魔法村

「魔法は使えるか?」

久しぶりに村に戻って来た祖父は、開口一番僕にそう質問した。

「いえ、まだ使えません」

「なに!」

祖父は、眉間に皺を寄せて僕を睨んだ。

こうなることはわかっていた。祖父は昔からとても厳格な人で、まだ幼い僕に対して魔法を使えるようにするために厳しく修行を施した。

だけど、僕は一向に魔法を使えるようにはならなかった。

祖父が出張して村をあけている間にやるべき課題もしっかりとやった。でも、魔法を使えるようにはならなかった。

だから、僕は今日と言う日を恐れていた。



そもそも僕は何のために魔法を使えるようになるべきなのだろうか。

この村で魔法を使えるのなんて、祖父と村長と僕の兄さんだけじゃないか。

その三人以外は、この村で魔法を使える人はいない。

僕の両親も弟も妹も使えない。学校のクラスメイトだって誰一人魔法を使えない。

でも、それを祖父に言うと、「そんなことはお前には関係ない」と言われる。

魔法こそが、僕には関係ないのだ。しかし、そんなことは、言えない。



「ついてこい」

祖父が村に帰って来た次に日、早朝に起こされ、祖父は僕にそう言った。

「どこへ行くのですか?」

「行けばわかる」

僕は祖父の後を黙ってついていった。



祖父は森の中へと突き進む。森の中には、立ち入り禁止エリアがあり、そこへは魔法が使える三人しか入ってはいけないという仕来りがある。

そして、案の定祖父の足は、立ち入り禁止エリアの前で止まる。

「入るぞ」

「えっ、でも、僕は魔法使えないよ」

「ワシが使えるから大丈夫だ」

そう言って祖父は、立ち入り禁止エリアの中へ入って行った。

僕は置いて行かれないように必死に走って祖父を追いかけた。



どれぐらい進んだだろうか。足が痛くなってきた。疲れてついつい地面を見てしまう。

「着いたぞ」

祖父がそういうと、僕は頭を上げた。

目の前には、鳥の像が立っていた。

しかし、その像はどこかおかしかった。頭は鳥だが、体は人間なのだった。

「鳥人?」

「そうだ」

「これはなんです?」

「これは神だ。この村を守るな」



祖父が言うには、この村の三人の魔法使いは神から力を貰ったために魔法が使えるのだと。

その話を聞いて僕は思った。ならば、僕が魔法を使えないのも当然じゃないかと。

しかし、その考えを祖父は見抜いたのか

「ワシら三人は神様からギフトを授かる前から、その兆候があったのじゃ」

兆候?

「魔法と呼べるかはわからぬが、念じれば木の枝を折ったり、物を浮かせたりできたのじゃ」



祖父や兄ができるのだから僕にも期待したのだと。僕はそう言われても何も答えられない。結局、祖父は僕に勝手に期待して勝手に失望したのだった。

僕は、どうすることもできず、普通の村人として幸せに暮らすことに決めたし、祖父と村長、兄は、モンスターと戦いながら、余生を過ごしていた。


僕はそんな三人を見ていてつくづく魔法を使えなくてよかったなぁと思った。

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12時間耐久短編 黒羽感類 @kanrui05

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