第101話 家族皆で


 親子で抱き合い、言葉にならない言葉を交わし合い……そうして再会を果たしたシンと父ギリアムはお互いのこれまでを、ゆっくりと交互に語り合っていく。


 語る中で魔法を覚えたことを伝えて、ドルロと妖精達という友人のことを伝えて紹介して、とにかく溢れ出てくる気持ちと言葉のままに父にこれまでの全てを伝えて……そうやってこれまでの全てを語り合ったシンとギリアムは、落ち着いたからか何なのか、二人同時に腹の奥底からの唸り声を上げてしまう。


 窓を見れば日が沈みかけての夕刻となっていて……ロビンやアヴィアナを待たせていた事に気づいたシンは、大慌てで部屋を出て1階へと駆け戻っていく。


 するとそこにはテーブルについてがつがつと粗野に食事をするロビンと、アーブスと一緒に酒瓶を傾けるアヴィアナの姿があり……そこに駆け寄ったシンは、お礼を言い謝罪をし……ロビンの向かいの席につき、無事に父に会えたこと、いろいろな話が出来たことをなんとも嬉しそうに報告し始める。


 ロビンは「良かったな」と微笑み、アヴィアナは「ふんっ」と鼻息を荒くし、アーブスは「次は俺の番だな」と椅子を蹴倒して立ち上がり……そうして酒場は賑やかに、騒がしくなっていく。


 そうやって笑顔を弾けさせるシンを……二階の廊下から、吹き抜けから見下ろす形となっている廊下から見やったギリアムは、なんとも言えず複雑な表情をする。


 シンはいつの間にか大人になったようだ、成長したようだ。

 魔法でその姿を大きくしているとかそういうことではなく、内面的な意味で、経験的な意味で……既に立派な大人であり、この世界の中を歩き進むことの出来る立派な人物であり……すっかりと父離れを済ませてしまっているようだ。


「ミミミー!」


 そんなギリアムの足元で両手を振りながら声を上げるドルロ。

 そのまんまるの瞳はじぃっとギリアムのことを見上げていて……ギリアムに対し、貴方もあそこに混ざれば良いと、こんな所で立っていてもしょうがないだろうと、そんなことを懸命に「ミミミー!」との声を仕草でもって伝えてくる。


 更に三人の妖精がギリアムの周囲をぐるぐると回って飛んで見せて……シンとの縁のおかげなのか何なのか、妖精を視認出来ているギリアムは、こくりと頷いて弱々しい足取りでもって、階段を下り……シンの側まで足を進める。


 ギリアムとアーブスと。

 ギリアムとアヴィアナと。


 その間はいろいろな壁があるのだろう、いきなりお互いのことを理解し、和解することは出来ないのだろう。


 それでもそこにはシンという、両者にとってのかけがえの無い存在がちょこんと立っていて……シンがそこにいる限り、両者の間が閉ざされることは無いはずだ。


 そうして酒場の夕刻は賑やかなまま夜となり……アヴィアナが作り出した灯火の明かりの中で更に賑やかに楽しげに時が流れていく。


 飲んで食って語らって。

 どれだけ成長したか皆に見せるためにシンが魔法を使い、ドルロがその体を大きく膨らませて……そうして夜が老けたら皆で二階の部屋を借りて、それぞれのベッドに潜り込んでぐっすりと眠って……。


 翌朝。


 目を覚ましたシンが、魔法から開放された元の姿で部屋を出て、顔を洗おうと階段を下っていくと……既に目を覚ましていたらしい大人達の会合の様子が視界に飛び込んでくる。


 昨日の祝宴の影響があるからか、アヴィアナもアーブスもギリアムも……それなりに穏やかにお互いに気遣いながら話し合いを進めていて……そうして結論を出すことに成功したのか、全員同時にこくりと頷き、階段を降りきったシンの方へと視線をやってくる。


「シン、父さんはこのバルトで暮らしていくことにするよ。

 何度か足を運んだことがあって、新しい商売をするツテもある街だからね、ここで暮らしてここで家を立てて……お前が旅から帰ってくることを待っているよ」


 まずはギリアムがそう言ってきて……次にアヴィアナが言葉をかけてくる。


「アタシは全く不本意なんだけどね、仕方なくこの街で暮らすことにしたよ。

 金は十分にあるからね……どこかで良い屋敷を買って、そこで一人静かに暮らすとするさ。

 たまに森にも戻ることがあるかもしれないけど……ね」


 その言葉にアーブスが、俺と一緒に暮らさないのかと、そんな顔をする中……シンは「分かりました」とそう言って頷き……改めての言葉を口にする。


「僕はもう少しだけ旅を続けます。

 ドルロとロビンと妖精達と、見てみたい光景がたくさんありますので……。

 とりあえずは……そうですね、海を見に行ってみたいと思います。

 海を見たらきっと、もっともっといろいろなことを見たくなると思うので、いつここに帰ってくるかは分からないですけど、いつかは帰ってきて……そうしたらウィル様のもとで働いてみたいと思います」


 寝癖のついた髪を揺らしながら、しっかりとした目でそう言うシンの言葉に、父も祖母も祖父も、何も言わずにただただ静かに頷く。


「ミミー、ミミミ! ミミー!」


 その言葉にどんな意味が込められているのか、力強く両手を振り回しながらそう言うドルロに、こくりとシンが頷き返すと……いつの間に側にいたのかロビンと三人の妖精達がシンの肩に手を置くなり、シンの頭に座るなり、シンの寝癖を直すなり、シンの頭上をうろうろと飛び回るなりし始める。


 そうしてなんとも賑やかな空気に包まれることになったシンは、とにもかくにもまずは顔を洗って気を引き締めなければと……酒場の裏手にあるらしい井戸へと足を向けるのだった。



 完



――――あとがきです。


 まだまだシンの旅としては途中も途中ですが、一旦ここで物語を完結させていただくことなりました。

 一旦完結し、誤字脱字、設定ミスなどを修正し……色々忙しいのが落ち着いたらまた続編として、シンとドルロとロビンと妖精達の旅を書きたいと思いっています。


 ……思っているのですが、それがいつになるかは、いついつまでに着手出来るかは、現状お約束できないので完結という形にすることにした次第です。

 ご理解いただければと思います。


 皆様ここまでお読み頂きありがとうございました。

 また続編を書いた時に読んでいただけることを願うばかりです。


♡や☆をしていただくと二人の旅装がちょっと豪華になるとの噂です。

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昔々あるところに一人の少年と、一つのゴーレムがいました。 風楼 @huurou

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