39. :舞台設定の書き方

 舞台設定については以前少し書き及んでいたのですが、あまりにもざっくりとしすぎていたので、もう少し詳しく書いてみました。





舞台設定の書き方


 主人公と「対になる存在」とはどんな世界でどんなことを繰り広げるのでしょうか。

 この「どんな世界」がまさに「舞台」になります。


 主人公の最初の属性から「主人公がどうなりたい」という動機を経て「対になる存在」と決着をつけて「主人公がどうなった」で終わります。

 この流れを作るときに、自然と「舞台」が決まることがあります。





勇者ものなら

 まず「主人公がどうなった」を「主人公が勇者になった」と考えたとします。

 すると勇者が必要な世界というものを作らなければなりません。


 現代日本で「勇者」と呼ばれる人はまずいないですよね。現代の世界を見渡してもなかなかいないでしょう。

「紛争地帯で対抗勢力と戦っていて、数多くの敵を倒してきた」という経歴なら「勇者」と呼ばれるかもしれません。

 つまり現代を背景とするなら「紛争地帯」が「舞台」である必要があるのです。

 銃火器の知識が詳しいならそれで決めてもかまいません。


 賀東招二氏『フルメタル・パニック!』は銃火器の知識が豊富で、かつ世界情勢を巧みに構成して作られたSFラブコメ戦争ロボットもののライトノベルです。

 これだけ盛り込んであれば、読み手の心のどこかに引っかかって読まれるようになります。


 メディアミックス戦略も当たって本シリーズはライトノベル界に大きな足跡を残したのです。(2019年5月の時点でアニメ第四期が進行中とアナウンスされています)。


 もし銃火器の知識が乏しかったらどうでしょう。

 それでも「紛争地帯」での戦いを描写してしまうと、知識に詳しい読み手から「そんなことはありえない」と呆れられます。

 そういう人たちにだけ呆れられるならまだましです。

 今はインターネット社会なので、悪評はすぐに世間に広まります。

 「この人の書く小説は底が浅いから読むに値しない」とレビューで断罪されてしまうのです。

 そうなると他の一般の方も読むのを控えてしまいます。


 だから知識に乏しいジャンルを「舞台」にしてしまうのは危険なのです。





歴史を遡ったら

 ではどうすれば「主人公が勇者になれるのか」を考えてみましょう。

 現代世界ではまず不可能なのは前述の通り。では過去に遡ってみたらどうでしょうか。


 たとえば「関ヶ原の戦い」に参加し、所属する西軍が劣勢に陥って総崩れとなったとき、あえて敵中突破を敢行して徳川家康氏をして「鬼島津」と言わしめた島津義弘氏を主人公にできないだろうか。

 その時代の戦いに詳しいのであればぜひ書いてみましょう。


 このような形でさまざまな人物を描いてきた書き手として吉川英治氏の名が筆頭に挙がるでしょう。次いで司馬遼太郎氏、宮城谷昌光氏の名が出てくると思います。


 歴史小説を書くためにはその時代の知識が膨大に必要です。

 吉川英治氏、司馬遼太郎氏、宮城谷昌光氏などは原典のみならず同時代を描いた史実を貪欲に収集して知識として蓄えています。

 だから彼らの書く小説は時代考証がしっかりしていて、物語も真に迫って心を打つのです。





世界を見渡してみる

「歴史を遡っても詳しい時代がないんだけど」

 それなら世界に目を向けてみてはいかがでしょうか。

 ギリシャ・ローマ神話や北欧神話、カエサルやハンニバル、フランス革命やナポレオン戦争、南北戦争や第二次世界大戦、朝鮮戦争やベトナム戦争などを舞台にして勇者譚を作れないだろうか。

「それなら詳しいものがある」という方はぜひそれに挑戦してみてください。

 こちらも普通の歴史ものと同様、たくさんの知識を集めて時代考証をしっかりとやる必要があります。


 初心者の書き手でそこまで詳しい方というのはかなり稀です。

 それだけにきちんと書き上げられれば「大衆小説」として大ヒットを飛ばし、文壇に名を残すことも不可能ではありません。





SFやファンタジーは最後の砦

 「いや自分はそもそも現代も過去も世界もまったく知らないんだけど、それでも勇者ものを書きたい」という書き手もいるはずですね。

 そうなるともう完全に書き手が作り上げた架空の「舞台」にする以外方法はありません。


 「主人公が勇者になりたい」という動機からSFやファンタジーを書く人は、そもそも現実世界の知識が乏しいから仕方なくSFやファンタジーを「舞台」にするしかないのです。

