2.10年ぶり(気分的に)の帰省をするはずだったのに
日曜日。
1時間半電車に揺られ、普通ならもうとっくに実家に辿り着いているはずだった。
何故だろうか。ぼくは不良に絡まれていた。
「あぁん?テメェなめてんのか?ああん?」
「テメェコラ!邪魔すんじゃねぇよ!!」
「いや、特に舐めてないですよ」
と冷静に返しながら、いつの時代の不良だよと心の中でツッコんでしまう。
「それに邪魔もなにも、その子、嫌がってるじゃないですか」
正確には、ぼくが不良に絡まれたのではない。
ぼくから声をかけたのだ。
駅前から少し離れた路地で強引なナンパをされて困っている女の子を見過ごせなかったのだ。
これも、異世界で勇者なんてものを10年もやらされていた名残りだろうか?
元のぼくだったら、恐くて声をかけられなかったかもしれない。
いや、勇気を振り絞って声をかけたとしても、こんなに冷静に受け答えは出来ていないだろう。
特に正義感が強いという自覚はないし、むしろ、面倒くさがりな部類だと思っているが、それでも理不尽な絡まれ方をしている少女を見ると、ぼくの体は自然と不良たちと少女の間に割り込むように動いていた。
「君、大丈夫だよ。もう行っていいよ。」
「あの、でも・・・」
「大丈夫だから。ほら」
「っ・・・す、すみません!!」
「あ!コラ待てよ!」
高校生くらいに見える少女は、申し訳なさそうに頭を下げると、
不良の静止を振り切って、人通りの多い駅の方向へと走り去って行った。
「おいテメェ、わかってんだろうな・・・?」
「落とし前つけてもらうぞ」
「あ?あ、コラ?あ?」
だからいつの時代だよ・・・。
各々に威圧しながら、5人の不良たちがぼくを取り囲む。
きっと次の瞬間にはボコボコにされるんだろうな。
そんな想像をしながらも、ぼくの口元はヘラヘラと薄い笑みを浮かべ、
心は凪のように穏やかだった。
当然だろう?
ぼくはついこの前まで、身の丈3mはあるトロールや、
一瞬にして街一つを焼け野原に変えるドラゴン、
目を見るだけでも命を奪われるリッチなんかと渡り合ってきたのだ。
「・・・・・・来いよ」
意識して、不良たちを睨みつけ、低い声で一言だけ告げる。
10年間、時を止められていたぼくの肉体は、勇者だった頃の体とは異なり、
普通の大学生と変わらない。
それでも、負ける気など米粒ほどもしなかった。
いや、別に負けても良いのだ。
負けたところで、命まで取られるわけではないのだから。
異世界帰りの元最強勇者、パパになる。〜19歳だけど精神年齢29歳のぼくに双子の娘が出来てしまった ネコタロス @neko_taro
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