35. :ミスマッチを防ぐ

 書き手が書きたいものと読み手が読みたいもの。それぞれに思惑があります。

 閲覧数は増えているのだけどいいねや評価やブックマークがなかなか付かない。

 書き手としてはどうしたらよいのでしょうか。





ミスマッチを防ぐ


 書き手には書きたいものがある。読み手には読みたいものがある。

 そこが乖離していると齟齬ミスマッチが生じてしまいます。

 ではどちらを優先すべきでしょうか。





成人向けでなくてもビニール封

 ライトノベルは他の「文学小説」「大衆小説」と異なり、人気イラストレーターが描く「表紙」と「タイトル名」によってどのような内容なのかを推察して購入されていきます。


 ビニール封|(シュリンクといいます)がしておらず試し読みができる書店なら他の小説と同様「冒頭部分を読んでみて気に入ったら買う」というスタイルをとれるのです。


 でもライトノベルにはたいていビニール封がしてあります。

 「成人向けだから」という理由ではありません。


 「ライトノベルの多くが一文改行スタイルなので、立ち読みされると短時間で読了されてしまい買われなくなる」のと

 「中を読まれて早々に見切られると売れなくなるから表紙とタイトル名だけで買わせる『表紙買い』を促したい」のと

 「新品の綺麗な書籍を大切に保存しておきたいと買い手が思っており、折れや破れのある書籍はたとえ欲しくてもその店では買わない」からです。


 現在ライトノベルで人気のあるタイトルは、すでに実績を残した書き手の作品か、無料で小説が読める小説投稿サイトで実績を残した作品が多くなりました。

 新人の書き手は小説投稿サイトで人気が出たから「紙の書籍化」したパターンが現在ではほとんどのようです。


 各出版社ごとに「小説賞・新人賞」を設けているのですが、そこから書籍化するためにはかなりの競争を勝ち抜かなければなりません。

 小説投稿サイトで連載を楽しく読んでいた人たちは中を見ないでも安心してライトノベルを購入していきます。


 また電子書籍の普及により冒頭部分の試し読みはインターネットやスマートフォンでできるようになりました。

 そちらで試し読みをして、気に入ったら紙の書籍を買えばいいと考える人も多くなっているのです。


 いずれにせよ実店舗の書店はライトノベルにビニール封をしてもお客様は確実に購入してくれると判断しているわけですね。





それでも起こるミスマッチ

 ネットやスマホなどで冒頭を試し読みできたとしても、その小説一巻を読み終わった際読み手が「買って損した」と思う事態も発生します。

 齟齬ミスマッチです。


 なぜ齟齬ミスマッチは起こるのでしょうか。

 「冒頭しか読めない」からに他なりません。

 序盤のノリだけを気に入って買ってみた。

 でも読み進めていくうちに「なにか馴染めないな」と思い始め、第一巻を読了したとき「これは違うな」と思われてしまえば第一巻がいくら売れても続刊はさっぱり売れなくなるのです。


 『パネルマジック』のようなもので、見かけはいいんだけど実際に体験してみたら期待と違っていた。これで続刊も買えというのは書き手の横暴でしかありません。




『パネルマジック』を排除するには

 書き手が小説を書こうと思い立つのは「書きたいもの」「伝えたいもの」が書き手の心の内にあるからです。

 だから書き手はそれを書きたいと強く願っています。


 読み手が小説を読もうとするのは、「読みたいもの」が書いてあることを期待するからです。

 だから読み手はその期待に応えてくれそうな小説を読むことに主眼を置いています。

 そのために表紙イラストとタイトル名(冒頭試し読みができればそれも含めて)だけで『表紙買い』をしてみるのです。


 となれば書き手はライトノベルを買ってもらおうと冒頭部分を流行りのスタイルで書き、メインターゲット層である中高生が読みたくなるようなタイトルをつけ、人気のあるイラストレーターに表紙を書いてもらうことになります。

 まさに『パネルマジック』を体現してしまうのです。


 この『パネルマジック』を排除するために読み手はどうすればよいのでしょうか。

 小説投稿サイト発の小説であれば、サイトで連載をきちんと読んでおくこと。

 これが最もリスクを回避できます。

 ただ「紙の書籍化」が決まると小説投稿サイトから連載が削除されたりかなり手を加えられたりするケースが多いため、それ以前から小説投稿サイトに張りついてチェックするしかありません。かなりの手間ですよね。


