The Box

小学校卒業と同時に友達4人でタイムカプセルを埋めた。

成人式の日に掘り返しに行こうと約束して、神社にある大木の下に勝手に埋めた。

カプセルの中身はお互い秘密。私は何を入れようか考えた。

私は、まず手紙を入れようと思った。未来の私へ向けた手紙だ。



未来の私は元気ですか?夢は叶っていますか?ポチは生きていますか?

そんな内容にしようと思った。

でも、ひねくれ者の私は正直それではつまらないと思った。

もっと、二十歳の自分が読んで驚くことを書くことにした。



だからと言って、未来の自分を予言したり、占いを書いたりとありきたりなことは、したくない。

だから、私は書いた。何かを書いた。今では忘れてしまっているけれど、私はわっと驚くことを書いたのだ。



今日は成人式と同窓会だ。久しぶりにタイムカプセルを埋めたメンバーに会える。

タイムカプセルを埋めたあの日から、実は一回も会っていないのだ。

八年ぶりだ。ドキドキする。

皆は今、どんな顔をしているのかな。



私は、成人式後、同窓会会場について受付を済ませた。

中に入るとメンバーの一人が他の友人と話していた。

「久しぶり!」と元気よく声をかけると、その子は少しばつが悪そうに、こっちを向いた。

あれ?どうしたのかな。今一瞬、人の影に隠れようとしなかった?



私は声をかける時に挙げた右手を下にさげて、その子のもとへ寄って行った。

「久しぶり。どうしたの?」

「いや。なんでもないよ」

そう話しているうちに、他のメンバー二人も会場に入ってきた。



私が二人に手を振ると、二人はよそよそしくなった。

二人は近寄って来て「久しぶり。元気だった?」と言った。

私は勿論!と言って右手でグッとした。

二人の視線は一瞬右手に行き、後悔したように視線を外して、二人は顔を合わせた。



私は言った。「ねぇ、覚えてる?タイムカプセルのこと」

「えっ。うん、まあ」

歯切れの悪い返事を三人は返す。

「あれ、掘りに行こうね。今夜終わったらさ」



私が無邪気にそう言うと三人は、顔を合わせて、

「え?いいの?」と言った。

いいの?どういう意味だろうか。

「そりゃ。いいでしょ。どうして?」

「だってほら。大丈夫なの?それ」

といって三人は包帯の巻かれた私の右手を指さした。



私は思い出した。私のこの右手の小指は、もう戻ってこないことを。

タイムカプセルを埋めようとした時、私は間違ってスコップで小指を切ってしまったのだ。

それから、それを隠すように包帯をずっと巻いたままだ。

そんなこと私は何故か忘れていたけれど、三人はずっと気がかりだったのだろう。



私は「大丈夫」と言って三人に半ば無理矢理約束を取り付けた。

今夜、同窓会が終わったら、掘り返しに行くと。



私達四人は、神社の階段を上っていた。

「もうすぐだね」と言った。手にはスコップを持っている。

そして、

神社の大木の下についた私達はタイムカプセルを掘り起こした。



タイムカプセルを開け、それぞれ懐かしがっているなか、私は封筒を開け、手紙を開いた。



『小指は鏡台の引き出し』



手紙にはそう書かれていた。



その一言で私は思い出した。

この小指は、スコップで切ったのではない。

私がこの手紙を書くときに、鋏でちょん切ったのだ。

そして、母の鏡台の引き出しに隠し、この手紙を書いた。



私は納得した。友人たちが私を恐ろしいものを見る目で見てくる理由が。

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