第二章 同じモチーフ、違うモチーフ(7)
夏子がブースに戻って行ったあとも、遥はしばらく座っていた。史郎は遥を急かしたりはせず、黙って付き合ってくれた。
「お姉ちゃんのことは、知らないことばっかりだなぁ……」
「五歳差だっけ?」
「うん」
「そのくらい違ったら、仕方ないんじゃない? 子ども相手に、なんでもかんでも話したりはしない」
「そうかな」
「そうだよ。俺と瑠依ちゃんが六歳差だけど、いつまでも子ども扱いだよ」
自分に置き換えた話をするのは珍しく、遥は顔を上げて史郎を見た。
「子ども扱い、嫌なの?」
「普通、嫌だろ」
「ふうん」
それは、何だろう。弟分じゃなく男として見られたいというような、あれだろうか。
遥が妄想を膨らませかけると、史郎はそれに気づいたように、先んじて否定した。
「変な意味じゃないから」
「わかってるって。瑠依さん美人だもんね」
すらりと細身でスタイルが良くて、ファッション雑誌に載っていそうな仕事ができるOLといった雰囲気だった。さばさばとした話し方も心地良く、どことなく雅恵に似ていた。
自分と比べそうになって、遥は首を振る。
「それ、ちっともわかってないだろ」
ため息をついた史郎は立ち上がる。
「端から見ていくつもりなら、そろそろ行かないと時間なくなる」
「うん、そうだね」
遥も立ち上がると、史郎は片手を差し出した。
「混んでるから、はぐれないように」
「え?」
「子ども扱い」
そう言って遥の手を掴む。史郎は即座に身を翻して歩き出すから、表情がわからなかった。
「子ども扱いなの?」
くすくす笑いながら、遥は「確かに、嫌かも」と小さくつぶやいた。史郎の手は大きくて硬くて、自分の手とは全然違った。空いている方の手で熱を持つ頬を押さえ、振り返らないで欲しいな、と遥は思った。
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