 ただ「紙の書籍化」をするほどの人気作品であれば、小説投稿サイトでのランキングも上位であることが多いため、先行投資としては当面それを片っ端からチェックするだけでよいでしょう。


 次にインターネットの書籍販売サイトについているレビューを参考にします。

 ネット世代に中高生が主たる読み手のライトノベルにはたいていレビューが付きますので、これを確認してから購入する手もあるでしょう。

 ただ小説投稿サイトで人気のあった作品であれば初版はすぐに売り切れてしまう可能性もあるため、場合によっては第二刷以降を待つことになります。

 学校での話題に乗り遅れてしまう可能性も高くなるので注意が必要です。





『パネルマジック』をしない

 書き手は『パネルマジック』を狙わず、作品全体でトーンをひとつにして読み手が冒頭だけで見切れるようにしてあげる配慮が必要です。


 それではせっかくの小説が売れないじゃないか。


 そう思いますよね。確かに売れなくなるのです。


 ただ『パネルマジック』をしなかったので、あなたの新シリーズがスタートした際、読み手はあなたの新作を試し読みしてくれるようになります。


 『パネルマジック』をしなかったから、この書き手は誠実な書き手だ。

 読み手はそう判断するのです。

 だから新作を試し読みして判断してもいいかなと読み手に思わせられます。


 誠実さは書き手最大のステータスだと言ってよいでしょう。

 もし『パネルマジック』をしてしまったら、読み手はあなたの新作を試し読みしなくなります。

 また『パネルマジック』かもしれない、と思われてしまうのです。

 だからよほど高評価を得た会心の新シリーズでなければ、一度離れた読み手をフォロワーに戻せなくなります。




どんな物語なのかを冒頭で示す

 書き手は自分が書きたいものを書きたいように書けます。

 ただそれで読み手を満足させられるとは限りません。


 読み手には読みたいものがあるのです。

 白熱したバトルシーン、緻密な頭脳戦、好みの異性とのイチャコララブラブシーンかもしれません。

 読み手が読みたいと思っているものを冒頭のうちに提示できるか。

 書き手にはその工夫が求められるのです。


 そのためには冒頭で主人公は誰でどんな人物か、「対になる存在」が誰でどんな人物か。主人公はどうなりたいのか。日常小説なのかギャグ小説なのか恋愛小説なのかバトル小説なのか。

 そういったものをきちんと書く必要があります。


 多くの小説投稿サイトでは「あらすじ」「キャプション」を書いて検索一覧で読むことができます。

 物語の展開上どうしても冒頭に「どんな物語なのか」を書けない場合は、「あらすじ」や「キャプション」を利用して「どんな物語なのか」を端的に説明してみてください。


 私は正直に言って「あらすじ」や「キャプション」や書き出しの冒頭にこれらが書けていない書き手の小説を読みたいとは思いません。

 先々の展開がまったく読めない作品に時間を費やす必要性を感じないからです。





小説投稿サイトならキーワードやタグが重要

 『小説家になろう』に限らず『エブリスタ』『アルファポリス』『カクヨム』『pixiv小説』『ピクシブ文芸』などの小説投稿サイトでは作品の属性を示す「キーワード」「タグ」を付けることができます。

 これにより読み手が読みたい小説を簡単に探せ、かつ齟齬ミスマッチを防ぐのです。


 適切な「キーワード」「タグ」を付ける必要はありますが、ランキング上位の「キーワード」「タグ」の付け方を参考にしてみるとよいでしょう。


 「キーワード」「タグ」をうまく用いて齟齬ミスマッチを防いでいけば、閲覧数の割にいいねや評価が伸びない、ブックマーク数が増えないという事態も起こらず、需要のあるジャンルであればランキングにも載れるでしょう。


 『pixiv小説』は二次創作でないと現状ではランキングに載ることは不可能なので、オリジナルで勝負したい方は他の小説投稿サイトを検討してみてください。





最後に

 今回は「ミスマッチを防ぐ」ことについて述べてみました。

 せっかく時間を割いて書いた小説が、世間であまり読まれずに消えていく。

 想像するだけで悲しいですよね。

 書き手はできるかぎり「ミスマッチを防ぐ」手段を講ずるべきです。


 今回はその一端を、とくに「紙の書籍」を題材にして示しました。小説投稿サイトは表紙が付けられれば表紙も要点ですが、やはり「キーワード」「タグ」の力が大きいです。

 「キーワード」「タグ」だけで閲覧数を稼げるほどに大きな力を持っています。



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