第100話 再会
バルトの入り口での検閲はウィルから貰ったマントがあった為か、パストラー家からの使者という扱いになったようで、馬車内の調査も行われずにすんなりと通れる運びとなった。
当然入り口に立つ騎士達の中には、あのパン屋で一緒に働いた仲の騎士団員がいた訳だが……それでも見咎められることなく、御者に座る青年がシンであると気づかれることなく進むことが出来て……そうしてシン達はまずはウィルからの頼み事を済ませようと、市場へと馬車を進めていった。
街の入り口から続く、馬車用の大通りを真っ直ぐに進んで、すぐの所にある、ウィルから聞いていた商店へと顔を出し、預かっていた小麦粉などの換金を済ませて……それからアーブスがいるだろう、酒屋ホガースへと向かう。
ホガースへと到着したなら裏手へ向かい、そこで馬車を停めて……ロビンに馬車とヴィルトスの世話を任せて、アヴィアナと妖精達と、ドルロを人形のように抱えて酒場の中へ。
以前来たときと変わらない雰囲気、変わらない面々が座す酒場をぐるりと見渡したなら……いつもと同じ席に座っている、青あざだらけの白髭の老人、アーブスの下へと足を進める。
そんなシン一行の姿をひと目見たアーブスは、その目を大きく見開きながら困惑することになる。
トラブルになるからと、魔法でもって隠れてもらっている妖精達の姿はアーブスにも、その場の誰にも見えていない。
シンの姿は青年に見えていて……微動だにしないドルロは陶器の人形のように見えていることだろう。
そしてアヴィアナもまたなんらかの魔法を使っているようで、某かの姿に化けているようなのだが……シン達にはいつもどおりのアヴィアナとして目に映り込んでいるため、何に化けているのかはよく分かっていない。
青年と陶器の人形と、何かに化けているアヴィアナと。
そんな一行の姿を見開いた目で見ていたアーブスは……少しの間があってから声を上げる。
「お、お前、ドルロか!? ドルロなのか!?
てことはお前はシンだってのか!? ば、馬鹿な、こ、こんな短期間でここまで成長するなんてことがありえんのか!?」
その声を受けてシンがどうしたものかと頭を悩ませていると……大きなため息を吐き出したアヴィアナが、アーブスへと声をかける。
「何を馬鹿なことを言ってるんだい……そんなことがある訳ないじゃないか」
その声はいつものアヴィアナの声ではなく、細いガラスの棒をぶつけあったかのような凛と響く声で……その声を受けてアーブスは、更に大きく目を見開いて硬直して……そうしてからその声の主が誰か察したらしく、おたおたと両手を上げて彷徨わせて……分かりやすいくらいに動揺してから、どうにか平静を取り繕いながら言葉を返してくる。
「お、おう、そ、そういう感じか。
な、なんとなく状況は理解したぜ。
……お前がここに来たってことは、アイツに会いに来たって訳だな。
ま……お前にとっては父親だからな、分かる話だ。
……で、アイツが何処に居るかっていうとだ、この酒場の二階の部屋で寝てるよ。
俺とじゃれ合った時に少しばかりやりすぎちまってな、熱を出して寝込んじまってるんだ。
ああ、ああ、安心しろ、骨を折るだとかそこまではしてねぇから、ちょいとカッとなって殴りすぎたってだけの話だ。
……アイツと会いたいなら、奥の階段を上がって二階の最奥の部屋にいきゃぁいい。
……そんでまぁ、アイツとの話が終わったなら、俺とも色々と話をしてくれや」
と、アーブスがそう言うと、アヴィアナは静かにアーブスの対面の席へと座り……シンに行ってこいと、視線でもって語りかけてくる。
それを受けてシンはアヴィアナに向けて頷き……シンにとっての祖父であるアーブスに向かっても頷く。
そうしてから抱きかかえていたドルロをしっかりと抱え直し……緊張やら何やらで震える足でもって二階へと進んでいく。
階段を登り、客室が並ぶ廊下を進み……その最奥にあるドアにそっと手をかける。
「ミミミミー!」
バルトの領主に見つかると面倒だからと、大人しく陶器人形のフリをしていたドルロが、シンを勇気づけるためにそう声を上げる。
それを受けて「うん」と頷いたシンは……ゆっくりとそのドアを開ける。
窓付きのクローゼットとキャビネットのある簡素な部屋。
中央には大きなベッドが置いてあり……そこには毛布に包まる男性の姿があり……シンはゆっくりとそのベッドへと足を進めていく。
部屋に入る際に声をかけるべきかと悩んだが……なんと声をかけたら良いのかが分からず、何も言えずに……静かに足を進める。
本当にそこにいるのは父なのだろうか、やはり父は死んでしまっているのではないだろうか。
そう思いながらベッドの側へと立つと、流石に気配を感じ取ったのだろう、毛布に包まっていた人影がもぞりと動き……ベッドの側に立つシンのことを寝ぼけ眼でじぃっと見やる。
その顔は懐かしき父の顔であり……やせ細り、アザが出来、見栄えは悪くなっていたが、確かな懐かしい顔であり、シンが声をかけようとすると、それよりも早く父の方が声を上げる。
「……シンなのか?」
まだシンにはアヴィアナの魔法がかかっている。
元のシンとは似ても似つかない青年の姿となっている。
それでも父はそこにいるのがシンだと気付いて……そう声をかけてくれる。
その言葉を受けてシンは……感動し、歓喜し、涙し……自分が今どんな感情を抱いているのかも分からなくなり、何も出来ずに立ち尽くしてしまう。
そんなシンのことを見やった父は……上半身をどうにか起こし、そうしてシンのことを力強い腕で抱き寄せるのだった。
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