 自分で作った世界なら、自分で地図も国も町も人種も技術も魔法も作れますからね。


「技術や歴史に詳しいけどあえてSFやファンタジーを書いているんだけど」

 そういう書き手も当然いらっしゃいます。

 そういう書き手はひじょうに大きなアドバンテージを持っています。

 現実で実際にあったこと起こったことを架空世界へ持ち込んで題材にできる。

 アイデアの泉が尽きないのです。


 だからSFやファンタジーを専門で書きたいと思っている人であっても、できるだけ現実の技術書や歴史書などをたくさん読み込んでおくべきです。

 それがあなたが書きたいSFやファンタジーの血肉になります。





恋愛ものは自由度が高い

 このように「主人公が勇者になった」という話を作ろうとすれば「舞台」は半自動的に定まってくるのです。


 ところが「恋愛もの」になると話が違ってきます。

 隣室、隣家、同級生、同じ学校に通っている、同じ電車に乗っているという身近なところから、新海誠氏『ほしのこえ』のように遠い宇宙を隔てた恋愛だってあるはずです。


 「恋愛もの」のよいところは「必須となる知識は人の惚れた腫れたのバリエーション」だけというところです。


 現代劇でも歴史劇でも西部劇でもSFでもファンタジーでもよい。

 いつでもいいしどこでもいい。「舞台」に縛られることがありません。


 初期設定で必須なのは魅力的な「主人公」と「想い人」、そしてその関係性だけです。

 あとはそれをどんな「舞台」で繰り広げようとするか。

 そして「舞台」を選んだら、その「舞台」を活かした恋愛の形を綴っていけばいいのです。


 ほとんどの方なら一度は誰かに恋愛感情を抱いたことがあるはずです。

 その想いを「文章化して世間にひけらかすのは照れる」と思ったら負けです。

 あけすけにどんどんひけらかしていくくらいの図太さが、恋愛小説の書き手には求められます。

 想像だけで書かれた恋愛小説はやはり読み手がのめり込みにくいのです。

 ある程度恋愛感情というものを有しているから、それを共通項にして書き手と読み手はつながっていけます。





舞台説明の必要度合い

 オリジナル小説の場合、設定をすべて克明に描く必要があります。そうしないと読者にはなんのことだかさっぱりわからないからです。

 どういう世界が舞台なのか。季節や時間は。人物の情報は、などの基礎情報は忘れずに書きましょう。


 それに対し二次創作小説の場合、読者は世界観やキャラクターの設定をすでに理解しているので、とくに描写しなくても不都合がありません。

 かえってくどくなることもありますので、周知のことは書かないほうがよいでしょう。

 服装や装飾品、季節や時間などその時々によって設定が異なる場合は、もちろんしっかりと描かなければなりません。


 二次創作を多く書いている人がオリジナル小説を書くと、読み手に設定を開示しないまま書き進めていくことが多々あります。

 読み手は「開示された以外の情報は知らないまま読み進めている」ことをじゅうぶんに念頭において描けば失敗は少なくなるのです。





最後に

 「舞台」設定が自動的に決まるパターンとして「勇者もの」を、自由度が高いパターンとして「恋愛もの」を題材に取り上げてみました。

 もちろん「勇者もの」かつ「恋愛もの」という作品も無数にあります。

 前述した『フルメタル・パニック!』も「勇者もの」の「ボーイ・ミーツ・ガールもの」です。


 「主人公がどうなりたい」から始まって、いろいろと考えていく作業はとても楽しいもの。暇があればいろんな状況シチュエーションを考えてしまうのが私のクセです。

 あまりに楽しすぎて執筆するより考えることを楽しんでしまうことも多くあります。


 そのため場面シーンのイメージが頭の中で構築されやすくなったので「この場面シーンならこんなものが見えるし聞こえるな」というものが容易に思い浮かびます。

 それを余すところなく書くことができればいいのですが、どうもそのあたりの描写力が足りないんですよね。


 たぶん妄想している時間が楽しくて、そこから言葉を拾い上げていく作業が億劫おっくうになっているのだと思います。このあたりは悪いクセですね。


 万人に向くかはわかりかねますが、こういった妄想作業を重ねていくと想像力が豊かになって創造力が身についてくるのではないかと思います。



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