と「持上げる」はどちらも「もちあげる」と読みますが「ち」を送っているかいないかが異なっていますよね。

 「いく」と「おこなう」を「行く」「行う」と送り字すると決めたのなら「いった」「おこなった」はともに「行った」と表記します。

 もし誤読を防ぐために「行なった」と表記したいのなら平素から「行なう」と送るべきです。


 漢字の選び方はひとつの小説内で「選ぶ」「択ぶ」のように同じ意味合いの漢字でどちらを使うかを定めるということです。

 また「抜き始める」意は「抜きだす」、「抜いて出す」意は「抜き出す」のように書き手の意図がわかるように表記することもたいせつです。


 いずれにしろ「表記の揺れ」は読み手を興醒めさせかねないので、必ず統一されているように気を配って読み返してみてください。





誤字脱字

 「誤字脱字はないか」は文字通り「文字が間違っている」「文字が抜けている」「文字が多い」のようなものがないか確認します。

 これは書き終わってすぐに読み返してもなかなか見つかりません。二、三日経ってもまだ気づかないこともざらにあるのです。

 文章を投稿する寸前によく確認してから投稿するように気を配るだけでもかなり防ぐことができます。





書いたら発表する

 小説を書いて推敲するまでが小説なのではありません。

 発表するまでが小説なのです。


 書いたものは漏らさず発表しましょう。発表して反響に耳を傾けるのです。


 投稿した小説を後日自分で読んでみて欠点に気づくこともあります。

 そのプロセスが大事なのです。

 だからこそ、書いたものは惜しみなく発表すべきです。



 文章をもっとうまく書きたいと思わせるもの。

 それは自分の書いた作品が、他人にきちんと伝わっているかを知ることです。


 反響を聞き、後日自分で読み返してみて「この表現は甘かった」「ここは書き込みすぎた」というような点に気づく。それが次につながります。


 一度発表したものは、表現や描写を手直ししないほうがよいのです。

 「いつでも手直しできる」という保険をかけながら小説を書いても上達しません。


 過去は過去であり、文字通り「過ぎ去っている」のです。

 過去の作品は読み手の記憶に残ります。他人の記憶は操作できないのです。


 一度発表した作品は誤字脱字以外の修正をするべきではありません。

 表現や描写をいじらないこと。次回作でその欠点を修正すること。


 それが文章力を高める原動力になります。





最後に

 今回は「書きあげて推敲して発表するのが小説」について述べました。


 初心者の書き手は、自分の書いた作品がとても人に見せられたものではないことを知っています。

 それでも書きあげた作品はすべて発表するべきです。

 恥をかくことで「今度は汚名をすすいでやる」と次作執筆の原動力になります。


 臆病にならず、ぜひ積極的に発表してみましょう。

 そうすれば早晩「初心者」の看板を掛け替えられますよ。



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