第四章 モチーフを繋げて、縁取る(3)

 都歩研の活動は、雨で一週間延期になった。その雨の日曜、遥は再び美容室に行き、ボブカットになった髪を茶色に染めた。

 髪型を変えただけで印象は全く変わり、服は同じままだけれど、南そっくりには見えなくなった。

「その方が似合うわよ」

 母は安心したように笑った。これで良かったんだろうと遥も思った。

 軽くなった髪を風がすり抜けるのが、心地良かった。


 水曜の授業で会ったとき、遥は史郎に聞いた。

「あの日、先に帰ったんじゃなかったの?」

 畠野に襲われたとき、史郎が駆け付けてくれたのを不思議に思っていたけれど、聞く機会がないままだった。

 タイミング良く隼人が来てくれたのも不思議ではあるけれど、彼の研究室はすぐ近くだから、偶然通りかかることもなくはない。実際に、隼人はそう答えた。

「帰ったんだけど、駅に行ったら信号故障で地下鉄が止まってて、図書館で時間潰そうかと思って大学まで戻ったんだ。そしたら、遥ちゃんが歩いているのが見えて……」

「え? 私はずっとニカフェにいたよ」

 遥が言うと、史郎は「そうだよな」と首を傾げた。

「なんだかおかしいと思ったんだけれど、追いかけなくちゃって気分になってさ。……声かけても止まってくれないし、走っても追いつけないし。普通じゃないよな?」

「お姉ちゃんだったりして」

 冗談めかして言うと、史郎は複雑な顔をした。否定してはくれなかった。

「ニカフェの近くで見失って、そしたら遥ちゃんがいて、畠野が近づいて行くのが見えた」

「そうなんだ……。あの今さらだけど、ありがとう」

「俺は別に何も……。俺なんかいなくても、先輩がいたらそれで十分だったんじゃない?」

「そんなことないよ。史郎君がいてくれて良かったよ」

「ああ、うん。そうならいいけど」

 メガネを直しながらもごもご話す史郎に、遥は大きくうなずいた。

 その日は、イチカフェでの編み物講習会のあと、史郎はわざわざ榎並駅まで送ってくれた。

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