15. :回想はなるべく使わない
「回想」はとても便利なのですが、あまりに便利すぎて「回想」だらけの小説になってしまうことがあります。
「回想」を控えてみることを考えましょう。
回想はなるべく使わない
執筆は基本的に書き出しから時系列に沿って進めていきます。
しかし書き手は往々にして途中で回想シーンを入れて時系列を乱すことがあります。
その結果、回想シーンを飛ばして読んだときに本来「過去があったからといって変化しないはず」の性格や性向が、回想前から変化してしまうことがあるのです。
回想前はポジティブな性格だったのに、ネガティブな回想が入り、回想が明けたらネガティブな性格になったときが好例でしょうか。
その人はポジティブなのかネガティブなのかはっきりしない。
人はネガティブな回想によって嫌な過去が思い出されて気分を腐すことはありますが、回想したからといって性格や性向そのものがガラリと変わったりはしませんよね。
だってそういった出来事を経験して「今の自分」があるのですから。
回想シーンを禁じてみる
書き慣れていない書き手は、まず「途中で回想シーンを入れる」ことを禁じ手にしましょう。
今起こっていることを時系列に沿ってありのまま書いていくのです。
過去を入れたければ書き出しが過去からでいいではありませんか。
「あまり重要度の高くない過去だから、書き出しに持ってくるとストーリーが破綻してしまいます」という人もいるはずですよね。
それほど重要度の高くない過去をわざわざ回想シーンとしてまで用いる必要がありますか。
そこを自問してください。
回想はほとんどがこういうものです。
それなら長々と回想させる必要はありません。
わざわざ話の流れを切ってまで入れる必要はないわけです。
そうであるなら過去の出来事は一文や短文であっさりと終わらせましょう。
これで話の本筋が寸断されたり性格や性向が変化したりを防げます。
回想シーンがどうしても必要なら
それでも話の流れとして「ここで過去を回想して鍵となる出来事を思い出さなければ成立しない」という小説もあるにはあります。
その場合は回想によって性格や性向が変質しないよう細心の注意を払いましょう。
過去の出来事で今の性格や性向が変化することはまずありません。
あるとすれば「記憶になかった出来事」だが「その出来事を思い出した」ら感情が揺さぶられて性格や性向に変化が生じた、くらいでしょう。
ある種の「記憶喪失」といえます。
「記憶になかった出来事」が話の本筋を分断し、さらに性格や性向を変化させるというのはそのくらい稀有な現象なのです。
書き手は苦労するが読み手も疲労する
回想シーンを盛り込むのはこれほど書き手に負担をかけます。
だから話の本筋を進めながら、回想シーンばかりが出てくる小説は破綻しやすいのです。
そもそも人間の脳は目にした順番に物事を憶えるように出来ています。
本筋が時系列どおりに流れているのに、頻繁に回想シーンを入れるとどうなるか。
回想シーンのたびに読み手は時系列のどこにあたるエピソードなのかを判断できるまで本筋の思考が停止します。
そして回想シーンが終わって本筋に戻ってきたら、停止していた本筋の砂時計を再度動かすことになるのです。
これは読み手の脳に多大な負担をかけます。
それほどの負担を何度も何度も強いられると、読み手は疲れ果ててしまうのです。
その疲れを快感に思う人も確かに存在します。
とくにミステリー小説ファンに多いのです。
ミステリー小説は犯人を特定し追及する過程で、どうしても「現在と過去を行き来する」必要に迫られます。
ミステリー小説のファンはそのとき感じる脳の負担を「謎が深くて味わいのある作品だ」と解釈するのです。
だから聞き込みによって過去の情報が提示されるたびに「これはどんな伏線なのだろう」と脳の疲れを積極的に楽しみます。
大衆小説の読み手は
大衆小説はどうでしょう。
大衆小説の読み手はそこまで脳に負担がかかることを好みません。
それなら読み手をわざわざ疲労される必要があるでしょうか。
あまりに疲れ果ててしまうと「読んでいてやけに疲れる小説だな」と感じて読むのを断念してしまいます。
ミステリー小説ファンのように「あのときの疲れは病みつきになるな」と感じてくれれば、時間をおいて「その小説の続きが気になるな」と思い直して再び読み進めてくれるでしょう。
そこまで読み手を魅了する大衆小説が書ける人はすでにプロ級の腕前です。
小説投稿サイトでは誰もが閲覧数(PV)とブックマーク数をいつでも見られます。
どのくらいの人が読み続けてくれているかの目安にもできます。
PVが少なくブックマークも少なければ「そもそも興味がない小説」。
PVが多くブックマークが少なければ「間口は広いが大衆ウケしない小説」。
PVが少なくブックマーク数が多ければ「魅力はあるけど読み疲れる小説」。
PVが多くブックマーク数も多ければ「何度でも読み返したくなる小説」。
つまり「何度でも読み返したくなる小説」を書いていれば、その人はじゅうぶんにプロ級の腕前といえます。
大衆小説の読み手が求める小説とは
小説はそもそも読み手が「空いた時間で読む」ものです。
そこで脳を疲れさせてしまうと、仕事や勉強や作業に戻ったときに効率が悪くなります。
ただ脳は読書で使う部位と仕事で使う部位が異なるともいわれるようです。
読書は「光景を思い浮かべる」部位で、仕事や勉強や作業は「物事を処理する」部位という具合に。
だから「読書で疲れても仕事には響かない」という賢明な方もいます。
ですが「脳を使うための扉」はひとつしかありません。そこへ大量に情報が行き交うことで脳の疲れが溜まっていきます。
疲れても鍛えていくことで脳の処理能力が次第に向上していくのです。
ですが小説投稿サイトを利用するおおかたの読み手は単純に「脳が疲れると効率が悪くなる」と思い込んでいます。
人々は大衆小説に「脳の疲れ」は求めていません。
求めているのは「お手軽にすらすら読めて楽しめる」小説です。
十分でも時間が空いていればひとつのエピソードが読めるくらいにお手軽なものを読みます。
さらに定期的に新エピソードを出してくれる小説が好まれるのは以前お話し致しました。
書き手はこの点を理解して小説を書くとよいでしょう。
終わりに
今回は「回想」について述べました。
ワンポイントで使うぶんにはじゅうぶんな効果が期待できます。
ですが現在と回想を絶えず行ったり来たりするような小説は、脳が疲れ果てて続きを読まれなくなるでしょう。
回想を使うなら緻密にあらすじを計算して、効果的なところで用いるようにしてください。
それだけで小説がわかりやすくなり、読み手が疲れずに読み進めてくれます。
結果次のエピソードを心待ちにするようになるのです。
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