第三章 色を変える(6)
レストランのあとにさらに足を延ばして、郊外にある大きなショッピングモールに連れて行ってもらった。服や雑貨を瑠依と見てまわるのは楽しかった。姉が生きていたら、きっとこんな風に一緒に買い物できたのかもしれないと考えて、少し感傷的になる。服のテイストを変えてみようと思っていると相談すると、瑠依は熱心に見立ててくれた。お金がなくて買えなかったけれど、参考にすると礼を言った。従姉の買い物に付き合わされ慣れているらしい史郎はもとより、雪哉も平気らしく、誰も咎めなかったため、かなりの時間をそこですごした。
史郎の自宅に戻ったときにはもう五時近かった。瑠依と雪哉は、遥たちを降ろして二人で出かけて行った。
遥はできれば今日中に完成させたかったため、もう少しだけ編み物をやらせてもらった。残っていたのは最後の一段だったのだ。黄色の毛糸で縁取る、引き抜き編みとピコット編み。
「そういえば、夏子さんからメールが来たよ」
遥は、ピコット編みからの連想で思い出して史郎に言う。
「ホワイト・ピコの?」
「うん。あのとき渡したお姉ちゃんの編み図のモチーフ、夏用のストールにして私に送ってくれるって」
「へー、届いたら俺にも見せて」
「もちろん。たぶん月末くらいだと思う。私の誕生日にくれるって言ってたから」
南がSNSで、妹の誕生日の話を投稿していたのを、夏子は思い出したと言っていた。大学の友人も知らなかったアカウントで、遥のことを話題にしていてくれたことがうれしい。
「いつ?」
「え?」
史郎に突然聞かれて、遥は振り返って聞き直す。
「遥ちゃんの誕生日、いつなの?」
「六月二十九日」
「二週間ちょっとか……」
「そうだね……」
遥は自分の誕生日に、少し複雑な思いを抱いていた。今年、姉と同じ年齢になってしまうのだ。
「もし、俺が何か編んでプレゼントしたら……どうする?」
史郎が言いにくそうに、視線を逸らして聞いた。物思いに沈みそうになっていた遥は我に返る。
「えっ! うれしい! わぁ、ホントに?」
「遥ちゃんが嫌じゃないなら」
「全然。すごいうれしい!」
「そう。ならいいけど」
史郎はメガネを直して、もごもご言った。遥は編み物を再開しながら、
「誕生日、楽しみになってきた。良かったー」
「なんで? 楽しみじゃなかったの? そういうイベント好きそうなのに。……遥ちゃんってもしかして浪人した? 現役だよね?」
「うん。現役だけど?」
「いや、一浪したら二十歳だから、そういうことかと」
「あー。違う違う」
遥は少し笑ってから、
「十九になったら、お姉ちゃんと同じ年になっちゃうから。追いついちゃうなーと思って」
「ああ。なるほど」
気を使わないでと言ってから、こういうタイミングで史郎が謝ることはなくなった。遥は気楽に話ができる。――思えば、里絵奈もそうなのだ。南のことを話しても、遥をかわいそうがらなかった。それが心地良かった。
「でも、来年は追い越しちゃうんだよね」
「仕方ないよ」
史郎が淡々と言う。なぐさめるのとも少し違った。ただ当たり前のことを告げているだけのようなその言葉は、すとんと遥の中に落ちる。
「そうだよね。仕方ないよね」
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