ばっがお
学校の下駄箱の近くにある自動販売機では、他では売っていないドリンクがある。
町の色んなところで同じ自動販売機を見かけるほど有名なメーカーのものだけれど、それは学校でしか見かけない。
興味本位で買う人はいるけれど、私はまだ買ったことがない。
噂によると、それを買って飲んだ生徒は好きな人と付き合えたとか、テストで良い点が取れたとか、聞いたことがある。
そのドリンクは、容器はペットボトルでラベルのデザインは、緑色の背景に見たこのない漢字が二文字大きくプリントされている。中身の色は白く濁っていて有名なスポーツドリンクに似ている。
私が自動販売機の前で買おうか迷っていると、後ろから話しかけられる。
「先いいっすか」
幼い顔をした背の低い男の子が私を見上げている。
「あっはい。すみません」言って私はどくと、後ろに行列が並んでいたことに気が付いた。
行列を見ていると、皆、例の飲み物を買っていた。
そんなにおいしいのかな。やっぱり買おうか。そう迷っていると、その商品は売り切れになってしまった。
すると、並んでいた男子生徒が言った。
「おい、マジかよ。ばっがお無くなったのかよ」
ばっがお?
男子生徒は、例の商品の売り切れの部分を何度も押していた。
あの飲み物の名前は「ばっがお」と言うのか。
私は買うのを諦めて、校内を歩いていると、ばっがおを頭から豪快に浴びている生徒を発見した。
「おっ、お前ばっがお浴びる派なのかよ」
と浴びている男子生徒の横で坊主頭の男子が言った。
坊主頭は、ばっがおの蓋を開けるとそこにストローをさし、ストローの飲み口を右の鼻の穴に突っ込んだ。
坊主頭は、思いっきり鼻水をすするようにストローからばっがおを吸った。
すると、ばっがおを浴びていた男子が「お前それ好きだねぇ」と言った。
坊主頭は、吸うのを一旦やめると「まじこれたまんねぇよ。この摂取の仕方が一番だぜ」と言った。
私は鳥肌が立った。なんてことをしているのだ。これは異常だ。
ばっがおを飲むと頭がおかしくなるのか。
ばっがおに恐怖心を持つとともにやはり、飲まないにしても買ってみたい気持ちが強くなった。
しかし、私はしばらく、ばっがおのことは考えなかった。
当然買わなかったし、そもそも自動販売機に近付かなかった。
いつかいつか、と思いつつも、不気味さにしり込みしていたのだ。
ある日友人が、「はいこれ」と言ってばっがおを渡してきた。
「えっ何?」
「これあげる。最近元気ないからさ。ジュースでも飲んで元気だしな」
そういって、友人は私にばっがおを押し付けてきた。
「いいの?」
「うん。ほら」と言って友人は、自分の分のばっがおを見せて来た。
私達は乾杯をして、ばっがおを口にした。
少し、怖かったけれど、断れず、勢いで飲み込んだ。
味は、まずくはなかった。というより、どこかで飲んだことのある味だった。
しかし、それは思い出せなかった。
それから、何日か経ったけれど、体に異常はなく、依存性も感じられなかった。
後に知ったのだけれど、ばっがおを鼻から吸っていた男子は、特技が鼻洗浄だったとか。
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