誕生日パーティー
おはよう。白い壁に向かって朝のあいさつ。こんなことするの俺しかいなかもしないけれど、あいさつする相手も壁しかないのだから仕方がない。
俺の家には何もない。寝ている俺を起こす目覚ましもないし、朝起きて畳む布団もない。部屋の扉は引っ越ししてきた日に壊した。わざとではない。蛇口はあるが水はでない。醜い俺の顔を映す鏡もない。
だから、壁に挨拶する。
朝食を買いに着替えもせず外に出る。(そもそも着替えなどない)
ポストすらない家の玄関に封筒がヒラヒラ舞い落ちる。
俺はそれを拾い上げ、中身を確認した。手紙が入っていた。
『誕生日パーティーのお誘い』
と書かれていた。
手紙には日時と場所が書かれていた。
差出人には、『ミスター布団マン』と書かれていた。
俺は中身を確認したから、コンビニのゴミ箱に手紙を捨てた。
行こうか迷った。正直、ミスター布団マンなんて奴知らねぇし、そう自称する奴なんて寒いセンスの持ち主だろう。関わりたくない。
絶対に変な奴だ。
俺の何もない生活を揺るがそうとしてくるならば、関わらない方が良いのだが、しかし、揺るがすのならば、どうにかしなければいけない。
そう考えて俺は結局、何もしないことにした。様子見の意味もあるが、何もない俺は何もしない。俺にはこれしかないのだ。
どうにかするにしても、どうすれば良いかわかないから。
そうして、俺は今日を終えた。
次の日、俺は壁にあいさつをして、外に出た。すると、デジャブ。手紙がヒラヒラ。
俺は中身を見ると、またミスター布団マンからの招待状だった。
昨日の招待状では、誕生日パーティーの開催日は昨日の13時だった筈。
手紙を読むと、日付が今日になっている。
なんだこいつは。昨日やったんじゃないのかよ。
もしかして、誰も来なかったんじゃねぇのか。昨日のパーティー。
それの当てつけか。
気持ち悪いなぁ。俺はそう思って、コンビニのゴミ箱に手紙を捨てた。
そして、それは続く。
次の日も、また次の日も、手紙は届き続ける。
内容は、当然ミスター布団マンからのその日行われるパーティーの招待状。
さすがに、気持ち悪いを通り越してイラついた俺は、気が大きくなったのか、パーティーに行ってやろうと思った。
こんな奇妙なことをしてくるのだ、きっと変態に違いない。俺は文房具店でカッターを買い、13時にミスター布団マンの指定した通りの屋敷へ向かった。
屋敷の前へ立って深呼吸をした。
これから何が起こるかわからない。
俺はポケットに忍ばせたカッターを握締め屋敷の中へ入った。
「たのもー」
俺は勢いよく屋敷に乗り込んだ。
「この変態が!懲らしめに来たぞ!」
そう叫ぶと、屋敷内から悲鳴が聞こえて来た。
「ひっひー!勘弁してくだせぇ」
その甲高い声に俺は身構えるのを忘れていた。
「は?」
「懲らしめないでくだせぇ」
屋敷の奥からでてきたのは、ピエロに変装した男だった。
「なんだ、その恰好は」
「仮装ですぜ。兄貴」
「なんで仮装なんかしてんだ。それに俺はお前の兄貴じゃねぇ」
「えぇごもっとも。兄貴は俺の兄貴じゃありません」
「で、何で仮装してんの」
「それはもちろん。誕生日パーティーだからですぜぇ」
「いや、なんでそもそも招待状を送って来るんだよ」
「それはですね。暇だからです」
そいつは暇だから、暇つぶしに毎日パーティーを開催して、招待状も町中の人に送っていたらしい。しかし、未だにお客は俺だけ。
俺以外の町民は総スカンなのにも関わらず、
俺は根負けしてまんまとミスター布団マンの思い通りに動いたらしい。
悔しい。何も持たず、何もせずを貫き通そうとした俺が、この俺が、ただの暇人だったなんて。
俺はしばらくショックで寝込み、結局、眠りやすいベッドを買った。
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