第三章 色を変える(1)

 浜崎美咲はまさきみさきは、柘植遥つげはるかのことを気に入っていた。

 恋愛感情とは少し違うかもしれないけれど、友情とも少し違う気がした。具体的に言うと、遥とは積極的に恋人になりたいわけでもなく、自分としては異性の恋人を作りたいと思っていて、それでも遥に仲のいい男ができたら気に食わず、万が一、遥が希望するならキスでもそれ以上でもできる気がする、という感じだ。――自分でもよくわからない。

 山茶花さざんか女子大学の美咲が新山にいやま大学のサークルに入ったのは、友人に誘われたからだった。その友人は駅前でビラをもらったと言っていた。特徴を聞いたところ、配っていたのは牟礼隼人むれはやとだと思う。彼女の好みの容姿だったんだろうけれど、今年六年生だという先輩はさすがに滅多にサークルに顔を出すこともなく、がっかりした友人はゴールデンウィークの活動以降来ていない。一方で、美咲は平日の放課後もしょっちゅう新山大学に通っていた。

「土曜日、和田君と二人で出かけたんでしょう? どうだったの?」

 今日は週明けの月曜。その土曜はおとといのことだ。

 新山大学のカフェはいくつかあって、いつもサークルで集まるのは古くからあるカフェ一号館、通称「イチカフェ」だった。今日は、美咲と遥と逸見里絵奈へんみりえなだけだったから、山茶花女子大学に近い方にあるカフェ二号館、通称「ニカフェ」に来ていた。ここからだと榎並えなみ駅まで遥と一緒に帰れる。

 美咲が聞くと、遥は「楽しかったよー」とにっこりと笑って、鞄から小さな紙袋を取り出して美咲と里絵奈に配る。

「おみやげ」

「嘘、何?」

 早速開けると、中から出てきたのは、クロワッサンの柄のマスキングテープだった。

「ありがとう!」

「へー、かわいいね」

「これも手づくり?」

 ハンドメイドのイベントに行ったのだと聞いた。――和田史郎わだしろうと二人きりで。

「イラストは作家さんが描いたものだけど、マスキングテープはさすがに業者に頼むんだって」

「作ってくれる会社があるの?」

「その辺の店で売ってるのはどこかで作ってるんだからあるでしょ?」

「でも、それは頼む方も会社じゃん。個人で作れるものなの?」

 里絵奈に反論してから遥に聞き直すと、遥はうなずいた。

「個人でも作れるんだって。でも、やっぱりある程度の数を注文しないとならないみたい」

「十個二十個じゃだめってこと?」

「うん。なくはないけど割高になるって」

「へー」

 感心して相槌を打ちながら、史郎から聞いた話なんだろうなと思うと、やっぱりおもしろくない。だから、美咲は話題を変えることにした。むしろ美咲にとっては今日の本題だった。

「来週うちの大学祭でしょ。ねえ、二人とも手伝いに来れない?」

「手伝いって?」

「模擬店やるんだけど、人数少なくて困ってるんだ」

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